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第42話
それからは、琉季に想いを告げるタイミングなどを考えて悶々と日々を過ごした。
『もしかしたら』という、少しの望みをかけて、次に彼に会いに行った時に告白をしようと心に決めのだ。
そんな矢先のこと……。
家で知らない電話番号から連絡があり、訝しがりながらも出ると、それは圭太の地元にある病院からだった。
「そうですけど……え?母が倒れた?」
内容を聞いて、心が落ち着かなくなる。何も考えられないような状態になり、取り敢えず一言だけ告げた。
「分かりました。これから伺います」
ちょうど休みの日で、家にいたところだった。圭太は電話を切ると地元に戻る用意をした。
『一体、どうしたんだろう』
道中の電車の中で、車窓からの流れを眺めながらふと考える。
母親は、圭太が2歳の頃に離婚していてそれ以来女手一つで圭太を育ててくれた。
働き通しで、結構な無理をしてきただろうと、圭太も思う。
最近では、圭太も家を出ているのでその分は忙しさは緩和されているだろうけれど、長年の無理がたたったのだろうか。
病院に着くと、母親は病室のベッドで弱弱しく横になっていた。
「母さん……」
命に別状はないようだけれど、母親の以前とは違う姿に、圭太は愕然とした。
地元を離れる前は、母親は特に変わったところもなく元気だったのだ。
その頃とは違い、明らかに疲れて見える母親を目の前にして、胸が酷く痛む。
「圭太……来て、くれたの」
前とは打って変わって弱く聞こえる声。自分の性志向を打ち明けたことで、苦悩させてしまったのも原因になるのだろうか。
「あぁ。大丈夫?母さん」
「ちょっと、頑張り過ぎちゃったみたい」
そう言って、母親は力なく笑った。
「ごめん母さん、ずっと無理させてきて」
「あんたが、謝ることはないわ……あんたがいれば……それで、良かったのよ」
「母さん……」
圭太は、好きに生きている今の自分の現状を、母親に対して後ろめたく感じた。
自分は何をやっているんだろう。そう思ったのだ。
「あんた……こんなところにいて、大丈夫なの?仕事は?」
圭太はしゃがんで、母親の手を取った。
「あ、あぁ。大丈夫だよ。休みもらったから」
今やっている仕事を知ったら、きっと母親は驚くだろう。それに、男に貢いでいてその相手に本気で惚れているなどと知ったら、どんなに嘆くのだろうか。
絶対に知られてはいけないと、圭太は強く思った。
「ごめんね、圭太。迷惑、かけちゃったわね。私は、ちょっと疲れが、溜まってるだけだから」
「無理したんだろ、母さん。昔から働き通しだったから。それが蓄積してたんだな」
圭太がギュッと母親の手を握る力を強めると、母親は薄く笑んだ。
翌日、圭太は母親の担当医に呼ばれた。
「先生、母は他にもどこか?」
圭太が単刀直入に聞くと、医師は一瞬躊躇した。
「お母さんは、肝臓も患われています。命に係わるほどではありませんが、しばらくは入院が必要でしょう」
「か、肝臓ですか?」
「えぇ。急性肝炎です」
それを聞いて、圭太は時が止まったような気がした。
寝耳に水だった。
病室に行くと、母親の調子が良さそうだったので、肝炎のことを聞くことにした。
母親は、スナックに勤めていて酒を飲むことが多いのだそう。
一緒に暮らしていた時には、そういう仕事をしているとは言っていなかったから、圭太は驚いたのだ。
もしかしたら、最近始めたのだろうか。
圭太が新宿に行ってから、自分の仕事で忙しく母親のことを気に掛ける余裕もなかった。
親不孝なことをしただろうかと思う。
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