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第26話
フワが連れて行かれる前の日、フワは俺の家に泊まった。
それまで、大人達は俺にフワを会わせてくれなかったのだ。
両親もフワを引き取ると言った。
でも、ダメだった。
俺が。
俺が。
やり過ぎたから。
だって俺、家宅侵入の上、大人三人に大怪我をさせたから。
フワを保護している人達は、俺とフワを一緒にするのは良くないと考えたのだ。
俺も指導の対象にするべきかになってしまってた。
フワを助けたのに。
でも、俺は、品行方正とはいかないが、学校の先生達にも好かれてたので、なんとかなった。
俺は父親に怒鳴られた。
ケガさせたことや家宅侵入をしたことより、一人で勝手に突っ込んだことにだ。
無謀すぎる、と。
死んでたのはお前だったかもしれないんだぞ、と。
男達は金持ちで、悪い社会や、警察の上にもおんなじくらい顔が利いたらしい。
ウチの走り屋上がりの父親に言わせれば、警察も悪い奴らも一緒になる。
悪い社会の方は父親の知り合いが話を通してくれたらしい。
俺のことはなかったことにする、と。
父親は人気があった。
そっちの世界の人に。
なんでだか好かれた。
若い頃父親がその人達を助けたりした何かがあったみたいだけど。
それに。
「良い度胸のガキだな、面白い」
俺はそちらの世界の方々の良い気晴らしになったみたいだ。
いくら悪い社会でも、子供を貪るヤツは嫌われているのだ。
悪い社会でも、子供を愛する親であることは、当たり前にある。
警察の方の動きまではわからないままだ。
あの三人の男や、フワの母親がどうなったのかはわからなかった。
でも。
フワをどこかへ連れ去る最後の夜は、俺の家にフワを泊まらせてくれたのは、フワを保護している人達の慈悲みたいなもんだったんだろ。
俺達は抱き合って泣いて。
でも時間がもったいないから、一緒に飯くって、風呂入って。
フワの身体はもう、色々された跡は消えてたけど、面白半分に彫られた尻のマークだけは残ってた。
なんか幾何学模様で。
子供の手の平位だった。
「自分達のモノだって印だって」
フワが感情のない声で言ったから、俺が泣いた。
でも、泣き止んだ。
もう、俺達には時間がなかったからだ。
フワと犬と俺で寝た。
犬は仕方なく、フワを許した。
面白くなさそうだったけど。
これは犬なりの慈悲だった。
「母さんの客だった。母さんとしてたんだ。アイツら。で、母さんをおくってくる度、俺の顔を撫で回してきた」
男達に目をつけられるのが嫌でフワは顔を隠すようになったのだ。
だが、男達はフワに関心をつのさせていく。
そして、とうとう母親に子供を売ってくれ、と頼んだ。
あの男達も、まさか引き受けるとはおもわかっただろう。
「男だから売れないと思ってたのにねって母さんは言ったんだ」
フワは淡々と言った。
母親はフワの番だと言った。
私は長いこと、父親や母親を食べさせて、あんたも食べさせてきた。
だから次はあんたの番だ、と。
フワは嫌だと言った。
でも、フワに何ができた?
フワには母親しかいなかったんだ。
愛していたし。
「アイツら汚いこといっぱいして、ボクを笑った。感じてるくせに、お前はそういう子供なんだから、こういうことが好きなんだよなって」
フワの声に感情はない。
ずっと殺されていたのがわかった。
俺はフワをしっかり抱きしめた。
フワは震えてなかった。
自分の中のそんなモノと戦っていた。
そのおぞましい記憶と。
フワは勇気があった。
俺なんかよりも。
「ボクはアイツらのいうようなもんじゃない。汚いのはアイツらだ!!」
そう言い切れるまで、フワは自分を切り刻み、苦しんできたのだろう。
フワは。
勇者だ。
「お前は勇者だ。アイツらに負けなかった」
俺は言った。
本気だった。
そして、その時になってフワはやっと泣いた。
俺達は抱き合って眠った。
犬が嫌そうに俺達の上に乗っかってきたのに、少し笑って。
フワは連れて行かれた。
子供の俺にはどうしようもなかった。
連れて行った人達は、悪い影響を気にしたのか、フワの行く先も教えなかった。
父親と母親が、何かあったらここに逃げてこい、と何度も何度もフワに言い聞かせていた。
それはないことを俺は知ってた。
フワは逃げない。
俺はフワを泣きながら見送った。
犬を抱いたまま。
犬は、俺の涙を舐めていた。
そんな。
そんな。
記憶。
俺と犬とフワの話
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