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第23話
「そんな……琉季さんはやってないんでしょう?ならやってないって……」
言い終わる前に、琉季が遮った。
「言ったさ……けど、聞く耳なんて、持ちやしねぇ……。そんで、このザマだ」
「その内勤の人は?」
「知らね……どっかに。消えたんじゃね」
一緒に働いていた人間に、嵌められたというわけか。本当に、人間何があるか分からない。そして、何をしでかすか分からない。
「酷い……こんなことするなんて。もう、心臓が止まりそうだったよ。琉季さんに何かあったら、僕はどうすればいいんだよ……」
いつの間にか、ポロポロと涙が頬を伝っていた。そこで圭太は気付いた。すっかり本気で琉季に心を奪われていることを。こんなに心配したのは琉季だから。身体の関係とかを抜きにして、自分は琉季が好きだと実感した。
でも、今はそんなことを考えている場合ではないだろう。
「お前、何で泣いてんだよ……」
「な、泣いてない」
圭太が少しだけ強がると、琉季は力なく笑った。
「嘘吐けって。俺を心配して、来てくれたんだろ?あんな電話かけたからな」
「そ、それはそうだけど。ねぇ、病院行かないと」
「いや、それはやめとく」
「な、何で?早く治療しなきゃ」
「何でこうなったんだって聞かれるだろ?ただのケンカっていうこともできるけど、騒ぎ立てたくない」
「琉季さん……」
本当なら、こんなに傷だらけになったのだから早く手当をしてもらった方が良いに決まっている。けれど、琉季は大ごとにはしたくないらしい。
「世話になってる店だしな」
「何言ってるの?犯人扱いされた挙句、ボコボコにされたのに……」
「はは。まぁ、確かにな。明日以降は、俺の立場も悪くなるかもしれない。それでも、ここは俺。が見つけた居場所だからさ」
琉季は緩慢に腕を動かして、力ない手でポンポンと跪いている圭太の膝を叩いた。
「とにかく、ここを出よう」
圭太は傷だらけの身体に配慮しながら、琉季を抱き起した。
「歩けそう?」
圭太が問うと、「少しなら」と琉季は答えた。
ケガ人を抱えながら、携帯電話のライトを頼りに出口に移動する。
「ねぇ、お店の鍵持ってる?」
琉季の持っていたスペアキーで店に鍵をかけて、タクシーに乗り琉季の家へと向かった。ホストの家になど行っても良いものだろうかと思ったものの、非常事態だから仕方ない。まぁ、琉季の家に行ける嬉しさがないとは言い切れないが、今は心の奥底にしまっておく。
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