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第27話 駄犬、落ちぶれ王子の過去を知る(1)(*)

 言ってしまった。  斑目の告白を聞いたあとで、黙っていることなどできなかった。次に裏切られたら、心が生き残る道はないだろうとわかっていながら、この男に賭けてみたくなるのは、どうしてだろう。最低最悪な自分を晒して、いったい斑目に何を期待しているのか、伊緒自身にもわからなかった。  ただ、もう疲れた。  壁を崩したくなった。 「何で俺がテニサーからドロップアウトしたか、誰かから聞いてないのか?」 「いえ」  自分の発する言葉が、伊緒にはやけに遠く聞こえた。 「そうか……。ま、噂になってたら、今頃あいつの社会生命も終わってるだろうからな」  ひとまず、少なくとも斑目の周囲では、あの事件が噂にすらなっていなかったことを確認して、伊緒は安堵の溜め息をついた。逆に斑目は動揺して、伊緒の指をぎゅっと引きながら締め付けてくる。 「あいつ、って誰ですか……? 何か、あったんですか。あったんですね……? 俺が、あなたに初めて話し掛けた時ですか?」 「もう少し前だ。俺が二年の夏」  この話をしていいのか、まだ伊緒には判断がつかなかった。もし誰かに話したら、報復されるのではないか、と未だに怯えている自分がいることを、その時になって初めて自覚する。 「話してくれませんか」 「ここじゃちょっとな」 「じゃ、今夜──」  斑目は約束を取り付けると、伊緒の気が変わらないうちにと思ったのか、伊緒のことを促し、さっさと会議室を出ていった。 *  伊緒が大学のテニスサークルで二度目の夏を迎えた頃、三年生の同性の先輩に恋をしていることを、知る人間は誰もいなかった。  逢い引きすら、息をひそめるように慎重だったことを今でも覚えている。  男同士だったから、人目を避けるのは、それだけ本気である証拠だと、若い伊緒は愚かにも信じていた。しかし、想いを遂げたその後、それは悪夢に変わった。  最後の想い出にしよう、と言われ、初めて情事が終わったあと、ラブホの部屋に誰とも知らぬ男が四人、呼び出されて入ってきた。三年の先輩の、そのまた先輩だと言われたが、おそらくOBだろう、大学では見たことのない顔だった。わけがわからず身体を隠す伊緒に向かって、男は「さっきまであんなによがってたくせに」と笑い、信じられないことを言ってきた。

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