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第11話 ※攻め視点

「‥‥っごめん、なさい。も、平気、です。」 ひくっ、ひくっと息を詰めながら宮坂は言葉を紡いだ。 俺が後ろから抱き止めたままの格好なので、宮坂の香りと体温が直に伝わってくる。 こんなに近くにいるのに、宮坂の心は別のところを向いている。 「‥‥宮坂」 ひとまず落ち着かせようと名を読んだとき、宮坂の前に回り込んだすぐりの恋人が、宮坂の肩に触れながら大声で話しかける。 「君!ふじの恋人じゃん!」 すぐりの恋人は俺と宮坂が両思いだと思っているからか、無神経にもそう言った。 宮坂は驚いたらしく、顔を上げてすぐりの恋人を見上げた。 すぐりの恋人は宮坂の涙をぬぐおうとしたのか、頬に手を伸ばした。しかし、その行為とはウラハラに試すように告げる。 「もしかして君、ふじに好きだって言われてないの?俺なんて毎日言い合ってるのに。」 すぐりたちと比べたってなんにもならないのに、すぐりの恋人はわざわざ引き合いに出して、一体何のつもりだ。 さすがに制止しようと声を出しかけて、宮坂のいつにない大声に止められた。 「っだから!なんだって言うんですかっ!! ふじくんが僕を好きじゃなくても、僕たちは付き合ってるんです! ふじくんの恋人だって言うなら、浮気なんてさせないで、ちゃんとふじくんを幸せにしてください!!」 宮坂が何を言ったのか、俺には分からなかった。俺は宮坂に好きだと伝えていなかっただろうか? それに、ふじくんの恋人、浮気、誰に向かって言っているんだ? 何も言えずに黙っていると、すぐりの恋人が立ち上がって、したり顔で返事をした。 「何言ってるの?俺の恋人はすぐりだよ。」 すぐりの恋人は俺に視線を寄越して「やっぱり両思いだろ?」と目で訴えてきた。 信じられなかったが、宮坂の言葉を聞いた今俺は、何か思い違いをしていると認めるしかなかった。 そのあと、宮坂に近づいて何かを耳元で呟いたすぐりの恋人は「じゃ、俺はすぐりのところに戻るよ」と帰って行った。 ふたり取り残されて、何とも言えない空気が流れた。 「あー、宮坂、とりあえず俺の部屋来る?」 問うが宮坂はそっと立ち上がって下を向いたまま黙ってシャワールームの扉まで歩いた。 話したくないのだろうかと目で追えば、取っ手に手をかけてちらりと涙の残る目でこちらを見た宮坂は震える声で言った。 「‥‥シャワー浴びて、頭冷やします。 その後で、あの、お部屋まで、 行ってもいいですか?」 俺はすぐにでも話して誤解を解きたかった。だが、ゆっくり落ち着いて話す方がいいだろう。 「分かった、部屋で待ってる。」 宮坂がシャワールームに入っていくのを見届けて、俺はその場を後にした。

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