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第28話
しばらくの間、菅野は圭太の予約を入れなくなっていて、圭太自身も忘れかけてしまいそうなほどで、取り敢えず平和な日々が続いた。
7月になり、暑さも増してきた頃にバーへの出勤前に琉季から電話がかかってきた。彼から電話が来るなんて珍しい。
「あれ、どうしたの?」
『来週の土曜にさ、花火大会あるの知ってるか?』
「あぁ、そうだね。そういえば」
「土曜の夜、お前予定ある?」
ということは、もしかして?
「え、バーのバイトは入ってるけど」
『そっか、残念だな。お前と行きたかったんだけど』
暴行事件があってから、琉季は少しだけ圭太に優しくなった気がする。接し方が柔らかくなったし、見つめる眼差しも以前とは少し違うような気がするのだ。まぁ、気のせいかもしれないけれど。
「え、え?じゃあ、バイト他の日に代わってもらうよ!」
咄嗟に出た言葉だった。せっかくの琉季からの初めての花火の誘い。断るわけがない。
『あ、マジ?いいの?良かった!じゃ、その日予定入れるなよ?』
もしかしたら、他の人を先に誘おうとしたんじゃないかと思わないでもないけれど、そこは気にしないようにしよう。
「うん、もちろんだよ!楽しみにしてるから」
『あ、あぁ。今日もバーだよな?じゃ頑張れよ!』
琉季の声は、心なしか照れているようにも感じられた。
「うん。ありがとう」
電話を切る。ほんの少しの間だったけれど、電話をもらえて嬉しい。今日も仕事を頑張れそうだ。
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