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「お、おい、アンタ何やってんだよ、」 震える声を誤魔化して、冗談めかした言葉はアザミには届かない。彼の体を起こそうと、肩付近に回した手が、ぬる、と滑り、その手の感触に、レイは顔を真っ青に染めた。 「う、嘘だろ」 自分の手を広げて見れば、その手のひらは血でべったりと濡れていた。そして嫌でも認めてしまう、先程の音は銃声で、アザミは撃たれたのだと。 「アザミしっかりしろ!なんでこんな、」 レイは慌ててアザミの下から這い出ると、腰に下げていたタオルを傷口にあてる。白いタオルは瞬く間に赤く染まる、弾は左肩の下辺りを貫通したようだった。 「おい、アザミ!」 「…大丈夫だ」 「え、」 反応があった、ほっとしたのも束の間、アザミは何事もなかったかのように体を起こそうとする。 「う、動くな!傷が、」 「この程度、大したことない」 「え、お、おい、」 アザミはレイの手をそっと払うと、一つ息を吐いて立ち上がった。その様子に困惑しつつ、レイは慌ててその体を支えた。焦るレイとは対照的に、傷を負ったアザミは不思議なほど冷静で、平然として見えた。まるで、痛みなど感じていないかのような振る舞いに、レイの胸は逆に騒ついてくる。どうしてそんなに平然としていられるのか、銃で撃たれて痛くない筈がないし、立つのもきっと辛い筈だ。早く止血をしなければ、腕がまともに動かせなくなるかもしれない、下手したら命にかかわるかもしれないのに。 「アザミ、」 堪らず声を掛けるが、アザミはそっと口元を緩めただけだった。 これが、一国を背負う責任を生まれながらに持つという事なのだろうか。今までも、アザミはこういった事態に直面してきたのだろうか。だとしたら、彼はどれだけ危険な目に遭ってきたのだろうか。 それでも、アザミはレイを守ろうと下がらせる。 レイは思わず唇を噛みしめ、その腕を無視して、彼の前に飛び出した。 「何している、下がれ!」 「どう見ても、守られるべきはアンタだろ!」 銃声のした方を見れば、笑い声を上げて男達がやってくる。その姿には見覚えがあった。スキンヘッドの男を筆頭に、体のあちこちに包帯を巻いている集団、あれは昨日、レイ達の酒場に現れた盗賊団だ。 「昨日、うちの店を荒らした連中だ。あいつらの狙いは俺だ」 「ならば尚更だ」 アザミは片腕でレイを下がらせた。その力の強さにレイは驚いたが、レイだって、ここで引き下がる訳にいかない。アザミに反発しようとしたレイだったが、その言葉は喉奥に吸い込まれてしまった。 アザミが盗賊達に向ける視線、その威圧感に息を呑む。間違いなくこの人は王族だ、そう感じると同時に、過去にも似たような瞳を見た事があるような気がしていた。 「君達、何か用か」 アザミが一歩前に踏み出して声を掛ける、盗賊達は、まさか一国の王子を前にしているとは露とも思っていないだろう、獲物を前に水を差されたその苛立ちを、彼らは押し込める事なく発している。レイは、はらはらしながらアザミを見上げた。 「なんだお前、俺達はそこの金髪に用があるんだ」 「悪いが私が先約だ。帰ってもらえるかな」 「はあ!?ごちゃごちゃ言ってないでさっさとどけ!どかないと撃つぞ!」 その言葉を合図に、男達が一斉に銃を構えたので、レイはさすがに黙っていられず、咄嗟にアザミの前へ飛び出した。アザミの覚悟を無駄にするのは申し訳ないが、命には変えられない。自分に何があろうと自分で撒いた種だ、だがアザミは、ただ自分を守ろうとしてくれているだけ、いくら素質が疑われようとも、決して傷つけてはいけない命、この国を背負う王子なのだから。 「伏せろ、アザミ!」 逃げても間に合わない、レイはアザミの体に抱きついた。このまま体を伏せさせようとした直後、「撃て!」と背後から声が轟く。レイは覚悟を決め、きつく目を閉じた。このまま蜂の巣にされようとも、アザミだけは離さない、この薄い体だって、盾くらいにはなるだろう。 しかし、レイの覚悟は一瞬にして宙に浮いてしまう。レイがきつく目を閉じた瞬間、その体が、アザミの片腕に抱き込まれてしまったからだ。

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