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第30話
「いっつもビール飲んでるけどさ、やっぱ、こういうシチュエーションで飲むのが美味いな」
自分たちの席に戻り、ビールに口を付けるなり琉季が感慨深げに言う。
「そうだね。いつもと違った雰囲気の中で飲むのは格別だよ」
「そういや、内勤の奴いたじゃん。俺が金盗んだって言った」
琉季が缶ビールを飲みながら切り出した。
「あぁ、うん」
そういえばそうだったと、圭太も思い出す。そいつのせいで、琉季が酷い目に遭ったことを。
「もう1人の内勤だけじゃ店も大変でさ、プレイヤーの1人が内勤に回された」
「え、そうなんだ。大変だね」
「んで、プレイヤーも1人補充してさ。内勤やってた奴はバックレてたんだけど、結局見つかってさ、捕まったよ」
「そうだったんだ?知らなかったよ」
「マジかよ。ニュースにもなったんだぞ?最近」
バーとウリ専の仕事の掛け持ちで日々忙しく、ニュースをチェックする暇もなかったかもしれない。今日が、束の間の休息だ。「ごめん」と圭太は謝った。
「しょうがないな、圭太は。ま、仕事で忙しかったんだもんな」
琉季にわしゃわしゃと頭を撫でられた。
「でも、きちんと事件が解決して良かったね。僕も安心した」
「そだな。エライ目に遭ったけどな、全く」
当然、琉季にとっても苦々しい記憶なのだろう。彼は眉間に皺を寄せた。
「災難だったよね、ほんと。でもさ、何でホストになろうと思ったの?」
圭太の純粋な疑問だった。ビールの缶を口に運びながら聞いてみる。
「あー、友達に誘われたんだよね。まぁ、そいつも辞めちゃったけどな」
「そうなんだね。じゃあ、その友達が誘ってくれなきゃ、琉季さんもホストしてなかったってことか……。僕も出会えてなかっ……いや、何でもない」
思わず言いかけたことを途中で止めてしまった。
「何だよ。途中で言うの止めるなよ。気になんだろ」
「いや、いいんだ。なんでもない」
少しでも、琉季に気があることを匂わせるようなことは、言えない。
気持ちを伝えたって、自分が傷付くだけだから。
「変な奴」
琉季がクスクスと笑った。
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