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第15話

 「これ、どうかな、すごくいいもんなんだよぉ」  女の子が明るい、いや明るすぎる声で言っていた。  その声に思わず目をやったのはその声がした瞬間、その女の子の周りの空気が冷え込んだからだ。  はっきりわかった。  そして、その女の子を拒絶する目に見えない壁が築かれていた。  「うわぁ、聞きたくない」そういう雰囲気が。  宗教の勧誘とか、街中で妄想にとりつかれた人に話しかけられたら、こういう空気が可視できる。  見える。  見えるんだよ。  「嫌だ。速やかにここから離れたい。関わりたくない」そういう意志が。  講義の前で席についてしまっていた彼らはもう、席を変えることができないことにつらそうだった。  その女の子と少なくとも知り合いであるからこそ、邪険に出来ないんだな、というのがわかった。  「わぁ。マルチかな」  俺は思った。  それとも宗教?  ネットワークビジネス?  俺もこういうことあった。  知り合いがハマってしまうんだよね・・・。  同情した。  「この本なんだけど、本当に凄い本だよ!!もう、意識が変わるって言うか、価値観が変わるの。価値観が変わったら世界が変わる。そして、それを他の人達と共用出来たなら・・・本当に世界が変わるんだよ!!」  女の子は熱く語り出す。  何を言っているんだか。  それ、世界の人が一つの宗教を信じたなら、世界が変わると言っているのと同じだから。  それは無理。  俺にでもわかる。  「沢山色んな社長さんとか、成功している人達に会ったんだけど、みんなこの本の内容はその通りだって言ってたよ、私、沢山会ったんだから。そういう人達の集まりとかの手伝いとかしてるんだし」  女の子は明るくでも必死だった。  いたたまれなくなったけど、成功してる人達の集まりとかいう言葉にフワに連れて行かれたバーティを思い出し、その女の子を見つめてしまった。  女の子は。  フワの前で「見捨てないで下さい」、そう泣いていたあの女の子だった。  バーティ会場で、ドリンクをだしたり、かたづけをしていた、あのスタッフ達の一人だ。    無償でバーティ会場で働いているというボランティアの一人だ。  隣にいた内藤も、その子を見て呟く。  「あの会場にいたよね」  内藤は、一度会った人間の顔は忘れないし、どこで会ったのかも何をしていたのかも覚えてられる、奇跡の記憶力の持ち主だ。  ・・・ただし、勉強には生かされない。  内藤は真面目だが、あまり真面目ではない俺とそんなに成績はかわらない。  そして、みつめすぎてしまったのか、女の子も俺の視線に気づいた。  俺を見てハッとした顔をした。  でもそこで、講師が来て、講義が始まった。  講義中、女の子は、俺をずっと見つめていた  

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