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第49話

 家に帰ってきたら、先に男がちゃんといた。  まるでずっと家にいたかのように。  実際、あんな風にストーキングされていた日もあったのだろうと思う。    男はいつもみたいに玄関先で待ってなかった。  怒られることをした時の犬みたいに。  そういう時は耳も尻尾もたらして、部屋の隅にいたのだ。  ちゃぶ台の前に座ってる男にも、見えない尻尾と耳が見えた。    「ハッキングもドローンも禁止な」  俺はちゃぶ台の前に座ってる男に言っておく。  「・・・わかった」  神妙な顔で男は言った。  じっと見つめてくる。    家の掃除もきちんとしてるし、洗濯もしてるし、だからまさかストーキングに来てるとは思わなかった。   どうやって一生懸命ではあっても得意げではない家事をやりくりして、俺をストーキングしていたのか。  それなりに男は必死だっただろう。    そう、思うとだな。    まあ、ストーキングされていた腹立たしさが、まあ、可愛くもなる。  腹立たしさももちろんあるけど。  「今更だけど」  俺はきりだした   きちんと座って。  内藤は正しい。  最後に責任とればいいってのは、ろくな男のすることじゃない。  何故か男が震えて、目が泳ぎだす。   怒られる前の犬だ。  怒らねーよ。    今日は、な。  俺は震えてる男の手をとった。  燃えてる炎が描かれた、生きながら焼かれているかのようなその手を。  「なんとなくにしてて悪かった。付き合おう」  心から言った。    好かれてることが気に入ってそこを楽しんでたのは俺だ。  それはダメだ。  一方的な関係なんてダメだ。  色々ある。  男に対しては、可愛いとかそういった好意だけじゃなく、疑問や疑念、怖さや拒否もある。  でも、それも含めて。  とにかく、やっていこう。  やってみたい、そう思っている。  男は。  キョトンとした。   意味がワカラナイと言った顔だ。  「親と妹にも紹介する。でもちょっとそれは待ってくれ。ここは慎重にタイミングを見計らいたい」  親がショック死するかもしれないし、妹だって怯える。  「いや、違うな、この言い方は。俺と付き合ってくれないか?」  俺はいずれ、可愛い女の子に言うだろうと思っていたことを、巨体の半身入れ墨男に言った。  そのタトゥーの入ったデカい指を握りながら。  その少しずつ見開かれるオレンジ色の目とか。  震えるリングで止められたら唇とか。  全部が。  俺には可愛く見えるんだから。  仕方ない。  また。  泣かせた。  俺に手を握られながら、男が堪えられないように涙を流した。  「ブチ込んでいいのか」  最初に言うのがそれかよ。     笑ってしまう。  「まだダメ。でも約束する。ちゃんと全部お前にやるから」  それが今はせいいっぱい。  もうちょい待って。  もう少し。  そんなに長くないから。  「全部」  男がくりかえす。  「俺の身体も、人生も」  重い。  重すぎる。  だが。   この男は全部を欲しがっている。     この男は俺しかいらないのだ。  なら。  もう。  くれてやるしかないだろう。  抱き寄せられた。    ちゃぶ台は転がってる。  強く抱きしめられた。  でも、潰れないように・・・大切にされてた。    胸に耳があたって男の心臓の男か聞こえる。     早く強く打ってて、とてと可愛い。  「今日はエロいことなし、当分なし、明日も色々しなきゃいけないことあるから」  一応言っておく。  可哀想だが、今日も俺はお疲れなのだ。  「ひでぇ・・・。生殺しかよ」  男が泣く泣く。  本気で泣く。  「風呂で・・・一回だけ・・・出すだけなら」   言ったのは。   俺も。  この男の身体に触れたかったから。  触って、舐めて、味わって。  確かめたかったんだ。    欲しいのは。  コイツだけじゃない。    男は俺を担いで風呂へと向かったのだった    

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