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第17話
「でも。私、私やっぱりダメなの」
女の子が泣き崩れた。
俺と内藤は固まる。
女の子に泣かれてもどうすりゃいいのかわからないのだ
「本・・・売れないの、全然。これが売れたなら・・・私、信用を得ることが出来てるってことなのに」
女の子は泣いた。
俺はどうすればいいのかわからない。
俺のせいじゃないと、何故か両手をあげてて、内藤は水の入ったコップをかかえて、フラフラその辺を歩き始める。
俺達は挙動不審だった。
「本って?」
なんとか聞くことを思いついた。
「これ・・・」
女の子は持っていた、かなり大きな手提げバックからその本を取り出した。
綺麗な絵本だった。
怪しい自己啓発本でも出てくるかと思ったけれど、それは綺麗な絵で描かれた絵本だった。
話は彼女が尊敬しているそのサロンの主催者で、絵は別な人が描いていた。
許可を得て、めくる。
簡単に読み終わる。
自分を信じる。
友達を信じる。
その結果、冒険が上手くいく、そんな簡単な子供向けの絵本。
何も怪しくなかった。
良い絵本ともいえる
好きじゃないけど。
彼女は黙って同じ絵本をさらに数冊だしてきた。
同じ絵本をなんでこんなに?
「これをどれだけ売れるかが、私の信用の証明なの。私がちゃんと周囲から信用を得ているなら、私を信じてみんなこれを買ってくれるはずなの。それが【信用】なの・・・なのに・・・」
女の子はさらに声をあげて泣いた。
絵本を売っている?
なんでそんなことを?
「お金の問題じゃないの。儲けるためじゃないの。これを売れるってことが、私がどれだけ信用を得てきたかの証明なのに」
売れてないらしい。
値段を聞いてみた。
2500円。
まあ、フルカラーの絵本ならそんなもんだろう。
妹がいるからわかる。
仕入れ値を聞いたら2000円。
うん、まあ、そんなとこ?
わかんないけど。
「何冊・・・仕入れたの?」
内藤が青ざめた顔できいた。
「100冊・・・」
女の子は泣いた。
俺は飲みかけていたコーヒーを吹いた。
仕入れ値2000×100冊?
200000円。
二十万円。
それは。
それは。
学生には大金すぎる!!!!
確かに、全部売ったら5万円位の利益はでるけど!!
「売れなくて・・・信用なんか全然なくて・・・定価じゃなくて、半額にしても売れなくて・・・」
女の子が泣いてた。
そら、そうだ。
絵本なんて、すごくよいものでも、買う人は限られている。
これを喜んで買う人達は、サロンの会員だろう。
そうじゃない層に売るのは難しいだろう。
【信用】とやらて売るのは難しい。
これは、サロンへの【信用】で彼女が買ったものなので、それと同じように彼女を【信用】している人間を作らない限り、売れないものだ。
多分そういうことなのだ。
作れ、と。
自分達の力で、売りつけられる【信者】を作れと。
新しい形の。
宗教的な商売だった。
これは。
でも。
確かに。
合法ではあるのだ。
「お願いがあるの、お願いがあるの」
彼女は泣いた
絵本を買ってくれかとおもって身構えた。
いや、無理。
無理だから。
買ってあげたいけど、そういうわけには。
「 くんに、見捨てないでって言って。次はちゃんとしてみせるから、【信用】をえてみせるから・・・無理だからやめておけ、なんて言わないでって言って・・・本だって、これから売れるからまた買うからって・・・もうお前には売らないなんて言わないでって」
女の子は。
まだ。
本を売るつもりだった。
売れない本をまだ仕入れるつもりだった。
俺は。
俺と内藤は、
かなりビビったのだった。
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