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第4話
次の瞬間、ふじくんは僕の腕を強く掴み、奥の部屋のベッドの上へと引きずり込んだ。
急展開に付いていけず、僕はされるがままにベッドの上で仰向けになった。そして、僕に覆い被さって、鋭い瞳で見下ろしたふじくんが冷たい声で告げた。
「諦めろ、あんたの恋は叶わない。」
僕は何も言えず、うちひしがれた。
僕の気持ちをふじくんに知られていたということか、それとも思いを告げる前に叶わないと宣言されたことか、何がショックなのかも分からない。
ただ呆然とふじくんの冷たい瞳を見上げた。
ふじくんは、その瞳を少し苦しそうに揺らすと静かに、けれどはっきりと呟いた。
「‥‥恋人がいる。」
知らなかった、ふじくんに恋人がいたなんて。それなら、思うことすら罪だ。
「だから、諦めてくれ。」
はっきりと告げられて、僕は返す言葉もなかった。突然告げられた恋の終わりに、ふじくんの前だというのに泣きそうになって、嗚咽をこらえて歯を食い縛った。
何も言えず、何も出来ず、ただ僕を見下ろすふじくんをぼんやりと眺めていた。
すると、いつの間にか涙がほろりと溢れた。
ふじくんは厚い手で僕の頬を撫で、涙をぬぐってくれた。
無言で辛そうに目を細めて、泣き続ける僕をいつまでも優しく撫でてくれた。
ふじくんは振る相手ですら無下にはしない。それを知って、むしろ放っておいてほしいと憤りすら感じた。
僕はふじくんの手首を掴み、そっと顔から引き離した。
「‥‥これ以上、優しくしないで下さい。」
目も合わせずにそれだけ告げた。
しかし、ふじくんは突き放すどころか、それ以上に優しく僕の頬を撫で、顎を掴んで目を合わさせた。
「慰めてやる。‥‥顔だけは同じだからな。」
静かに告げて、ふじくんは僕に口づけた。
僕は平凡だから分からないが、いい男は振った相手にもキスをするんだろうか。訳もわからず、よりいっそうの苦しさを募らせた。
ろくな抵抗も出来ずにいると、ふじくんからの口づけは激しさを増した。口内に侵入した舌にじゅるりと唾液を啜られて、背中がぞくりと震えた。
心は悲しく苦しいのに、体は好きなひとからの愛撫に喜んで震えている。
ごちゃ混ぜの感情に乱されて、戸惑って、僕は握りこぶしをぽかぽかとふじくんの胸にぶつけた。
「っ‥‥んっっ、やめ、て」
少し開いた唇と唇の隙間から言葉を紡ぐ。
それでもふじくんは止めてくれなくて、酸欠と錯綜する感情とで頭がぼんやりし始める。
「っんふ、ん、んぅっ」
口づけは延々と続き、ひたすらにじゅるるっ、ちゅっ、ちゅっ、と卑猥な音が響いた。
それがどれ程続いただろうか、ようやく唇を解放された頃、ゆっくりと眠りに落ちていく時のように、僕は意識を手放した。
「すぐりはやめて、俺にしろよ。」
薄れていく意識の中でそんな囁きを聞いた気がした。
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