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第12話
とりあえず、内藤を襲おうとした女はしめといた。
人の意志に反することはしちゃいけない。
ウチのバカなあの男でも、止めろって言ったらちゃんと止めるんだよ。
まあ。
本当にヤバいとこまでは追い込んでくるけど。
俺と違って内藤は、「気持ちいいから、ま、いいか」というタイプではないのだ。
そういうことは女だからって許していいもんじゃない。
多少乱暴に話を聞いた。
殴ったりはしてない。
腕を掴んで部屋の隅まで連れてきた位だ。
事実は認めたが、膨れて、悪いことをしてないみたいな顔をする。
良い女に迫られて良かったはずだと思ってやがる。
内藤が「いいから」っていうから警察だけ勘弁しておいたが、「そんなの誰が信じるって言うのよ」と嘯いたセリフだけは許せなかった。
「俺が信じてるんだよ、俺が!!俺が信じてる限りはお前が誰に何を吹き込もうと、絶対に許さない」
俺は女に怒鳴った。
部屋の隅で揉めているのに、フワが駆けつけてきて、俺と女と内藤を見た。
「いいよ。オレはもういいよ」
内藤はオロオロと言うが、良くない。
泣くほど嫌なことをされたんだからな。
男だろうが女だろうが、嫌がる身体を触ったりされちゃいけない。
警察沙汰にしないとしても、そのこと位、この女は知らないとな。
自分のために誰かの意志をねじ曲げちゃいけない。
「人の嫌がることして、自分は悪くないみたいな真似してんじゃねぇ」
俺は怒った。
誰だって、絶対にそんなことしてはいけないんだ!!
ウチで待ってる馬鹿男でもどんなにガチガチ勃ってても俺につっこんだりはしないんだぞ。
「許さない」
フワの冷たい声がした。
俺の怒鳴り声より、フワの冷たい声に女は反応した。
「【ボクが招待した】【ボクの友達】に君は嫌がることをしたの?」
フワの声は凍るようだった。
いや、フワ、怒るところはそこじゃない。
そこじゃないんだ。
論点が違う。
だがその論点は女には通じた。
俺の言葉には何言ってんだ、と、めんどくさそうにしていた女が顔色を変えた。
ああ。
このパーティーは。
身分制なのだ。
そして、フワは最上位にいるのだ。
それがわかった。
「すみません、すみません、すみません!!」
女は土下座した。
自信たっぷりで、キラキラした女が。
「謝る相手が違うよね。ボクに、じゃないでしょ。きみはボクが招待した、ボクの友人に不快な思いをさせ、尚且つ侮辱したんだ」
フワの声はどこまでも冷たい。
謝らないといけないのは内藤にって意味では同意だけど、何ががおかしい。
何だ。
何なんだ、ここは。
「退会してね」
フワの言葉に、女が悲鳴をあげた。
退会?
退会って何?
「頑張ってたのにね、残念。でも、こんなことも見極められない君じゃ無理、サヨナラ」
フワは言い捨てた。
女が号泣する。
何でそんなに泣いてるのかわからない。
何。
何なんだ?
「ゴメンね、内藤くん」
フワは内藤に頭を下げた。
丁寧に。
心からの謝罪だった。
「ボクが招待したのに。こんなことになるなんて・・・」
内藤はため息をついた。
「お前のせいじゃない」
「いや、謝らなくても・・・」
俺と内藤は同時に言った。
でも、フワは何度も何度も謝って、タクシーまで呼んでくれたのだ。
もちろん代金はフワ持ちだ。
タクシーの運転手さんに万札を何枚か握らせていた。
断っても聞かない。
「許せないなら裁判でも何でも手伝うし、内藤くんが納得するまで償わせる」
とフワは内藤に何度も言った、内藤は、そう、俺も、なんか起こったことの異様さの方にのまれてた。
「いいです、いいです」
内藤はブンブン首を振った。
良くはないと思うけど、でも、関わりたくないという内藤の本能を俺も理解した。
俺もここから早く立ち去りたかった。
不釣り合いとか、場違いとかではない理由で。
この会場はこのパーティーは、ここにいる人間達は。
何かおかしい
床に這いつくばって泣く女に誰も構おうとしないのも不気味だった。
でも、心の底からすまながっているのがわかるフワが、タクシーのドアまで送りにきて俺たちに
「埋め合わせはさせてね」
そう言うのを断ることは。
出来なかったんだ。
だって、やはりフワは。
俺には昔みたいに笑ったから。
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