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第26話

 滅多にこういう店に来ることがないため、失敗をしてしまわないか心配で、緊張をする。何となく、マナーがなっていないと思われたら、菅野にあきれられてしまうかもしれない。  なので、ここに来ることが伝えられてから、マナーをネットで調べたくらいだ。  大きなグラスに注がれた赤ワインで乾杯をする。 「乾杯」  2人のグラスが合わさるカチンという音が響き渡った。 「何に乾杯?」  圭太はおどけた風に聞いてみる。実際に、なぜこんな高級な店に来ているのか分からないから。 「なんだ、忘れたのか?もうすぐ俺たちが知り合って半年になる」 「あ、そっか。そうだよね。ごめん、気付かなくて」 「いいんだ。君が目の前に今もいてくれてるんだから」 「菅野さん……」 「出会ってから、今も変わらず可愛い君が好きだ」  菅野は微笑むとワインを一口飲んだ。 「ありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いします」  ウリ専のボーイとして可愛がってくれているのは嬉しいし、有難いと思うから、圭太は”ボーイ”として礼を言った。 けれど、少し菅野は不満そうだ。 「俺は、本気で言ってるんだ」 「うん。菅野さんが贔屓にしてくれてるのは凄く有難いよ。本当に、いつもありがとう」 「そうじゃなくて」  菅野は手にしていたワイングラスをテーブルに置いた。 「え?」 「俺が言っているのは、客としてじゃなくて男として君に惚れているということだ」  至極真面目な菅野の目を見て、圭太は固まった。 「そ、それはありがとう。僕も菅野さんのことは好きだよ」 「それは客としてだろう?お金を落とす客だとか、良い客だとか思われているんだろうけど、俺は一人の男として見て欲しい」 「それは、嬉しいけど……」  ふと、琉季の顔が脳裏に浮かんだ。助けて欲しい。この状況から救って欲しい。誰でもなく、琉季に。  どうやって切り抜けようか、圭太は大いに悩んだ。 第一、客と付き合うことは店ではご法度とされているから。 「君に本気なんだよ」 「嬉しいのは嬉しいよ。僕だって菅野さんは優しくて素敵な人だと思ってるし」 「なら、付き合ってよ」 「そうもいかないんだよ。お客さんとはそういう仲になっちゃいけないからさ」 「……俺がこんなに君を欲しているのに?」 「ごめん」  受け入れられない。もちろん店の決まりで電話番号などの交換もNGになっているし、個人的な付き合いはしてはいけない。例え今の関係性が違っても、圭太の心は琉季にあるし、例えボーイとお客でなかったとしても圭太には琉季だけだ。  しかし、菅野はまだ引き下がらない。 「んー、じゃあさ店に隠れて内緒で付き合っちゃえばいい」 「無理だよ。もしバレたら僕が店にいられなくなる」 「バレないようにすればいいだろ?ていうか、今の店に拘る理由でもあるの?」 「お金が必要だから……」

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