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第8話 ※攻め視点
宮坂は目覚めると付き合ってほしいと言った。俺から告白するつもりだったのに、宮坂の方からそう言われた。
俺は、すぐりの代わりなんだと分かっていても、断るはずなどない。
驚きと緊張で強ばった声になったかもしれないが、きちんと返事をして、俺と宮坂は恋人になった。
これから先、どんな手を使ってでも宮坂を本気で惚れさせてみせる。
そう心に誓って見つめると、宮坂はどこか不安そうに瞳を揺らめかせた。
翌日にすぐりに言われていた通り宮坂を連れて再びすぐりの部屋に行った。
すぐりは意味深な目でこちらをみていたが、俺と宮坂の関係を特に話題にあげることもなく、普段MVPの子とするような話をした。
俺は甘ったるいミルクティーを飲みながら、楽しそうにすぐりと話す宮坂を見つめた。
俺を見ろ、宮坂。
代わりなんだと分かっていても、分かって付き合うと決めたつもりでも、どうしても逸る思いを止められない。
すぐりにあって俺にないもの、俺にあってすぐりにないもの。
そんなものは数えだしたらキリがない。いくら双子といえど、違いなんて無限にある。
頭でどんなに無駄な考えだと押し殺しても、その日はすぐりのひとを惹き付ける甘い声もその瞳も、諭すような話し方もやけに気になって仕方がなかった。
すぐりの部屋にいたときはあんなに目を輝かせていた宮坂が、帰り道では何故だか不安そうで覚束ない様子だった。
俺とは隣を歩くことすら嫌なのだろうか。
代わりと言っても、顔以外はあまりすぐりに似てない俺ではやはりダメなのだろうか。
宮坂と並んで立つと、身長すらもすぐりより10cm近く高いことを思い出した。
こうやって、すぐりと自分を比べて、宮坂に好かれたいと願うばかりではダメだ。
気が付いて俺は後ろ向きな考えを捨てた。
きっかけはどうあれ、好きな相手の横にいられる今は幸せだ。
もう一度、隣を歩く宮坂を見下ろした。
何か考え混んでいる様子だった宮坂をどうにか俺の方に向かせたい。その目を見たい。
俺はそっと宮坂の手を握った。
すると宮坂は反射的に顔を上げこちらを見つめた。
可愛かった。
ただ宮坂は笑顔ではなく、驚いた顔だった。俺が望んだのは、きらきらと目を輝かせているあの笑顔だというのに。
またすぐりと自分を比べそうになって宮坂から目を反らした。
俺は不安になって、あえて声に出して確めた。
俺たちは「恋人」のはずだ。
それから一般生徒の部屋がある寮棟につくまで宮坂は手を離さなかった。
桜の散る道をゆっくりと歩きながら、どうでもいい話をする。流れる時間はまるで本当に想いあっている恋人のようだった。
別れ際、再び見下ろした宮坂は、心なしか頬を赤く染めていて、俺に本気で惚れてくれる日も案外近いかも知れないような、そんな気がした。
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