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第8話

「ちょっとトイレ行ってくる」  しばらくしてソラが席を立った。その瞬間に、琉季が身を寄せて肩に腕を回してきた。 「な、何?」  こういうことを、平気で他の男にもするのだろうかと何気にチクリと心が痛んだ。 「実はさ、3カ月後に俺のバースデーやるんだ」 「え、誕生日?」 「いや、誕生日は来月なんだけどさ、イベントを5月にやるんだ。売り上げ見込める時期にやるってこともあってさ」 「そうなんだ。そういえば、何歳になるの?」  うかつにも聞いたことがなかった。 「あぁ、26歳になる」 「そっかぁ」 「あれ、お前は?」 「僕は今21歳だけど……誕生日ならお祝い、したいな」  何気なく言った一言だった。ただ、琉季の誕生日を祝いたいと純粋に思っただけ。 「本当?」  琉季はますます圭太に顔を近付けてくる。キレイな顔が迫ってくるので、圭太はたじろいでしまう。 「う、うん」 「ならさ、イベントの時にタワーしてくれないかな」 「タ、タワー??」  圭太の脳裏に、テレビでしか見たことのないシャンパンタワーが浮かぶ。自分に、シャンパンタワーをしてくれというのだろうか。 「うん。100万くらいのお願いしたいんだよね」 「え、100万??」  そんな額、これまでに自分でだって使ったことなどない。あまりの額に驚く。 「頼むよ。圭太しかお願いできる人いないんだよね」  もっともらしいことを言うけれど、本当は何人にも同じ言葉で頼んでいるに違いない。そんなことを思ってしまう。 「お願い……圭太……お前だけが頼りだよ。な?」 琉季の鼻がもう少しで付きそうなほどに顔を近付けてねだられた。 「ぼ、僕そんなにお金使えない……」  今勤務しているバーの給料だけでは、とてもタワーに金など使えそうにはない。 「えー? 100万でも高くない方なんだよ?使えないじゃなくて、使えるようにならなきゃ。なるんでしょ?俺のエースに。ならタワーもやれるようになんなきゃね」 「琉季さん……」  そう言われると弱いし、ズルいと思う。結局はこうしてお金をどんどん使わせるように仕向けられているのが分かる。けれど、それを分かっていて圭太は今も琉季の隣にいるのだ。 「使えるようにって、どうやって?」 「んー、女の子だったら風俗で働きだす子とかもいるけど、ウリ専で働くのってどうかな。まぁ、ゲイビデオとかに出るって手もあるけれどさ」 「ウリセン??」  聞いたことがあるような気がするけれど、何だったか思い出せないワードだった。 「男用の風俗ってとこかな。デートしたり色々相手するんだ。もちろんセックスも含まれるかな」 「え???」  思わず、圭太は素っ頓狂な声を上げてしまった。つまり、自分に貢ぐために体を売れということか。頭が混乱してしまう。 「俺のためになってくれるんじゃないの?俺の、一番の王子になってくれると思ってたんだけど」 「他の人にも同じこと言ってるんでしょう?僕じゃなくても……」 「え、信じてくんないわけ?悲しいなあ。俺はお前を信じてるよ?」  一体、圭太のどこをどう見て信じていると言うのだろう。琉季は圭太の頬に手を添えて目を合わせてきた。 「ね?一緒に頑張っていこうぜ?俺を最高のステージに上げてくれよ」  なんてクサいセリフだろうと思う。でも、圭太の心は傾きつつあった。 そんな話をしていたら、ソラも戻ってきて再び3人で話しを始めた。そして圭太はどんどんと酒を勧められ、泥酔してしまう。

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