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第2話

 朝起きたら、身体は綺麗にされている。  男が鼻歌を歌いながら、炊飯器のセットをしている。  意外に歌が上手い。  歌は英語なのはわかる。  そして、古い歌なのも。  なんで、サムクックなんだよ。    俺は下町の食堂の息子で、お客さんに可愛がられて育ったので、その一人からそういう音楽もおしえこまれてる。  だから歌詞もしってる。  低いバリトンが歌う。  お前が名前を呼んでくれたなら、走ってお前の元に戻ってくると。  古い切ない、ラブソングだ。  歌えるんだな、と知ったのは最近で。  男と暮らしはじめて数ヶ月。  名前も知らないこの男についてそれでも知り始めている。  名前はって聞いたんだよ。  一応。   「お前」じゃあんまりだと思って。  「お前に嘘はつきたくないし、お前が俺の名前のいくつかを知ったなら面倒なことになるから言えない」  と男に真顔で言われた。  名前を知っただけで面倒になるってお前、どんな過去を生きてるの?  そうまで言われて知ろうとは思わなかった。  元々俺は名前にはこだわらない。    飼ってた愛犬の名前も「犬」だったからな。  いいや。   「お前」で。  いつか名前が必要になったらそん時に考えようって・・・なんコイツがずっといることにしてんだ、俺は。  俺はたまたまこの男と乗り合わせたバスで山崩れにあった。  バスは潰れ、助かったのは俺とこの男だけだった。  俺は挟まれていたこの男をバスの炎上から助けたのだ。  そこで。  そこで。  なんでだかわからないけれど、この男は俺に惚れたのだ。  家に押しかけてきて、「オレはお前のものだ」といいはって帰ってくれないんだよ。  居着かれてるんだよ。  逃がしてくれないんだよ。  しまいにゃ、布団の中にまで潜り込まれて、毎晩毎晩喘がされてんだよ。  わけわかんないんだよ。  わけわかんないんだよ。  俺だってなんでこうなったのは全然わかんないんだよ。    でも、気持ちいいし、一応最後までされてないし、まあ、いいか、なんて全然良くないのにそうなってんだよ!!  巨体の半身タトゥーだらけの男だぞ?  どうせなら、あなたのものよって来てくれるのなら、可愛い女の子じゃない?  この場合?  でも、なんだか、数年前まで飼っていた、元野良犬の俺の愛犬を思い出させるこの男を、俺は受け入れて。  受け入れてしまってるんだ・・・。

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