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第11話
月日が流れ、あっという間に琉季のバースデーイベントの日が訪れた。それまでの数カ月は、琉季とあまり会う暇もなくバーとウリ専での仕事に追われる毎日だった。もちろん、彼の本当の誕生日にも会いに行けず、ウリ専の客を相手していた。
琉季のタワーのためだと思い、必死に我慢しながら仕事をこなす日々。日を追う毎に琉季に会いたいという気持ちが膨らんで、パンクして破裂してしまうのではないかと思うくらいになっていた自分に、圭太は驚いた。
それでも、自分の気持ちと向き合う余裕や暇もなく、慌ただしくイベントの日を迎えたのだ。
『会いたかった』
素直にそう言えたらいいのだろうけれど、それを言ったら負けの様な気がしたし、会いたいなんて気持ちになった自分の心もまだはっきりと掴めていないから、言うのは止めにしておく。
「会うのは久しぶりだな」
「うん」
琉季とは、シャンパンタワーについてメールや電話であれこれと打ち合わせをしていたけれど、会うのは久々。
「寂しかった?」
琉季はニヤリと笑った。
本心がどこにあるのか分からないその表情に、圭太も少しだけ意に反したことを言ってみる。
「べ、別に?」
「えー??嘘でしょ。こんなに会ってなかったのに、俺に会いたくなかったんだ?寂しいなぁ。俺はすっげぇお前に会いたかったのにさ」
そう言うと、琉季は額にキスをしてきた。
「ちょっ……」
思わず、額を手のひらで押さえてしまう。
「有難うな、タワー。おかげでいいのができたよ」
「ううん。ごめんね、100万のしかできなくて。本当はもっと高いのをしてあげたかったんだけど」
琉季からは後から、200万円のタワーを頼まれていたのだが、どうしても300万円は無理だったので、100万円に押さえてもらったのだ。せっかくの晴れ舞台に、満足のいくものが用意できなかったみたいで、本当は申し訳なく感じていた。
「いいんだよ」
琉季はサラリと圭太の栗色の髪の毛を撫でた。
「……じゃぁさ。今度タワーするときには300万円のを頼むな」
「う、うん……」
「今回よりも長い期間取れば、それだけタワー代稼げるだろ?俺としても結構売り上げに影響すっからさ、こーいうの。一気にバーンって他のヤツと差を付けたいわけ。わかる?」
意味あり気に、琉季が顔を覗き込んでくる。
「わかるよ、それは……」
「俺のために、カラダ張ってくれてるんでしょ?頑張りでアイジョウを伝えて欲しいな」
直接的にそんなことを言われて、圭太は一瞬返事に迷った。単にもっと金を稼いで来いと言っているようなものだ。
ホストはお金を使ってもらってナンボの世界だし、頭では理解しているのだけれど……。
「そうだね、もっと頑張らなきゃ」
「よしっ!お利口だな、圭太は」
琉季が頭をわしゃわしゃとするので、胸の奥がキュンとなるのと同時に虚しさも覚えた。
金を使っているから構ってもらえているんだろうなと思ったから。
そうしていると、瑠季は他のお客に呼ばれてしまった。
「悪い。すぐ戻ってくるからさ。良い子で待ってて。あと、アフターも一緒に過ごそうぜ?2人で」
瑠季は圭太の頭を撫でて席を立ってしまい、閉店までの1時間戻ってはこなかった。
結局、 ヘルプのホストに飲ませるしかなく、いつ戻ってくるのかと気が気じゃない時間を過ごして、ヘルプと何の話をしたかも頭には入らない。
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