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第15話 王子、犬に手を噛まれる(3)(*)

 身体を重ねるなんて、馬鹿でもできる。  だが、斑目と肌を合わせながら、実際にやるのと想像するのじゃ、百倍違うことを伊緒は噛み締めていた。  斑目の身体にキスをするたび、長い腕が伊緒の肌をなぞる。こうでもしていないと飛びそうで、と言われて好きにさせたが、その実、触れられるたびに皮膚を灼かれるようで、伊緒の方が飛びそうだった。伊緒が触れるたびに、昂りを隠せない様子で、太腿に臨戦態勢の斑目が当たる。鎖骨に噛み付いて声を上げさせると、腰にきた。普段なら、適当に愛撫してすぐに挿入するが、斑目の勃起したものを見てしまうと、入念な準備が必要だと考え直した。 「そこで、大人しく見てろ……」  ベッドサイドの抽斗からジェルを取り出すと、伊緒は手早く自分の下肢に指を這わせ、準備を整えてゆく。事務的にやっているつもりでも、斑目の身体を目の当たりにすると、興奮が抑えられなくなりそうだった。それでも顔を伏せて内部を弄っていると、感化されたのか何なのか、斑目の手がそっと伸びてきて、不意に伊緒の唇を拭った。先ほど吐き出した名残りでも付いていたのだろうか。そんなに物欲しそうな目で見るな、やりづらい、と主張したかったが、自分をコントロールするだけで精一杯で、性急に下準備を終えると、伊緒は斑目の雄芯へと腰を下ろした。 「ん……っ」  先端がやたらと大きくて、入れる前に心の準備が必要だった。伊緒は後蕾に斑目の剛直を擦り付け、尾てい骨にカリの先を押し付けると、そのまま腰をくねらせた。ぬち、にちゃ、と斑目の先走りとジェルの混じった音がする。斑目の噛んだ唇から、苦しげな声が漏れた。 「もうこんなにして、悪い犬だな」 「あなたが、誘うから……」 「童貞らしくていいな」  上ずった声がいかにも斑目らしくて、揶揄する声が震えるのを、伊緒は必死で抑制した。 「童貞、童貞って、そこは強調しなくても、よく、ないですか……っ?」  眉を寄せる斑目が、シーツを掴むのが視界の端に見えた。 「本当のことだろ。それに童貞ってのは俺にとっちゃ、ブランドだ」 「童貞卒業しても、あなたと寝たいです」  まだ最後までしてもいないのに、何を言っているのかと思ったが、可愛げのある顔を苦悶に曲げて主張するのは悪くなかった。 「いい子にしてたら、考えてやるよ」  心臓に打ち込まれた弾丸をさらりと躱すふりをして、尻のあわいに斑目を擦り付けて、挿入の決意を固める。何度か往復しているうちに、長い腕が伸び、斑目が伊緒の中心を捉えた。 「触っ、ても……?」  急所を掴まれても嫌な気持ちがしないのは、明らかに相手が斑目だからだった。可愛げというのは仕事の時ばかりじゃなく、こういう時にも威力を発揮するのだ。 (そして、こいつには可愛げが溢れるほどある……)  伊緒が斑目の硬い茎を支え持ち、扱くと、そこはビクビクと痙攣した。一度出しただけではまだ足りないと、全身で主張している。 「まだ、出すなよ。俺が食うまで、いい子にしてろ」 「は、い……っ」  奥歯を噛み締めた斑目の歪んだ表情に満足し、伊緒はそのままそろりと腰を下ろしはじめる。 「希、せんぱ……っ」 「出すなよ、まだ、入れてない……っ」 「わ、かって……」  ます、という声が、欲情にひしゃげていた。

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