17 / 71

第17話

 「でも。私、私やっぱりダメなの」  女の子が泣き崩れた。  俺と内藤は固まる。  女の子に泣かれてもどうすりゃいいのかわからないのだ  「本・・・売れないの、全然。これが売れたなら・・・私、信用を得ることが出来てるってことなのに」  女の子は泣いた。  俺はどうすればいいのかわからない。  俺のせいじゃないと、何故か両手をあげてて、内藤は水の入ったコップをかかえて、フラフラその辺を歩き始める。  俺達は挙動不審だった。  「本って?」  なんとか聞くことを思いついた。  「これ・・・」  女の子は持っていた、かなり大きな手提げバックからその本を取り出した。  綺麗な絵本だった。  怪しい自己啓発本でも出てくるかと思ったけれど、それは綺麗な絵で描かれた絵本だった。  話は彼女が尊敬しているそのサロンの主催者で、絵は別な人が描いていた。  許可を得て、めくる。  簡単に読み終わる。  自分を信じる。    友達を信じる。  その結果、冒険が上手くいく、そんな簡単な子供向けの絵本。  何も怪しくなかった。  良い絵本ともいえる  好きじゃないけど。  彼女は黙って同じ絵本をさらに数冊だしてきた。  同じ絵本をなんでこんなに?  「これをどれだけ売れるかが、私の信用の証明なの。私がちゃんと周囲から信用を得ているなら、私を信じてみんなこれを買ってくれるはずなの。それが【信用】なの・・・なのに・・・」  女の子はさらに声をあげて泣いた。  絵本を売っている?  なんでそんなことを?    「お金の問題じゃないの。儲けるためじゃないの。これを売れるってことが、私がどれだけ信用を得てきたかの証明なのに」  売れてないらしい。       値段を聞いてみた。  2500円。  まあ、フルカラーの絵本ならそんなもんだろう。  妹がいるからわかる。  仕入れ値を聞いたら2000円。  うん、まあ、そんなとこ?  わかんないけど。  「何冊・・・仕入れたの?」  内藤が青ざめた顔できいた。  「100冊・・・」  女の子は泣いた。  俺は飲みかけていたコーヒーを吹いた。  仕入れ値2000×100冊?  200000円。  二十万円。  それは。    それは。  学生には大金すぎる!!!!  確かに、全部売ったら5万円位の利益はでるけど!!  「売れなくて・・・信用なんか全然なくて・・・定価じゃなくて、半額にしても売れなくて・・・」  女の子が泣いてた。  そら、そうだ。  絵本なんて、すごくよいものでも、買う人は限られている。  これを喜んで買う人達は、サロンの会員だろう。  そうじゃない層に売るのは難しいだろう。  【信用】とやらて売るのは難しい。  これは、サロンへの【信用】で彼女が買ったものなので、それと同じように彼女を【信用】している人間を作らない限り、売れないものだ。  多分そういうことなのだ。  作れ、と。  自分達の力で、売りつけられる【信者】を作れと。   新しい形の。  宗教的な商売だった。  これは。  でも。  確かに。  合法ではあるのだ。  「お願いがあるの、お願いがあるの」   彼女は泣いた  絵本を買ってくれかとおもって身構えた。  いや、無理。  無理だから。  買ってあげたいけど、そういうわけには。    「  くんに、見捨てないでって言って。次はちゃんとしてみせるから、【信用】をえてみせるから・・・無理だからやめておけ、なんて言わないでって言って・・・本だって、これから売れるからまた買うからって・・・もうお前には売らないなんて言わないでって」    女の子は。  まだ。  本を売るつもりだった。  売れない本をまだ仕入れるつもりだった。  俺は。    俺と内藤は、  かなりビビったのだった。 

ともだちにシェアしよう!