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第10話

伎乃(しの)が俺の名…お前の名は?」 「サク…三橋紗久(みはしさく)」 「紗久……俺の体調と石とは関係は……ある……あの石がないと俺は……生きていけない…」 「何故……」 「……石が俺の命を削っているからだ。石を自分のモノにしないと、命も身体も吸いとられてしまう……もっと早く俺の元に届くはずだったのに……誤算が起きてしまった……」 「そんなに大切なモノだったの……」 「人間にはただの石ころにしか見えないだろうけど……人でないモノには喉から手が出るほど欲しいモノだ……今使い魔が死んだことで石を守る者がなくなった……石の結界もきれている。お前の胸に傷をつけたやつも、石に引き寄せられた一部だ」 伎乃の手が伸び、僕のパジャマのボタンを外した。 ちょっと驚いたけど、傷口を確認したかったのだろう… 胸には浅いけど幾つもの切り傷が生々しく残っていてズキズキ傷む。 「…白い綺麗な肌が台無しだな…」 冷たい指が傷口をなぞる。 「……っ!痛いから………やめろ…っ」 「……へぇ……そういう表情……するんだ……紗久ってリアクション薄いと思ったけど」 「だから痛いって……触んなっ!」 やたらしつこく触るからぱしっと手を叩いた。 「……そんな顔してるのに……キツいな……ほら……これでいいだろ……もう……」 あ……… ぐらりと伎乃の身体がこちらに倒れこむ。 その身体はやはり冷たくヒヤリとしていた。 ……掌を握り可愛い使い魔を思い浮かべて深呼吸する… ……はぁ…… 「伎乃……よく聞いて……使い魔と僕は取り引きしたんだ。僕の願いはね……『怖イキモチをナクシテ』もらうこと……今この瞬間に契約は破棄だ」 契約ハ秘密ヲ条件トスル 「……はは……だから俺のあの姿にも全然動じなかった訳か……」 「そう……僕は6歳から恐怖を感じないんだよ……」 「恐怖は……嫌か……」 腕の中の化け物は、汗を滲ませ人のように苦しそうに僕にしがみつく…… 可笑しな質問するなぁ… 「……嫌だよ……あんな……苦しいキモチは。押し潰されそうで当時の僕には受け止められなかった……だから願ったんだ」 そうあの時……生と死も良くわからずにただ荒れ狂う波の恐怖と戦っていた。 眉間にシワをよせ、思わず化け物を強く抱きしめていた。 ……握る手の平中に感じる冷たく硬い感触。 「ほら、返すよ……」 握った右手を伎乃の目の前に差し出しゆっくり開くと、しっとり滑らかな真っ白い石が現れた。 !!!! その瞬間、化け物は瞳を赤くし勢いよくその石にかぶりついていた。 石をバリバリ噛み砕く様子は、人ではなく化け物そのものだ。 口の奥からチロチロ赤い炎が見える凄まじいその様子に僕は腰を抜かしてしまった。 その場から動けない…… 石をうっとりと噛み砕く化け物は、こちらを振り返り僕に襲い掛かる。 先ほどとは違い、熱く燃えるような体温が焼けるようだ。 目の前の化け物………伎乃は赤い瞳でギラリと睨み付ける。 暫く忘れていた恐怖が甦り、身体がいうことをきかなかった。 怖い……でも伎乃から目が離せない…… 「紗久……感謝するよ……」 「……」 僕の両手首を押さえつけ、覆い被さる化け物は赤い舌で鎖骨から首筋を舐めてくる。 焼けるように熱い…っ! 味わうように舌が這いまわり、ベロリと耳を舐め回すと勢いよく耳朶にかぶりついた。 っ!!!!!! 焼けるような激痛が全身を貫く。 「うぁぁぁっ!!っい……!」 激痛で涙が滲む……離れた化け物の口の回りには血がついていた。 「へぇ……紗久のその表情イイねぇ……そそられる……」 「……はぁ……はぁ」

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