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第6話 攻め視点
宮坂には嘘の日時を伝えた。
それから、すぐりの真似をして髪を下ろし、シンプルで清楚な服に袖を通した。
すぐりになりたかった訳ではない。ただ、宮坂の好きなすぐりと同じと言えるものは、顔くらいしかないと思った。
間違いでも、勘違いでもいい。すぐりとしてでも俺を見て、きっかけにして、それから本当に好きになってくれればいい。
そんな思いだった。
けれど、取り繕ってもダメだった。宮坂にはすぐに俺だとバレてしまった。
「諦めろ、恋人がいる」
そう告げれば可愛い顔を歪ませて、今にも溢れそうな涙を歯を食い縛ってこらえた。
どうにか慰めようと出来るだけ優しく頬や頭を撫でるが、不快だったのかやんわりと拒まれてしまった。
代わりの男には慰められることすら嫌だと言うのだろうか。優しくしないでと言われ、苛立った。
いくらでも優しくする。ずっとそばにいる。すぐりを思って泣く宮坂をどうにかして慰めたい。俺を求めてほしい。こっちを、俺を見てくれ、宮坂。
ぽかぽかと弱い力で俺の胸元を殴る仕草すら可愛く思えて仕方ない。
俺は衝動的に宮坂の顎を掴み、意識が俺に向くように、その唇にむしゃぶりついた。
初そうな宮坂はあまりキスの経験が無かったのか、それともすぐりに似たこの顔が効いたのか、少しすれば雰囲気に色気を醸した。
苦しいのに、悲しいのに、与えらる刺激に快感を拾ってしまう宮坂が、切なくて愛しくて俺のものにしたくてたまらない。
「やめて」と言われても止まれなかった。
早く、早く俺を好きになれ。宮坂。
「すぐりはやめて、俺にしろよ。」
気絶するように眠りに落ちる宮坂を支えながら、そっと耳元で呟いた。聞こえているだろうか?
涙と唾液に濡れた頬や口元をそっとぬぐって、窮屈そうに着込んだ制服のボタンを外す。宮坂にそっと布団をかけて、俺はすぐそばに胡座をかいた。
ここはすぐりの部屋の来客者ベッド。生徒会用に与えられるものだ。だが、今日すぐりはこの部屋には帰ってこない。
朝まで恋人のところにいると言っていた。
きっと宮坂はすぐりが帰るより先に目を覚ます。そしたらもう一度ちゃんと告白しよう。
強引に迫ったことを咎められるか、すぐりを諦められないと断られるか、どう転んだって上手くはいかなそうだ。
それでも俺は諦められない。
宮坂が本気で嫌がらない限りはアプローチし続ける。すぐりを思ってひたむきに努力し続ける宮坂の様に、俺だって努力すべきだ。
俺は眠る宮坂の手を取って、祈るように額に当てた。
「‥‥好きだ、宮坂。」
何度つぶやこうとも、言葉は空気に溶けて消えてしまう。
俺はただ宮坂の涙を受けたまつ毛が、きらきらと輝くのを眺めた。
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