14 / 43
第14話 王子、犬に手を噛まれる(2)(*)
「なんだか……夢見てるみたいです。あなたと、こうしてる、なんて……」
身体を拭いてやり、セミダブルベッドに斑目を仰向けに寝かせた。天井を向いている屹立を、恥ずかしそうに伊緒の視線に晒している斑目を見るのは、胸がすく光景だった。
「夢でも何でもない。大人しくしてたら、天国へ連れて行ってやるよ」
ゆっくりと斑目の腰を跨ぎ、伊緒は斑目に向かって身体を伏せた。すぐ近くに髭の伸びかけた斑目の顎があり、そこに口付けるとクシャリとまた髪を触られる。優しく、あやすような指遣いが辿々しく繰り返される。
「……先輩……」
泣きたくなるようなあえかな声で、斑目が呼びかける。
伊緒はその声に溺れるまい、と気を引き締め、リードを引き、耳元で囁いた。
「従順な奴は好きだ」
「伊緒、先輩……っ」
「我慢のきかない駄犬は嫌いだが、お前は見所があるよ。夏日」
他の男の影をチラつかせると、斑目は苦しげな表情をした。
「伊緒、先輩、って……」
「希でいい。何?」
腹に煮えるものを抱えたような声で、斑目が問いかける。
「童貞狩りみたいなことしてるって、本当なんですか」
「誰に聞いたんだ?」
「……」
「ま、いい。俺だって選り好みぐらいするさ」
「俺は、選ばれたと思っていいんですよね……?」
伊緒が無言のまま笑いかけると、斑目はつらそうに頬を染めた。
「俺は言うことを聞かない駄犬が大嫌いだ。わかるだろ?」
「わかり、ます」
もし、泣かれたら、途中でやめることを考えなかったわけではない。互いに社内で毎日顔を合わせるのに、これ以上進むのはまずいかもしれないとチラリと思いもしたが、胸の奥に空いた空虚な穴が、そういった人がましい感情を吸い込んでいく。
「お前が、そんな顔するから、食いたくなる」
「あげます、全部。あなたに……希先輩」
斑目が、火照って顔を晒して、伊緒の髪を梳いた。
「だったら、俺の好きにさせろ、夏日。……食わせろ、童貞」
ともだちにシェアしよう!