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第33話
「酷い」
チャラ男、いや、ドクターは泣いてたが同情しない。
コイツは現役の悪者なのだ。
何なら通報したい位だ。
「ちゃんと、お嬢様、お兄様達をバスに乗せてお連れして、道中も楽しませて、向こうに行ってからも盛り上げて来たこの僕に、酷くない?」
チャラ男は泣き続ける。
詐欺師の涙なんか、何一つ価値はない。
だが、まあ、婆ちゃん達の華やいだ声が聞こえたのを思い出したし、なんなら今隣りで、婆ちゃん達みんなで思い出話で盛り上がってるし。
壁薄いからさわいでんの聞こえる。
まあ、そこは、感謝かな。
完全ボランティアらしいし。
何があったのか知らないけれど、ドクターは男に絶対服従なんだ。
「せっかくいい感じになってたのに。一年かけたターゲットとこれからやっとロマンチックな一夜ってところで・・・温泉旅行をセッティングして連れていけ、しかも、一時間以内でって!!、仕事より困難なことを!!仕事は台無しだし!!決定的なタイミングってのがあるの、もう難しいよ!!逃しちゃったよ!!」
何か言ってるが、犯罪が行われなかったことは良いことだ。
ドクターがどんな詐欺やってるのかも知らないけど、大体において、詐欺師は専門分野を持つのは知ってる。
詐欺師だった常連さんから聞いた。
中途半端な知識じゃ足許を、すくわれるからだ。
だが、ドクターはオールマイティーだとあの男が言ってた。
結婚詐欺から証券取引詐欺まで、なんでもごされらさい。
今回は女性をターゲットにしていたみたいだ。
失敗して良かった。
良かった。
さすがに、一流詐欺師は俺の顔色を読む。
「騙されたことに気づかせないで、幸せなまま終わらせるのが本物の仕事なんだよ。僕は誰も不幸にしてないからね!!僕だって、本気で恋してるからこそ、ターゲットも僕に恋するんだよ?恋は永遠に続かないだけで!!」
ドクターの言葉に嘘はないだろう。
元詐欺師の常連さんも言っていた。
詐欺にあったことさえきづかせないのが本物の詐欺師だと。
意味わからん。
一時間で旅館セッティングして、バスチャーター出来るだけの能力があるなら、その能力をなんでカタギの仕事に生かせないんだ。
騙されたことも分からないように騙すって・・・何それ。
「オンラインサロンの子達は幸せなんだよ」
フワは言った。
不意に思い出した。
ん?
これって?
俺は本職に聞くチャンスだと思った。
「オンラインサロンって知ってる?」
フワに聞く前に、抑えておきたかった。
ドクターは嫌な顔をした。
「一緒にしないでもらいたいな。あれはどちらかかと言えば、宗教だよ。いや、宗教ビジネス」
ドクターは言い切った。
「全部が全部とは言わない。いわゆるファンクラブみたいなのもあるからね。ただ、価値観を操作してお金や労働力を集める手法はカルトに近いよね。ダメだね。信じていたってことをわざわざ残すのは。本当の詐欺師なら信じているってわざわざ思わすようなことさえさせない」
軽蔑するようにドクターは鼻で笑った。
ドクターは自分は夢をみせているんだという。
ドクターは素敵な夢をみせて、その代金を貰ってるのだと。
騙された人達は、それを例えお金を失ったとしても良い思い出にしてしまい込むのだと。
そんなこと。
どうやったらできるんだか。
「 という人がやってるサロンなんだけど」
俺は呼ばれたパーティーのサロンをしている人の名前を出した。
フワもしているらしいが、あくまでも、そのサロンの派生的なものらしい。
「 ?」
その名前を繰り返してドクターは眉をひそめた。
そして、男を見つめた。
「調べさせてたのはこれね」
男にいう。
やはり男はフワについて調べさせてた。
まあ、多分ドクター使ってたんだろうな、と。
ドクターを便利な道具としか男は思っていないし、何故かドクターは言いなりだ。
「僕の口からは言えない。君のお友達から聞くべきだ。僕が調べたものと、君が友達から知るものは同じじゃないからだ。君は信じないけれど、事実ってのはどこから見るかで、全く変わってしまうんだから」
ドクターは男と同じようなことを言った。
ただ、不安になる。
フワ。
何に関わっている?
俺は散々男にディルドで犯されて振りまくった痛む腰をドクターの整体で治してもらう。
何故こんなに腕がいいのに詐欺師なんだと、思いながら、何故かドクターにまで夕飯を作ってやることになった。
何故かドクターも俺の作る飯が好きなのだ。
ニンニクチャーハンとショウガスープを作りながら俺は考えこむ。
男は言った。
それはフワの望むことなのか。
ドクターは言った
どこから見るかで事実は変わる。
悪者二人が言ってることなので、まともにとりあうのもどうかと思うんだが。
でも。
フワ。
お前は何をしていて、何を望んでるんだ?
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