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第62話

 それからひと月が過ぎた。  俺はプレッシャーにさらされている毎日を送っている。  俺の正当なパートナーとなった男が毎日のように無言の圧をかけてくる。  挿れてもいいだろ、と。     男によるともう俺の身体は準備OKなんだそうで。  まあ、デカいデイルドで中をたっぷり穿たれて、涎をたらして喜んでるのは事実なんだ。  でも。  でもね。      ちょっと。  ちょっとだけ待って。  ほぼ覚悟は出来てるでも、ちょっとだけ待って欲しい。  そんな気持ちをわかってくれてよと、俺も無言の圧で返していた。  だが。  そんなに先じゃない。      それは互いに分かっていた。  内藤に男といることがバレたから、内藤も家に遊びに来るようになった。  これは良かった。  親友に隠しごとなんかやっぱり嫌だったし。  男と内藤は微妙な距離感を保っているが、フワと男よりは仲がいいと言える。  フワとは全然会えない。    電話をかけた。  フワは忙しいらしい。    「大丈夫か」  聞くと笑った。  「男が連中を叩きのめしたシーンを毎日観てる」と。  胸がスカッとするらしい。  嫌な思いをするたびにそれですっきりしてるとのことだ。  フワだけが全ての映像を持っている。  ドクターからは取り上げた。    「でもね、君と犬が助けてくれたあの日の映像は心に焼き付いてる。それがあるから僕は何があっても負けない」  フワの言葉に俺は言う。  「映像なんかじゃなくても、俺はお前を助けに行く。今だって助けたい、言ってくれ、何をしてほしい」  俺の言葉にフワは黙った。  「好き。好きだよ。自転車で追いかけて来てくれた。身体一つで車を止めてまで、ボクを捕まえてくれた。好き。好きだよ。ずっと好き」  フワの言葉の意味はわかった。  それは。  俺には答えられない好きだと。   だって。   俺にはもう男がいた。  「助けた人間に責任を感じてるなら、ボクにも責任をとってほしかったな」  フワは冗談っぽく言った。  でも。  その言葉の痛みはわかった。  ごめん、とは言えなかった。  言ってはいけないと何故かわかった。  「大好きだよ、フワ。お前より勇敢な男はいない」  俺は本音を言った。  俺はもう撰んでしまった。  だが、お前が好きだ。  好きて仕方がない。  「知ってる」  フワの言い方はまるで俺を振ったみたいだったから、俺達は笑った。  「海外に行く。今回の件で海外からも取材があったりしてね、色々知りたいこともあるし、向こうの人達とも繋がりたい」  フワは言った。  それに疲れた、とも。  「そうか」  俺はそう言うしかなかった。  「いつ行くんだ?」  その前に会いたかった。  「・・・」  フワは黙った。    そして言った。  「今日、もうすぐ」   フワは俺に黙って行くつもりだったのだ。  「今どこだ!!どこにいる!!」  俺は怒鳴った。  フワはしぶしぶ空港の名前を言った。   ここから20キロ先。  俺は部屋に立てかけていた自転車を担ぎ上げ、ヘルメットを手にとった。    俺か夕飯を作るのを見るつもりだった男が(俺が料理しているところを見るのがこの男の好きなことの一つだ)台所から俺を不思議そうに見た。    「フワを見送りに行く!!」   俺はそう言って、自転車を担いでとびだし、そして、道路に自転車をおくと同時に飛び乗り、走り出した。

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