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第46話

 とにかく、今日は帰ることにした。  「泊まっていけば?」  フワが熱心に誘ってくれたけど、俺には家で待ってる犬、いや違った、男がいる。  夕飯は置いてきたが、俺がいないと食べないんだ。   帰るしかないだろ  「犬がいるんだ」  そう説明しておいた。  「そう」  フワは残念そうに言った。     何故か内藤は複雑な顔をしている。    なんだよ、その顔。   いろんな感情が混じった、呆れたような顔は。  てか、内藤、そんな顔できたんだな。  フワはマンションの外まで見送りにきてくれた。  「ボクが汚くない?ボクは沢山の男としてきたけど」  フワは自転車に跨がる俺の袖を掴んでソッと言った。  怯えたように。  「そんなワケがあるか!!お前が汚れてるわけがない。お前はずっときれいで・・・勇敢だよ」  俺は心から言った。  フワはまた俺に抱きついてきた。  しっかりと抱きしめて、そして不意に顎を掴まれ、顔を上げさせられた。  綺麗なフワの顔。    フワの目は。    あの頃みたいに、不安げで。   でも、俺を真っ直ぐ見てて。    なんか吸い込まれた。  身動き出来なくなってた。      フワの目に。  「どうしよう」  なんでか内藤が小さく呟いている。  フワ。   どうした?  フワ・・・・。  フワの顔が近づく・・・。  獣の咆哮が聞こえた。    そして、ドアが乱暴に開けられる音。    誰かの悲鳴。  そして、何か・・・。  「伏せろ!!」    内藤が叫んだ。   俺はとっさにフワと一緒に、地面に伏せた。  内藤は的確なことしか言わない。   自転車ごと転倒したが、構わない。    グワグキィッ  なんとも言えない破壊音と衝撃。  俺は信じられないモノを見た。    鉄の柵がフワのマンションの壁に突き刺さっていた。  フワのマンションの前の歩道は、車道との間に鉄製の柵があった。  それが。千切られてどうやってだか、投げつけられ、壁に刺さっているのだ。  有り得ない。    なんだ。  これは。  でも、すぐに理由はわかった。  低い地獄のような声が叫んでいたからだ。  「オレだけだぁ!!!」   ああ、そうだよな。  お前が大人しく家にいると思っていた俺が、何かで監視はしてるかもしれないが肉体だけは家にいるかと思っていた俺が、馬鹿だったよ。  幽体離脱とかを疑った俺が馬鹿だったよ。  お前は。  お前は。   誰よりも。  ストーカーだったよな!!!!!

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