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第9話

「ん……」  気付いて目覚めると、辺りは日の光で明るくなっていて、圭太はどうやら知らない場所にいるようだ。しかも自分はベッドで寝ていたらしい。 ここはどこだと思いながら、昨夜のことが思い出せない。というよりも、タワーだとかウリ専だとかの話をされたところまでは思い出せるが、それ以降の記憶がないのだ。 ふと顔を横に向けると、なんとそこには琉季がいて寝息をたてながら熟睡中だった。 「うわっ!」  あまりの衝撃に、思わず声を上げてしまい、琉季が目を覚ました。 「あぁ……圭太、おはよ」 「おはよう……って、なんで僕たちはここにいるの?」  きょとんとした目で素朴な疑問を投げかける。ある程度は雰囲気的には察しているけれど……。 「え、なんでって……覚えてないの?」  圭太はベタな展開だなと思ったものの、この現実を受け止められない。顔から血の気が失せていくようだ。この状況からして、大体は察しがついてしまう。 「うん、ごめん……記憶なくて」 「えー、かなりショックなんだけど?圭太も相当酔ってたもんなぁ。あのあと、ここ来て堪能させてもらった」 「た、堪能!?」  ますます圭太の顔は青ざめた。一体、自分の記憶がない間に何が起こったというのだろう。 「えー?ホントに覚えてないのかよ。セックスしたんだよ。結構良かったよ、お前。初々しかった」  そう言って琉季はニヤニヤと笑った。  この目の前にいる琉季と、事に及んだというのか。本当に、全く思い出せない。 愕然としていると、琉季は額にチュっと唇を落とした。 「ちょっ……琉季さん……」 「俺と、こういうことするの嫌なの?そんなことないよな。あんなに大胆になってたのに」  本当なのか少し疑わしい気もするが、関係を持ったのはどうやら事実らしい。 「いや……何だかとてつもなく恥ずかしいなと思って。あ、そういえばソラさんは?」 「あー、ソラはあの後他の客に呼び出されて行っちゃったよ」 「そ、そう……」 「俺たちももう後戻りできないよ?俺から、離れないよな?」 「うん……もちろん」  それは、まるで魔法にでもかけられたみたいに、琉季に心を固められた。それもガチガチに。 「あぁあとさ、俺のために稼いでくれるって話、頼んだからな」 「えっ」 「昨日話したよな?タワーしてくれって。それまで忘れたわけじゃないだろ?」  一瞬驚いたが、忘れたわけではない。 「覚えてるよ。ちゃんと、考えてみるから」  きちんと否定できない自分を情けないとも思うものの、瑠季にはどうしても逆らえない。 「ありがとうな」  瑠季は頭を撫でてくれた。  数日後、起きてご飯を食べている時にふとシャンパンタワーをしてほしいと瑠季に言われたことを思い出した。 シャンパンタワーをするにはお金がかかり、100万円のものを頼まれた。  自分に頼ってくれたのは嬉しい。それに圭太は、瑠季を一番に支えるともう決めたのだ。 今よりも稼ぐためには、瑠季が言うようにウリ専とやらで働く必要もあるようだ。  食事を済ませてネットでウリ専について調べてみると、男性を相手にした風俗らしい。 泊まりもあるようで、身体を使うことは間違いないようだ。 「やっぱり、やるしかないかな」  圭太は人知れず呟いた。  そして、その日のうちにスタッフ募集中の新宿にあるウリ専店舗に応募をして、“ケイ”という名で働くことになった。  バーの勤務を抑えるようにして並行して働くことにしたので、生活はよりハードになる。瑠季の店に行く機会も減ったが、瑠季のタワーのためと思えば頑張れる気がした。

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