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翔汰「パフェ、食べに行こ」

とある放課後のことだった。 葵は翔汰に誘われて、リクの父親が経営するレストランチェーンのカフェに立ち寄った。もちろん田中と井上も一緒だった。満席かと思ったが、窓際の四人掛けの席が空いているということで、さすがは強運の持ち主と、葵一人で翔汰をからかった。田中と井上は二人の側で息を潜めて立っていた。席へと案内されるあいだも、ふざける二人の後ろで縮こまり、目立たないようしずしずと歩いていた。 田中と井上にはわかっていたのだ。葵は否応なしに目立つが、誰も目を向けない。人の視線が及ばない隙間を歩く葵の背中にへばり付いてさえいれば、見咎(みとが)められることはない。女子の匂いでむせ返るカフェの中を、男四人で歩くのは、色気付き始めた二人には小恥ずかしくもあったのだ。 席に着いて注文したのは、期間限定イベントのフルーツパフェだった。数種類のフルーツパフェが用意され、どのフルーツに当たるのかは注文してのお楽しみになっている。全種類を写真に撮ろうと、スマホ片手に通い続ける(つわもの)がいると聞くが、中々難しいようだった。その期間が終わろうというのを知り、慌てて来たのだから迷いはない。 パフェがテーブルに運ばれて来ると、田中と井上が〝イチゴ〟と低く呟いた。同時にもじもじし始めた。イチゴは最高級品というだけあって、当たりの悪いパフェと評判だった。翔汰の強運がここでも発揮されたことになるが、田中と井上的には外れだったようだ。見詰め合い、揃って溜め息を吐いてもいる。 二人の様子に、翔汰が小首を傾げた。すぐに何か閃いたようで、ニコッとし、スプーンを取る手も楽しげだった。 翔汰「そう言えば、篠原君は田中君と井上君の名前、知らないよね?」 田中「……」 井上「……」 葵「おいおい、二人ともどうした、揃って真っ青になってんなぁ……って、ああ、そうか、あんたらの名前、委員長がどうのっつたけど、気にしてんのか?」 翔汰「えっ?篠原君、僕、二人の名前、教えてないよね?僕に内緒で二人に聞いたの?なのに黙っていたの?」 葵「はあぁ?委員長さ、この二人だぜ、黙ってたも何も、最初から教えてもらおうなんて思わねぇよ」 翔汰「やっぱり、僕がいないところで聞いたんだ!」 葵「だからさ、名前がおんなじってのを、教えてもらうまでもねぇ……」 翔汰「ひどいよ、僕、びっくりさせたかったのに!」 葵「いや、だから、その……名前がおんなじってのは、わかり切ったことだと……」 翔汰「篠原君!僕、怒ってるよ!プンプンだからね!」 葵「はあぁ?俺はだなっ!……っと、いや、ああっと、うん、だな、俺が悪かった」 誠心誠意、葵は謝った。何に謝っているのかもわからないままに、心を込めて謝罪した。長く腹を立てていられない翔汰は、すぐに機嫌を直した。その瞬間、葵と翔汰の言い合いを無視するように、ただ黙って黙々とパフェを食べていた田中と井上の手が止まり、同時に揃って人気ゲームの攻略を熱く語り始めた。珍しいことに、二人は長舌な翔汰を黙らせる程に多弁だった。 後日、葵が翔汰に、改めて田中と井上の名前について尋ねたことを、二人は知らない。 翔汰「イチゴだよ。同じだから、名前で呼び合えないんだ。だけど、なんでかな?二人の名前、都悟って書くんだけど、学園のみんなはトーゴって思ってる」 葵はにやつき、仲良し三人が名字で呼び合う本当の理由を理解した。

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