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第12話
咄嗟に誤魔化そうと思った。ふじくんが背に隠したということは、なるべく浮気相手の僕を恋人に会わせたくないということなんだろう。
なのに、ふじくんの恋人はわざわざ僕の前に回り込んで告げてきた。
「君!ふじの恋人じゃん!」
ふじくんは浮気相手のことをわざわざ恋人に話すんだろうか。それとも、何人も恋人がいるタイプだろうか?
驚いて顔を上げた。
するとふじくんの恋人は僕の顎を掴み、挑発的に言う。
「もしかして君、ふじに好きだって言われてないの?俺なんて毎日言い合ってるのに。」
好きだなんて、言われたことない。
当たり前だ。
僕がお願いして付き合ってもらって、恋人らしいことなんて手をつなぐくらいしかしてない。
このひとは恋人で、僕は浮気相手で。
悪いのは完全に僕の方だって分かってた。けど、僕は無性に腹が立ってしまった。
「っだから!なんだって言うんですかっ!!
ふじくんが僕を好きじゃなくても、僕たちは付き合ってるんです!
ふじくんの恋人だって言うなら、浮気なんてさせないで、ちゃんとふじくんを幸せにしてください!!」
お門違いだと分かっていても、堪えきれなくて、このひとにあたってしまった。
どうしよう、瞬時に後悔してまたうつむく。
すると頭上から、信じられない言葉が聞こえた。
「何言ってるの?俺の恋人はすぐりだよ。」
意味が分からなかった。すぐりくんの恋人、それは3人で付き合っているということだろうか。
一瞬そんな変な考えが浮かんだが、どう考えてもそんな訳ない。
ということは、単にこのひとがふじくんの恋人だというのは僕の勘違いだと言うことだ。
すぐりくんの恋人は立ち去る前に僕にそっと囁いた。
「勘違いさせるような言い回ししてごめん。
だけど自信持って。ふじは君が好きだ。」
すぐに理解出来なくて、何度も言われたことを反芻する。何が本当か分からないが、僕が沢山ひどい勘違いをしていることだけは分かった。
僕は関係のないひとに八つ当たりしてしまった。
それどころか、ふじくんが浮気しているとか僕と付き合ってるとか、余計なことを沢山言ってしまった。
ふじくんに部屋で話そうと言われたが、どうにも考えがまとまらなくて、逃げるようにシャワールームに入って来て、色々考えた。
シャワーを浴びながら落ち着いて考えて、気になったのはひとつ、ふじくんとキスしたあの夜のこと。
最初に言っていた「恋人がいる」というのはどういうことだったんだろうか。
――すぐりはやめて俺にしろ
気になりはじめたら止まらなかった。
あの言葉の意味を確かめたくて、僕は足早にふじくんの部屋へと向かった。
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