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第52話

 「とにかく!!」  フワは鼻水をティッシュでかみながら言った。  目は真っ赤に泣きはらしているし。  顔も浮腫んで、腫れていて、せっかくの綺麗な顔が台無しだが、でも、そんなフワのが、取り繕って本心隠したフワよりずっと良かった。  あんな男は駄目だ嫌だ、自分にしろ、と泣くフワに、そこはわかってくれと説得してたのだ。  心配してくれるのはわかるが、人間積み重ねてきたことへの責任とか、そうすることで出来上がる想いみたいなんがあるんだって。    だからと言ってフワと俺との友情に何も変わりはないのだと。  俺と内藤とフワはフワの家で引き続き会議室中である。  「もっと早く・・・早く・・・既成事実を積み重ねさえすれば、君は落ちるとわかってたのに!!あんなのに出し抜かれて!!」  フワが怒るポイントがよくわからないが、フワは悔しがっているんだそうだ。  内藤のようには、男を受け入れてくれそうにはない。  「・・・・・・でも。アイツがいなくなったなら、その場所に滑り込むことはできるよね。ああいう男は、ボクが何もしなくても、寿命は短い、勝手に死ぬ」  フワがなんかダークなことを口走っていた。  「チャンスは絶対に来る。ボクは待つよ」  フワが天使みたいな笑顔で言ったことの意味が良くわからなかったが、とりあえずは納得してくれたから良しとした。    内藤だけは、ずっとため息をついていた。        また後で説教されそうだ。  とにかく。    俺達は新緑会を潰さなければならなかった。     「お前が頼むなら全員殺すぞ」  それは朝食の時に男に言われたが、それは言わない。      フワのような当事者なら、そうされたことがある人間なら、それを望むことは充分あり得るし、俺もそれでもいいんじゃないか、とも思ってしまうのだけど。  子供から子供である時間を自分の欲望のために奪う。  その罪深さは許されるべきものではないのだけれど。  あの男にもうそんなことはさせたくなかった。  男じゃなくても、誰にも、そんなことはさせたくなかった。  生きる価値があるとは思えないけれど。    でも。  合法的な方法では罪に問うのは難しかった。  「女の子の非行問題にされて、少し倫理的な責任をとらされるぐらいだろう」  それはずっとわかっていたことだ。  この国では子供に手を出しても、しばらくたてば問題なくなる。  少女が「そんな子供だと思わなかった」と言いさえすれば、売春していた少女の方に問題があったことになる。  示談。  裁判にすらならないだろう。  罰金刑になれば良いところだ。  芸能人、政治家、財界人、いくらでもそんなケースは見つけられる。  アイドルなどなら問題だがそうでないなら、過去はさほど問われることもない。  組織的関与を証明できない限り、女の子達は食い物にされていても、自分達が悪いことにされるだろう。しかも、女の子達が他の女の子を巻き込むことで共犯になっているからこそ、余計に。  フワは、合法的には何も出来ないと思っていた。  警察に情報提供をしたとしても、そこまでこの事件を追ってくれるほどの熱意がある人間はいないだろうと。  だから。   フワは。   自分を犠牲にしようと思っていた。  実名でブログで告発することで。  自分の過去さえ晒して。   訴えられて裁判でも何でも受けるつもりだった。  嘘つき呼ばわりされて、金の力で叩かれるだろう。  SNSで信者を持つ連中だ。  誹謗中傷、脅迫もかくごしていた。  だからこそ、その証拠では「罪には問えない」としても、「その事実が無かった」ことにはさせない証拠が必要だと思っていた。    「信じてるんだ。まだボクは世界を信じてるんだ。子供をそんな目に合わせたくないって人達が、ボクのブログを読んだ人から出てきてくれる。その人達が、【無かったことに】しないように声をあげてくれる。英語でも発信するつもりだ。海外にも影響のある人達に拡散を頼みたいとおもっている」  フワはSNSで培った影響力もすべて、そこに使うつもりだった。  「やっつけるんだ。今度こそ。どうせ、そういう子供だから何してもいいと思っている連中を、潰してやるんだ。法に問えなくても、その連中を許さない人達の波を作り出す。それでもこの国では、それなりに生きていけるけどね。この国は何度性犯罪を犯しても、金持ちなら裁判にもならないから。でも。少なくとも、もう、キラキラ光る憧れにはなり得ない、今までSNSでそう演じてきたようには、ね」  フワは言う。    醜悪な子供を貪る化け物としての姿を。  せめて、罪に問えないのなら、その姿を世界に晒したいのだ、フワは言った。    許せない人達が現れたなら。    その人達が、こんなあり方を変えてくれるかもしれない。  そうなれば警察も本気で動いてくれるかもしれない。  フワはそれに託したいと云った。  実名での。  ネットでの訴え。  フワ自身を切り刻むしかやり方がないことがつらかった。    でも。  どうやってでも事件を追ってくれる警察官や、記者はこの世界には都合良くは存在しないのだ。  しない以上は。  自分でやるしかないのだ。    でも、そのために決定的な証拠が欲しかった。    フワは計画していたことを俺達にうち明けた。  

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