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第5話

 翌週も店を訪れ、三時間ほど滞在し特に何もなく穏やかに琉季と飲んだ。  そしてそのまた次の週、バーが休みの曜日に圭太は琉季に会いにいった。この日は同伴の先約があったのか知らないけれど、店に直接来てと言われ、寂しさを少し感じながらも言う通りに指定の午後十時頃に店を訪れた。  店に一人で入るのは、初めて来た日以来。店舗に入ってすぐのところにある受付のカウンターで、店舗運営をする”内勤”と呼ばれる男性スタッフが迎えてくれた。 前にも行き会ったことがある彼は、圭太が店に入るなり「いらっしゃいませ」とにこやかに挨拶をしてから、「琉季さんですよね」と言ってくれたので、覚えていてくれたことに嬉しさを感じる。 「あ、はい」 「少々お待ちください」 その内勤さんは、店内のスタッフ専用の無線イヤホンを使い『琉季さん、圭太さまご来店です』と言っていたので、琉季を呼び出してくれたようだ。 「では、こちらへどうぞ」  すぐに席へと案内してくれて、おしぼりをもってきてくれた。  眼鏡男子で、ごく普通の男の子に見える内勤さんで、どうしてこの世界にいるのだろうと内心不思議に思う。全く、トラブルとかなどとも無縁そうに見える青年だ。 ホストクラブでは、指名のホストや自分のドリンクに加えてヘルプに着いてくれたホストの分も客が料金を支払う。 特にシャンパンなどを入れなくても、3時間くらい滞在すれば2万円ほどはかかる。 けれど基本的に、いつ来ても缶チューハイやビールしか圭太も瑠季も飲まないから、いつも最低料金だ。 正直、瑠季には申し訳ないものの圭太は高額な酒をオーダーできるほどに稼いでいるわけではない。  圭太にしてみれば、通うだけで精一杯なのだ。 「ごめんね、高い酒入れられなくて」  瑠季と2人きりで席にいる時に、つい気持ちを吐露した。 「いや、来てくれてるだけでも嬉しいよ」 「そうかな。こういうところだとアルマンドとか高い酒入れるのが普通なんだろうし……そういうの入れてくれる人沢山いるんだろうなって思って」  圭太の濡れたグラスを拭いてくれていた瑠季が動きを止めて、圭太を凝視した。 「それは、まぁ、いるけど……お前よくそういう酒知ってるな」 「……僕だってバーに勤めてるし、それくらいは知ってるよ。でも、やっぱり高額入れられるお客さんいるんだね」  圭太は分かりやすく気落ちした。 「じゃあさ、クリスタルでもモエでもいいから入れてよ」 「え、僕には無理……」 「あれ?圭太は俺を支えてくれないの?ここはホストクラブだけど?」 「そうだけど……じゃあ……今度からで良ければ」 もしかしたら、いずれはこんなことを言われるかもしれないとは思っていた。だから、圭太も覚悟をしなければいけないのだろう。この店に来ているのだから。 「ほんと?ありがとう」  瑠季は満面の笑みを浮かべた。売り上げが上がることが期待できるのが嬉しいのか。 「俺さぁ、ナンバー1になりたいんだよね」 「あー、そうだよね」  既に今の時点でナンバー2なのだし、上を目指すのは当然だろう。 「でもさぁ、後一歩届かないんだよな。エース絶賛募集中なんだ」 「え、エースって何だっけ」 「あー、えっと、簡単に言えば一人のホストに一番お金を使ってくれるお客さん」 「そ、そうなんだね」 「って俺、何説明してんだ」  瑠季は決まり悪そうに苦笑いした。 「瑠季さんくらいなら、いっぱいお金使ってくれるお客さんいるんじゃ……」  瑠季はホストなのだから、客が付いていることは分かる。見ず知らずのいわゆる“被り客”の存在に、なぜかチクリと心が痛んだ。 その理由は圭太にも分からず、突然起きた心の痛みを自分から追い出した。 「ねぇ、俺のエースになってよ」 「でも……」  確かに、琉季の助けにはなりたい。支えたいと思う。けれど、他のお客の影が圭太の脳裏にチラつき戸惑う。 なんでこんなに、他の琉季のお客が気になるのだろう。つい、他に大金を使ってくれるお客がいるなら、そちらに頼んでエース様になってもらえば良いじゃないかと思ってしまう。そう思う理由がなぜなのかは、圭太には分からなかった。 「お願い……俺のためなら、できるだろ?」  琉季は圭太の頭を撫でて自分の体を寄せて迫ってきた。いつもの琉季の付けている香水の匂いが、鼻をつく。 「なぁ、もしエースになってくれたら、イロイロと、優しくしてあげるよ?一番の、俺の王子になれるんだから?」  そう言う琉季の目は獰猛さを孕んでいて、これまでに見たことがないような獣の目をしていた。その目を見た圭太は怖さも感じ逆らうことなどできなかった。 「はい……」 自分の意思とは関係なく、圭太は返事をしていた。 『良かった』とばかりに、琉季がペロリと圭太の頬を舐める。もう、後戻りはできない

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