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第23話
「あーと…君は人?…いや…化け物?」
「…あなたこそ…もう人ではないですね」
先生と話している伎乃の瞳が黒から赤に変わり…口元からも赤黒い炎が見え隠れしている。耳が人よりもピンと立っていた。人ではない変化に心がざわざわする。
でもここは…この腕の中は居心地がよくて恐怖を感じることがなかった。
以前は腰が抜けるほど伎乃のこと怖かったはずなのに何故だろう…
もし離れたら途端に恐怖で腰抜をかすかも…そう思うと離れる気にもなれないんだけど…キスをされたことが頭を過るので気持ちは複雑だ。
今この状況は仕方ない!
伎乃が先生の形をした化け物をどうするのか?喰ってしまったりするのか?炎でまる焦げにしちゃったり。
色々考えを巡らせていると足元にかさりと触れる物があった。先生が運んでいた資料のメモらしい…気になり伎乃にしがみつきながらそのメモを拾い上げる。
…何かの本だろうかページ?…第2252…第504?番号が沢山書き込んである。
…
「紗久、何やってんの」
伎乃の手が腰にまわり余計に身体を触られてるような気がしたけど、今はそれに怒っている場合ではない。
それよりメモ書きの…独特のこの番号…何だっけ…どこかで見たような…
…
「ああ!!!」
「あ?」
「せ、先生が探してるのって!ひょっとして図鑑じゃないですか!?」
「……は…ぃ…」
「それ知ってる!伎乃そこの奥の隅っこにある棚!」
「え…あーはいはい連れていけってことね。こっちこっちね、もう可愛い」
「可愛いは余計っ」
奥の片隅に本棚はここ何年か前に新しく購入されたものでまだ真新しい。
ガラスの戸には鍵穴がついているが施錠はされていない。
ここの棚は専門書が収められている棚で先生に言えば利用することができるんだ。
ここに…
神野日本植物図鑑。
この古本に書かれている植物にはすべて第何番って番号がついていたはずだ。
白黒のイラストだけど細かく正確で美しい植物が載っていて要と一緒に見た覚えがある。
「これ…!?うわっ!」
引っ張り出したその本…は以前目にしたのと違い黒ずんでいて酷く汚れていた。
端は燃えたのだろうか…焼け焦げたような後がある。
それを先生に渡した。
「あ…ああ…」
大事そうにその本を手にした先生…化け物はワナワナ震え図鑑をペラペラ捲る。
ペラペラとページを捲るたびに不思議な現象が起こった。
本に付着していた黒い汚れが動画の巻きを戻しするように先生の顔にペタペタとくっついていく。
黒い汚れはどうやら血のようでペタリペタリと皮膚に染み込んでいく…暫くゆっくり捲っていくとページの隙間からズルリと肉のような塊が飛び出し先生の顔…窪んだ二つの穴にグニリとめり込んだ…
眼球だった…
あ、
うあ、
ヤバいグロすぎた…見なきゃ良かった…
気持ちが悪くて…し、死ぬ…
たまらず顔を背け伎乃の胸に顔を擦り付けた。
頭を優しく撫でられる…伎乃の鼓動…
身体を預けるように寄りかかった。
暫く紙の擦れる音が聞こえ…
…
…
『アリガトウ』
バサリ
…
「紗久…もう大丈夫だぞ」
「…」
顔を上げるとそこに先生…化け物の姿はなく…散らばっていたプリントや資料も消えてなくなっていた。
薄暗い室内に傾きかけた日が細く射し込む。
…あ
床には真新しい綺麗な植物図鑑が落ちていた。
それを伎乃がゆっくりと図鑑を拾い上げる。
「…なかなか面白い結果だな。この本ちょっと預かる」
「…せ、先生は…」
「消えたよ。探しモノが見つかって満足しただろうからもう出てはこないさ」
「そうかぁ…」
「ま、詳しく調べるけど。おかげで俺の出番がなかったな…紗久…歩ける?」
「無理…マジ…腰が抜けた…」
「ぷ、本当…世話がやけるな」
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