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第14話 王子、犬に手を噛まれる(2)(*)

「なんだか……夢見てるみたいです。あなたと、こうしてる、なんて……」  身体を拭いてやり、セミダブルベッドに斑目を仰向けに寝かせた。天井を向いている屹立を、恥ずかしそうに伊緒の視線に晒している斑目を見るのは、胸がすく光景だった。 「夢でも何でもない。大人しくしてたら、天国へ連れて行ってやるよ」  ゆっくりと斑目の腰を跨ぎ、伊緒は斑目に向かって身体を伏せた。すぐ近くに髭の伸びかけた斑目の顎があり、そこに口付けるとクシャリとまた髪を触られる。優しく、あやすような指遣いが辿々しく繰り返される。 「……先輩……」  泣きたくなるようなあえかな声で、斑目が呼びかける。  伊緒はその声に溺れるまい、と気を引き締め、リードを引き、耳元で囁いた。 「従順な奴は好きだ」 「伊緒、先輩……っ」 「我慢のきかない駄犬は嫌いだが、お前は見所があるよ。夏日」  他の男の影をチラつかせると、斑目は苦しげな表情をした。 「伊緒、先輩、って……」 「希でいい。何?」  腹に煮えるものを抱えたような声で、斑目が問いかける。 「童貞狩りみたいなことしてるって、本当なんですか」 「誰に聞いたんだ?」 「……」 「ま、いい。俺だって選り好みぐらいするさ」 「俺は、選ばれたと思っていいんですよね……?」  伊緒が無言のまま笑いかけると、斑目はつらそうに頬を染めた。 「俺は言うことを聞かない駄犬が大嫌いだ。わかるだろ?」 「わかり、ます」  もし、泣かれたら、途中でやめることを考えなかったわけではない。互いに社内で毎日顔を合わせるのに、これ以上進むのはまずいかもしれないとチラリと思いもしたが、胸の奥に空いた空虚な穴が、そういった人がましい感情を吸い込んでいく。 「お前が、そんな顔するから、食いたくなる」 「あげます、全部。あなたに……希先輩」  斑目が、火照って顔を晒して、伊緒の髪を梳いた。 「だったら、俺の好きにさせろ、夏日。……食わせろ、童貞」

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