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第24話*カエリミチ

腰が抜けた紗久はペタリと床に座り込んでしまった。 仕方なく…なんて全然仕方なくないんだけど、紗久をおぶって昇降口まで向かう。 下校時間は過ぎており校内にはほとんど人は居ない。 先生にみつかる前に早く校舎からでないと。 さっきの化け物…小物だけど詳細を本部に報告しないとだろうな… 紗久…強気な態度をとるくせにビビって腰抜かして歩けないって何それ。 化け物と対峙しているとき紗久はずっと俺の腕の中にいてくれた。うっかりキスをしてしまってからプリプリ怒っていたから嬉しいしホッとした。 あ ん な 化け物なんかよりも紗久に意識がいってしまう。予想通りというか…あー完全に惹かれている… 「ここに…石の欠片をはめておいたんだ」 「ここって…あ!耳朶に噛みついたあの時?!」 昇降口からはきちんと立つことができたので靴に履き替えて二人並んで帰る。 紗久の柔らかい耳に優しく触れた。サラサラした黒髪が風に靡かれ手の甲を撫でる。 夕暮れの帰り道は涼しく海から吹く風が心地よかった。 ツキシロを手に入れたあの時、怯える紗久の耳朶に噛みついた。あの時俺に石を返し契約を破棄された彼に少し同情したのだろうか。…って俺がそんな理由でするが訳ない… しかし貴重な石の破片を彼に分け与えてしまった。欠片とはいえこれがあれば紗久の恐怖心も緩和され魔除けにもなる。 「え…」 「欠片の効果で恐怖心は少し抑えられている…はず…なんだけどね?あと、紗久の居場所も欠片が教えてくれるんだ。だからすぐに理科準備室に行けたし」 「は、僕って…素は今よりも怖がりだってことか?んな…まさか…」 「取り除いて試してみる?」 「いやいや!大丈夫!これ以上ビビりなんてもう本当…無理」 ぶんぶん頭を振る紗久の姿は小動物のようで愛らしい。 「キスしたの…あれ冗談でしたわけじゃないから」 「!」 「ついしちゃった…って感じはあるけど、俺にしがみつく紗久を見てたら身体が勝手に動いてた」 「…な、なんで」 「…何でって…紗久のことが好きだからに決まってるだろ」 紗久に思い切り艶のある声で囁いた。 これは絶対効果があるって確信できる。 なぜなら… 紗久も俺に惹かれているからだ。 様子を見ながらゆっくりと自覚させようと思っていたけど、正直我慢できない。 紗久のこの性格だし待っていてもいつになることやら… 早くちゃんと意識させたい。今日何度も溜息を繰り返していたのも、無意識に俺に抱き着き頼るのもすべて俺に惚れてるからだって。紗久は自覚ないようだけどさ…考えてみろって。 もうね、俺たちは10年前からお互い惹かれているんだよ。 あのツキシロは言ったら俺の半身。 それに心奪われたのは紗久。 取り引きをしてしまったのはそんな紗久に魅了されたからだ。 『あっはは、そんなこともあるのかね…』 そう上司に笑われてしまったけれど、そうなってしまったんだから絶対手に入れる。 自宅があるマンションの前。 耳まで真っ赤にして佇む紗久の表情が抱きしめたくなるくらい愛おしかった。

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