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第8話

 犬と帰る途中の公園で、同じクラスのフワが虐められてた。  一つ上の学年の連中に。  フワ。  長くのびつぱなしの天パの髪。  酷く痩せていてチビだった。  今ならわかる。  フワは虐待をうけていた。      それを疑っている大人も沢山いたと思う。  でも。  見てわかる範囲ではギリギリだったのだと思う。  身体に傷はみあたらなかったし、髪は伸ばしっばなしでも服や身体は綺麗だった。  フワは大人しくはあっても、それなりにクラスメートとも上手くやってた。  何かがおかしいと思っても。  疑っても。  具体的な何かがなかったのだ。  そして、フワは虐められていた。  一部の子供達に。  何の後ろ盾もない子供だと子供達が知っているからこそ。  「虐めても怒られないヤツ」を子供達はすぐにかぎ分ける。  子供は残酷だからだ。  だから、その日も虐められていた  フワのリュックを(ウチの地元は小学生はランドセルorリュック)取り上げて上級生達はキャッチボールをしていた。  「返してぇ・・・返してぇ・・・」  フワは飛び回るリュックを必死でおいかける。  「オラっ」  「ホラ」  「取ってみろよ」  上級生達は笑ってる。  冗談。  冗談のつもり、おふざけのつもりなのだ。  これが、他の子だったらしない。  先生や親が怒ってきてくれる子だったなら。    例えば。   バリバリのヤンキーだった俺の両親とかみたいな親がいる子供とかには。  オヤジは俺にも叱るが、他人の子供でも容赦しないからな。  フワは。  親も教師も。  気にかけてないから。  それは知ってた。  全員のターゲットになるタイプのイジメじゃない。  フワが受けているイジメは。  コイツは虐めてもバレない、それをかぎ分ける、クソみたいな連中がするイジメだ。        許せねぇ。    俺はすぐに走った。  犬も後に続く。  俺は走った助走で思い切り跳び蹴りをランドセルを持っていた上級生にかました。  上級生はふっとんだ。  そして、リュックも。  フワは夢中でそのリュックをキャッチした。  俺は止まらない。  他の上級生、3人を反撃されないうちに襲いかかった。  脚にローキックを入れる。  これ、立てなくなる。  俺はお客さんの空手道場の先生にローキックを習ったのだ。   ちゃんと体重をのせたローキックは子供でも、大人に効く。  子供同士だったら。  すぐには立てない。  上級生達は地面にうずくまった。  犬は俺の隣りで唸る。   俺がしつこく教えているので、人を噛むことはないが、オレンジ色に燃えるその目と、牙は大人でも恐ろしい。  子供ならなおさら。  「狂犬の飼い主だ!!」  上級達がさけんだ。  自分が犬の付属品になってることを知ったのはこの頃だ。  犬のが有名。    俺はあくまでも犬の付属品で、この辺の小学生に犬は恐れられる存在になってた。  俺と、俺の友達連中以外は。  上級生達は悲鳴をあげた。  そして、ヒョコヒョコと足を引きずり逃げて行く。  俺に背中に跳び蹴りかまされた上級生も。  フワが弱くて、フワのために怒る大人がいないからイジメていたような奴らだ。  反撃されたなら、泣いて逃げる。  フワはリュックを抱きしめて泣いていた。  「フワ!!」  俺は駆け寄る。    「  」  フワは俺の名前を呼んだ。  俺は小さなフワを抱きしめた。  小さな妹にそうするみたいに。    フワは抱きしめると一瞬怯えたように身体を強ばらせ、でも次の瞬間抱きついてきた。  犬が俺のそばで唸ってる。  俺が自分以外を抱きしめているのが気に入らないのだ。  犬は小さな妹にでも嫉妬する。    「良くあるのか」  俺は怒りながら聞く。  フワが首を横に振ったから、良くあるんだと思った。  フワみたいな子は自分からは訴えない。    絶対に。  「アイツらに次にリュック取られたら俺を呼べ。俺んちの食堂そこだから、呼びに来い、取り返してやる」  俺はフワに言った。  何も言わないフワにさらに言う。  「俺が取り返してやる!!」  フワを妹と同じみたいに思ってたんだと思う。  俺なら何でも出来ると信じて何でも訴えてくる妹みたいに。  そして、妹の前でなら何でもできると思えるあの万能感みたいなのをフワにも俺は感じていたんだと思う。  そんなわけないのに。  俺はちっぽけな子供でしかなかったのに。  「ありがとう・・・」  小さなフワは妹と同じで、俺の腕の中で泣いたのだった。  犬だけが気に入らない様子でそれを見ていた。  でもフワは知ってた。   俺が子供に過ぎないことを。  でも。  フワは俺にありがとうと言ったんだ・・・                

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