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第65話
「俺はお前をないがしろにしてるわけじゃない」
俺は男に伝えたかった。
置き去りにしたいわけじゃない。
お前がどうでもいいわけじゃない。
「分かってる。もしもオレがお前から離れるようなことになったら、フワみたいにお前のために離れようとしたりしたら、お前はオレを追ってくれるんだろ?・・・でも、オレはお前から離れねぇ。お前を追ってもお前に追わせるような真似はさせねぇ。だからお前はオレ以外を追い続ける。仕方ねぇ」
男は淡々と言った。
「でも。誰かを追いかけるお前の背中を見るのは胸が痛てぇ。痛てぇんだ。こんなの知らねえ」
男は胸を押さえる。
本当に痛むのだ。
それが辛いのだ。
7発銃弾をぶち込まれても、死ななかった男が、胸の痛みには苦しんでいるのだ。
そして、男はそれでも俺に誰かを追うなとは言わないのだ。
男は俺に誰かを追わせるだろう。
どんなに胸が痛んでも。
ああ。
愛しい。
愛しい。
俺は本気でおもった。
お前だ。
お前がいい。
お前じゃなきゃだめだ。
お前がいい。
お前が欲しい。
「おい、ホテルに行くぞ」
俺はかすれた声で言ったと思う。
自分でも最低な言葉だったと思う。
相手の真心に返す言葉がこれならな。
でも俺の相手はこの男だった。
男は聞き逃さなかった。
男は俺の自転車と、俺を両方担いで走り出したのだった。
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