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第5話 攻め視点

「ねぇふじ、今期のMVPは宮坂さとくんにしようと思うんだけど、いい?」 すぐりの探るような視線に気付きながら、宮坂という言葉に反応してしまった自分が恨めしかった。 宮坂さと、好きになってはいけない相手。そうわかっていたのに、気づいたときにはもう遅かった。 出会いは約1年前。同じ学園の生徒が近所の高校の生徒に恐喝にあっている所にたまたま通りがかり、気になって声をかけた。 彼につっかかっていた男たちが走り去ったのを確認して振り向いたら、こちらを見つめ返して微笑んだ。 安堵に揺れる瞳にキュンとした。 それが恋だと自覚したのは、年度始めのすぐりの親衛隊ミーティングで彼を見かけたときだ。俺はその時、生まれて初めて、すぐりに劣等感を抱いた。 すぐりは昔から魅惑的な奴だった。高い思考力と優しげな面で何でも器用にこなしていたし、敵すらも味方にしてしまうような世渡りの上手さがあった。 対して俺は人付き合いは面倒だと感じることが多く、最低限の礼儀と立ち居振舞いをこなしているだけだ。 比べられることもあったが、すぐりはすぐりで俺は俺、どちらにだって利も不利もある。俺の良さを理解してくれる人だっていた。 しかし、こと恋愛となると別なのだと、宮坂を好きになって初めて思い知った。宮坂が好きになったのは他の誰でもないすぐりだ。 たとえ俺にどんな利点があろうとも、宮坂は俺ではなく、すぐりを好きになった。 失恋だ。 頭では理解したが、心は追い付かなかった。 すぐりの親衛隊ミーティングに出席する度、校内で宮坂を見かける度、俺はますます宮坂を好きになっていった。 他の隊員から、宮坂は高校からの外部進学者で、色々と不慣れなのだと聞いた。確かに、所作や言動には覚束ない部分があった。 他の親衛隊隊員に指摘されながら、日々懸命に行いを磨く様子はいじらしく、可愛くもあった。 何度も話しかけようと近づいたが、チラリと目が合うと、いつも宮坂は困ったように目をそらした。こちらの視線に気づいているのかいないのか、大概はその後すぐりを見て嬉しそうに微笑むのだ。 宮坂の恋を応援したいのか、邪魔してしまいたいのか、自分でも分からなかったが、俺は意地汚くも彼の恋は叶わないということを知って黙っていた。 最近すぐりには彼氏ができて、毎日のようにそいつと過ごしている。親衛隊の隊員にはまだ伏せてはいるが、明かす日も近い。 この年度で俺はすぐりの親衛隊隊長を退き、すぐりの彼氏にその座を引き継ぐことが決まっているのだ。 隊員たちはみんな、すぐりを敬愛しているがその様子は恋愛のそれとは違っていた。 新しい親衛隊隊長も人当たりのいい出来る奴だから、隊員にもすぐに受け入れられるだろう。 ただ、宮坂はどうだろうか。 いつもミーティングの度に申し訳なさそうに頬を染めていたから、叶わぬ恋とは知りつつもすぐりに思いを寄せているのだろうが、彼氏の存在を知って泣いてしまったりはしないだろうか。 可愛らしいあの顔が悔しさに歪むところを想像して、俺は高揚感にぞくりと震えた。 宮坂が泣く理由がすぐりではなく俺にあったなら、どんなにいいだろうか。 出来るならば泣かせたくは無いが、もしも涙するのならそばにいるのは俺でありたい。 たとえ宮坂が俺を好きでは無くとも。 だから俺は最大の利点を活かすことにした。 「すぐり、MVPの件だけど、俺から宮坂に伝えておくよ。」

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