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第42話 恋する犬の躾けかた(1)
「腹、減ったな……」
ぽつりと呟くと、斑目が同意した。
「ベッド、出ていいなら、何かつくりますよ」
「……ってか、俺もいく」
下着だけ穿いて、斑目の家のキッチンへと二人で向かう。赤い首輪に付いたリードを引きながら、ちょっとしたお散歩気分だと伊緒は思った。なぜか斑目とする時はこのスタイルが定着し、年越しをするに至り、首輪は少しだけ使用感が出てきていた。
斑目が土鍋に昆布を放り込んで、米と水を足し、炊く。その間に浅漬けを用意して、最後に卵を二つ割り入れると、お粥と漬物をダイニングテーブルに並べた。
いい匂いに心が躍る。セックスのあとは関節のあちこちにガタがきて、サスペンションが効かなくなるが、あれだけ深く長く交わったのに、痛みはなかった。毎回、斑目が大事に抱いてくれているせいだと伊緒は思う。
「あの、目に毒なんで、何か着てもらえませんか」
「え? ああ……」
セックスしている最中は気づかなかったが、そこら中、傷だらけだった。この犬には噛み癖があることを、毎回忘れて普通に交わってしまうせいか、意識すると途端にあちこちがヒリヒリし出した。
斑目のTシャツを渡され、それで上半身を覆うと、二人でいただきますをする。
「新年おめでとうございます」
「おめでとうございます」
そう挨拶して、レンゲを二人で持ち上げると、あとは食い気だった。とろりとした米は、微かに甘くて美味しい。斑目とこうして共に夜を過ごすし、朝を迎えるのは、もう何回目になるだろう。
「あ」
「ん?」
「またゴム使うの、忘れました」
犬のしょげた顔で言われて、伊緒は思わず吹き出した。毎回、セックスをする日はコンドームを購入するが、いつも性急に求めあってしまって、あとから気づく。そして、未開封のゴムばかりが溜まっていくというおかしな循環が出来上がっていた。
「希さん、大丈夫ですか?」
「問題ない。ナマの方が気持ちいいし」
しれっと飯を食い終わると同時に言うと、斑目はちょっと頬を赤らめた。
「っそういうこと、こういう時に言わないでください」
「何で?」
「困るからです」
「何が?」
「知ってるくせに……」
伊緒は斑目が箸を置くのを見て、リードを軽く引いた。斑目は伊緒に促されるようにして、席を立ち、テーブルを回り込んで伊緒の前に跪く。
「ステイ」
言いながら、斑目の脚の間につま先を潜らせ、勃起しているかを確かめると、そこは布地を押し上げ、硬くなっていた。
「っ……希、さん……っ」
「お前は真っ白で、俺だけのものなんだな」
伊緒は思わず笑みを浮かべ、脚を引いた。その膝に、斑目がくちづける。
「あなただって、真っ白みたいなものだったじゃないですか」
「え、どこが……?」
「俺に言わせれば、遊んでたわりに未開発で、俺で気持ちよくなっちゃうあたり、きれいなもんですよ」
「そんなこと……」
「あります。この間も言ったけど、あなたはきれいだし、これは愛の行為です」
力説され、鋭く睨まれて、伊緒は赤面した。こんなお遊びみたいな主従関係が愛の行為なのだろうか。斑目はそうだと言うが、伊緒にはわからなかった。
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