60 / 63

第60話

「皆が見てるだろって思った?」  声を潜めて琉季が聞いてくる。 「うん……」 「俺は、これまで一緒に頑張ってきた仲間に宣言したかったんだ。これからお前と生きるって。お前は俺のものだってな。迷惑だった?」  耳打ちされた圭太は、顔を真っ赤にして首をブンブンと横に振る。 すると今度は頬に口づけてきた。  場内からは、囃し立てる指笛が聞こえたり「おめでとー!」という声が飛んだりしている。  ふと、自分の幸せの陰で泣いている人がいるのではないかという思いが、頭を過った。 今日の客たちは皆楽しそうにしていたし、恨めしそうにしている人はいないように見えた。 けれど、自分がそうだったように、他の客に嫉妬する人もいるかもしれない。 本気で、琉季を好きな人も実はいるかもしれないのだ。  それを思うと心苦しいが、自分は精いっぱい琉季と幸せになろうと心に誓った。  皆がワイワイと騒いでいる最中に、圭太は声をかけられた。振り向くと、そこにいたのはソラだった。 「いよいよここ卒業だね、琉季さん」 「そうですねー、これからどうなるんだろ」 「あ、だってケイタくんもいるんでしょ?きっと良い道が開けるって」  そう言ってくれるなら、そうなのかもしれない。 「そうだといいんですけどね」  圭太は苦笑した。 「何言ってるんだよ。ケイタくんが琉季さんと幸せになるんでしょ?大丈夫。自信持って」 「そうですね。僕もしっかりしなきゃな」  ソラは優しい目で見つめてきた。 「おめでとう。きっと素敵な未来が待ってるから。二人なら何でも乗り越えられると思うし、心配しないで」 「ありがとう、ソラさん」

ともだちにシェアしよう!