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第31話
「ねぇ。そう言えば、今更だけど琉季さんの本名って何ていうの?聞いちゃだめかな」
「え?荒木康二だけど」
「あらき、こうじ……カッコいい名前だね」
「そんなことねぇよ。俺の名前知ってどうすんのとは思うけどな。でもまぁ、サンキュ。」
少しだけ、意地悪そうに言ってきた。
「別に。ただ聞いてみたかっただけだよ。本名聞いちゃだめなのかと思ったけど、そうでもないんだね」
「うん。まぁ、教えるなとは言われてないからな。これからも、琉季でいいけどさ」
考え過ぎかもしれないけれど、お客とホスト以外の関係はないと断言されているようにも思えた。まぁ、その通りではあるが。
せっかくの花火だし、後ろ向きになりそうな気持ちを、圭太は軌道修正した。
「で?お前はなんつーの?名前」
「あ、あぁ。僕は、上島圭太だよ。普通でしょ?」
「お前にぴったりの名前じゃね?いいと思うよ。似合ってるし」
「え、本当?ありがとう」
褒められたことは、素直に喜んでおこう。
そんな風に話していたら、いつの間にか暗くなり、ドンと花火の開始を告げる始めの花火が打ちあがった。
「もうこんな時間か」
「うん。結構あっという間だったね」
次々と、美しい花火が上がる。一発ずつ打ちあがる菊や牡丹といった円形のものや、複数個所から打ち上げられるダイナミックなもの、速射連発花火とも呼ばれるスターマインなど、その美しさに見物客たちの歓声やどよめきが起こる。
「僕、スターマインが特に好きなんだよね。勢いあるし」
「あ、それ俺も!そうだ、花火撮っておこうかな」
琉季は携帯電話を操作してスターマインの写真と動画を撮影した。
倣って、圭太も携帯電話を取り出し撮影をする。いつもと違った時間を一緒に過ごしていることに、幸せを感じながら。
「一緒に撮ろうぜ」
琉季が身を寄せてきた。
「う、うん」
バンバンと花火の音が鳴り響く中で、琉季がシャッターボタンを押した。
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