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第35話

 「この間はごめんね」  彼女は気まずそうに言った。  俺達は首を振る。  彼女は元気そうだった。  何かに取り憑かれたような、あの感じはない。  フワに本を売るのを止められていたあの女の子だ。  今はサロンもフワに言われてやめたんだそうだ。  「どうかしてたんだ。なんか、時間を置いたなら・・・なんであんなことに夢中になったのかって・・・」  彼女はため息をついた。  その時はフワを恨んだそうだが、今は感謝している、と彼女は言った。  「どれだけサロンに忠誠を示せるが、サロンでの地位みたいになってたんだよね。沢山お金を使ったり、沢山信用を稼げる者がえらい、みたいな」  彼女はまた、ため息をついた。  「スゴイ人達とかとパーティーとかで会うでしょ、クリエイティブな仕事して、凄くカッコイイ服とか着て、なんかスゴく深いこと言うみたいな。で、サロンで頑張ったら私もこういう人の仲間入りできるのかな、なんておもってしまって」  彼女はフワに憧れてサロンに入ったのだそうだ。  フワが入ってるサロンならきっと自分もフワみたいになれると思って。    「『お金をつぎ込めば、努力したらボクみたいになれるわけじゃないんだ』、勘違いしないで欲しいって言われたのそして、『ボクみたいなやり方は絶対にするべきじゃないんだ、そんなことはあってはならないんだ』って」  彼女の言葉に俺は眉をひそめる。  何があったんだ?  フワ。  成功するまでに。  「厳しかったよ、君は絶対に成功を目指すな。安全なレールを外れるな。君のような人間は・・・印がついてるから。狙われたくないなら外れるな、って。ちょっと、夢も希望もなくなったけどね」  彼女は寂しそうに笑ったが、フワが言いたいことは知ってる。  詐欺にあった人はまた詐欺にあうからだ。  騙されやすい人達は確実に存在する。  詐欺にあった人間の名簿が売られていると 教えてもらつた。  もちろん、元詐欺師の常連さんだ。  騙される人は何度でも騙されるからだ。  このサロンの次はまた違うサロン。  彼女が、止めらなけれれば、お金をつぎ込む先を変えるのは想像できた。    「君にはちゃんとした家族もいるから、レールを外れなければ大丈夫だろうって、なんか、実家が大きいだけのダメな子みたいに言われて悲しくて泣いたよ・・・」  彼女はそう言うが、彼女は確かに危険だ。  簡単に騙される。  自分は出来ると思っているからこそ。  だからフワは彼女の鼻をたたき折ったのだ。    フワなりの優しさだ。  やはり。  フワはフワなのだ。  「フワ、いや、  君に連絡とかしないで会おうと思ったらどんな方法がある?俺、会ってもらえないんだ」   俺は正直に言う。  自分が本を売りつけたり、サロンの活動の宣伝などをしたせいで、友達から連絡を受けてもらえなくなっていた(今はかなり回復)彼女は同情するように俺を見た。  俺は今のフワを何も知らない。  彼女しか手がかりはない。  「SNSでね、見張っておくしかないと思う。で、  さんと飲んでる場合はここのバー、  さんと食事ならここのレストラン。割と基本パターンだから。でも、新緑会だけはちょっとわからないかな、本当にあるのかもわかんないし」  彼女は、SNSでの監視の仕方を教えてくれ、なおかつ フワ達サロン幹部の行きつけの店を教えてくれた。    元々フワの追っかけだから、と。  ちょっと戦慄した。  こんな方法があるのか。  誰かと会っている、というだけで簡単に居場所が特定できるのだ。  俺の。  俺のSNS、絶対監視されてる!!!  そんなにしてないけど、でも絶対チェックされている!!!  震えたよ。  先回りして、盗聴とかカメラとかしかけたりするだろ。  俺に盗聴機仕掛けるのは禁止してるから。  アイツは。  てか、その前にラインでいちいち居場所教えてるし。  今でも、このファミレスにいるって教えてるし。      されていたとしても、同じか。  まあいいか。  そう思えてしまえる自分が怖い。  でも気になった。  「新緑会って?」  何それ。  「たまにサロンの上層部や、主催の  さんや、  さんの友達の人たちが呟くの。でもね、サロンの人達御用達の、バーでもレフトランでも、クラブでも、その人達の家でもその様子写されることはないの。実際には圧まって何かをすることはない架空の会だって本人達は笑ってるけど」  あの男に弟子入りした方が良さそうな、立派なストーカー気質の彼女は裏をとっていたのだ。    この子。  いろんな意味で危うい。  汗がでる。  でも。  何かヒントは得たかもしれない。  フワのアカウントや、フワの友達とされる高位のメンバーや、サロンと交流のあるセレブっぽい人達のアカウントを教えてもらう。  監視のコツなども。  インターネットの闇を見てるよ、俺。  そして、俺と内藤はフワをネットで張ることになったのだった。  

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