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第28話 駄犬、落ちぶれ王子の過去を知る(2)(*)
「いい具合ですよ。誰からします?」
男が四人に言った。仲間の一人が志願すると、疲れて動けない四肢を押さえられ、順番に男たちに入れられていった。
抵抗しようにも、身体は初体験のあとでボロボロで、ろくに力が入らなかった。暴れようとする伊緒を押さえ込んだ四人が、笑っていたのをよく覚えている。勃起しないと、それを揶揄され、「俺の時と同じように感じろよ。その方が締まって面白い」と急所を掴まれ強要された。
嘲笑の声。
向けられるスマホのレンズ。
ひたすら痛みだけを感じる性交。
体液の気持ち悪さ。
ことが済み、男たちが全員満足すると、足腰の立たない伊緒をベッドに放ったまま、彼らは酒盛りをした。煙草とアルコールの匂いに、男というものに対する嫌悪感が募った。
思わず伊緒が詰ると、合意の上だろうと言われた。
自分を弄んだのか、好きだと思っていたのに、どうして。
上げた声に爆笑が返ってきた。首謀者の三年の男は、「男とヤるなんて、排泄行為でしかないだろ」と吐き捨て、もしも誰かに一言でも漏らしたら、ネットに動画を拡散すると脅された。
以来、伊緒はテニスサークルに通うのを止めた。
想いが受け入れられ、嬉しいと思っていた、浮かれていた自分のあさはかさが、ひたすら愚かで痛かった。
男はその後、インターン先で有望株だと言われ、何年か教育したあとは、経営学修士号取得のため、アメリカに留学予定だと噂されるようになった。
伊緒は、馬鹿みたいだ、と思った。男性同士の恋愛など、男にとってはただの遊びで、負担でしかなかったのだ。
「誰かに……」
斑目の声と、カロン、とウィスキーグラスが鳴る音で、伊緒は過去から今へと戻ってきたことに気づいた。
「学生同士とはいえ、大人の恋愛で、合意だと言われたら終わりだ。どちらにしろ、何も言えなかった。泣き寝入りさ。ま、そのあと何度か声を掛けられて、俺が刺し違えてでもバラすって言ったら、誘ってこなくなったけどな」
酒を飲みながら、伊緒は斑目にそんな話をした。
「悪かったな。俺はお前が思うほど、きれいじゃないんだ。薄汚れてる。お前とは、そうなりたくないと思ってたはずだったんだが」
「希先輩……」
「俺は、排泄場所だった」
でもそれは、自分が選んだことだった。知らなかったとはいえ、今思えば、奇妙な点がいくつも目に付いた。全部、恋の盲目のせいで、周りが見えなくなっていたのだ。あさましく、弱く、愚かな自分の、人を見る目のなさが引き寄せた事件だと思った。
だから……。
そこで意識が途絶えた。
泣いたような気がするが、よく覚えていない。
最後に見た斑目は、ウィスキーグラスを両手で掴み、じっとその氷に視線をやっていた。
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