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第64話
結果から言えば。
フワは行ってしまった。
「一人で行くんじゃない。君は呼んだら来てくれるんだから。君がいないとしても一人じゃない」
フワはそう言った。
毎日電話かメールをすると約束させた。
日本に帰ったら、今度こそ、俺の実家に行くことも。
「俺はお前の家族だ。フワ。覚えとけ」
俺はフワに宣言した。
昔、フワを両親は引き取りたかった。
あのとき、フワを監督していた人達は下町で食堂をしている元ヤンキー夫婦にフワを預けるのを躊躇したのだ。
親父は成人後も暴力事件に巻き込まれていたし。
それなりに地元では名の知られた不良だったし。
特に母親が。
俺の母親の名前は今でも地元じゃ通るのだ。
だが、俺の両親は愛情深い人達だ。
妹は綺麗なフワが大好きだったし。
あの時はフワが家族になることは邪魔された。
でも、今なら誰にも邪魔させない。
この事件が公になってから、両親に電話した。
両親も俺と同意見だった。
俺達は。
今からでも家族になれる。
フワはそれ聞いてまた泣いて。
泣いて。
吐くほど泣いて。
でも、フワは向かった。
「これはボクがやらないといけないことだから」
フワは。
子供達のために。
昔の自分のような子供達のために。
動き出したのだ。
でも、フワ。
お前には家族がいる。
俺がいる。
忘れるな。
「あの男が嫌になったらいつでも言って!!ボクは家族以上にだってなるからね!!」
それも何度も何度も言って、フワは去って言ったのだった。
でも。
フワ。
俺はあの男を嫌いにはならないよ。
きっと。
俺は空港前に乗り捨てた自転車を探しに言った。
なくなってなければいいけれど。
あれは男が壊れた俺の自転車と同じものを見つけてくれたものだ。
盗まれたなら、探さないといけない。
自転車はあった。
自転車を歩道のガードレールに立てかけて、そこに男が立っていた。
半身を火に焼かれたようなタトゥー。
褐色の肌。
巨体。
誰もの目を引くのに、誰も怖くて見ようとしない男がそこにいた。
俺は男を見た。
恐れることなんかない。
だってこれは俺の男だ。
「いつもお前は誰かを追って走り出す。俺はそれを止めることなんかできねぇ」
男はポツリと言った。
男は自分の胸を抑える。
「でもな。お前が走り出してオレを置いていく度に、オレのここが痛むんだ。なんでだ?酷く痛てぇ。撃たれた時より痛てぇ・・・でも、オレはお前に行くななんて・・・言えねぇんだ・・・」
その声の切なさ。
俺は男が傷ついているのを知った。
俺は俺の恋人を傷つけていた。
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