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第10話
「寒気がするんだ。風邪かな」
内藤が言った。
「奇遇だな。俺もだ」
俺も言った。
何だろう。
背中から重い何かがのしかかってくるような。
目に見えない重さ。
背筋に寒気さえ感じる。
やだな。
風邪?
いつも内藤といるから二人で風邪引いたのか?
男の唸り声が聞こえた気かしたけど、さすがに気のせいだろう。
男は家を出る前にゴネまくったのだった。
説得が大変だった。
内藤と俺はフワに誘われたパーティーみたいなのに向かってた。
コンパかと思って断ったんだ。
色々面倒くさいから。
そりゃ、俺だって。
可愛い彼女が欲しい。
欲しいよ。
でも。
あの男がいるし。
アイツ妬くし。
女の子に何かあったらだめだし。
久しぶりの幼なじみとハグするだけであれなんだから。
「違うよ。お前にだったら個別で女の子紹介するけど、そういうのじゃなくて、未来のための人脈作りみたいな。就職活動の一環だと思ってよ」
フワは笑った。
再会したフワの金持ちっぽい姿に俺は驚いていた。
良いとこのお坊ちゃん風だったから。
フワの母親はホステスだった。
稼ぎはどれだけあったのか知らないが、フワをみすぼらしくはしてなかったが、それほど手をかけてなかったのは間違いない。
着ていた服も、俺と同じで、下町の子供らしい恰好だった。
派手で安っぽい。
だが、今のフワは。
完全無欠のお坊ちゃんだ。
家庭教師がいてピアノとか習ってて、中高一貫の私立校に行ってそうな。
「今、お母さんと、暮らしてるのか」
それはないと思ったから言いにくそうに言った。
俺を抱きしめてひとしきりないたフワは、ゴメンね、と笑いながら俺達とベンチに腰掛けた。
それだけでも人の目が集まる。
あのイケメンに抱きしめられて、あのイケメンを泣かしてたあの平凡男は何?
俺も見られている。
汗がでた。
こんな風に注目なんか浴びたことがない。
「母さんとはあれ以来あってないよ。この恰好だろ?ボク、自分で稼いでるんだ。結構稼いでる。今ボクね、自分で事業をしてるんだよ」
フワは笑った。
昔の、怯えた顔から小さな花がさくようにする笑顔ではなかった。
人の目を集める華やかな笑顔だった
俺は、昔のフワの笑顔が好きだったけど、フワが笑えてるんならいいと思った。
「俺、子供だった。ゴメン」
俺はずっといえなかったことを言った。
俺ではフワを本当には助けられなかった。
フワがあの後どうなったかも知ることかできなかった。
「・・・君はボクを助けてくれたじゃないか」
フワの目が細められ、それは昔のフワの笑顔に重なった。
「俺じゃない。犬だ」
俺は訂正する。
「そう、君と犬。犬は君のためにボクを助けた」
フワも訂正する。
「犬はどうしてるの?連れて来てるんだろ。君が実家に犬を置いてるはずがない」
フワは聞いた。
「・・・・」
俺は少し黙った。
いない、なんてな。
お前かいない生活なんてな。
でも、そうなんだ。
「死んだよ。病気で。2年前」
ちょっと涙ぐんでしまう。
フワは知ってる。
俺と犬は。
一緒にいたら無敵だったんだ。
「そう・・・」
フワは優しい声で言った。
「ボクは。君と犬が羨ましかった・・・」
その言葉の意味は重かった。
フワは誰にも守られない子供だったから。
でも、今フワは、まだ大学生なのに事業家だと言う。
それで金持ちなんだという。
すごい。
すごいな!!
「ここの大学じゃないんだけどね。この大学にも仲間がいてね」
フワは仲間に会いにこの大学に来たらしい。
フワが行ってる大学を聞いてビビる。
そこ、そこですか。
確かにフワは賢かった。
塾にも行ってなかったのに。
「明後日、仲間の集まりがあるんだ、おいでよ。ボクの友達だから無料で大丈夫。いろんな業界の人達が来るから就職とかの参考になるよ」
フワが誘ってくれたのだ。
俺と内藤を。
俺はともかく内藤はバーティみたいなのはダメなタイプだが、継ごうと思えば食堂を継げる俺とは違い、就職先を絶対に探さないといけないのは内藤なので。
卒業する二年後のために、俺と内藤はそのパーティーのようなものに参加することになったのだった。
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