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第2話
ガチャっとリビングの扉が開くと、眠そうな顔のルームメイトが欠伸をしながらお早うと入って来た。
「ああ、お早う。」
新聞から顔を上げずに答える。
「パン、何枚?」
トースターの前で、袋からパンを取り出しつつ尋ねてくる。
2と指で答えると、はいはいと鼻歌混じりでパンを焼き出した。
そんな姿を新聞から視線だけ上げて盗み見る。
あぁっ!
…っと、もっとぉおおっ!!
昨夜の夢を急に思い出す。
首に抱きつき俺の下で涙を流し、あられもなくよがる姿。熱さが全身を駆け抜けていく。
「幸喜 、はい。」
いきなり名を呼ばれ、目の前に焼かれてバターの塗られたパンとハムエッグが置かれた。
「スープは?」
「オニオン。」
新聞を横に置きながら答える。
「じゃあ、はいこれ。」
「ありがと。」
湯気の立っているカップを受け取り、一口啜る。
「今夜は?」
自分の分の皿を置いて、俺の目の前の椅子に座る。
「いつも通り。夕飯よろしく。」
食べながら、短く答える。
スープを飲みながら目の前で俺と同じものをモキュモキュと食べる雄偉 の顔をちらと見た。
夢とはいえ…何で毎晩、毎晩、俺はこいつを抱かなきゃいけないんだ…いくら女とやる暇がないとはいえ、こいつを抱く夢を見るとか有り得ないだろう?!
だが…。
食べる手が止まる。
俺の手であらわにされる裸体。
掴んだ時の腰の細さ。
我慢できずに上げる声。
舌に残る涙のしょっぱさ。
二人の欲で充満する部屋の匂い。
幻とは違うと五感が叫ぶ。
だとしたら、あれは現実?
いや、まさか。
いくらなんでも馬鹿馬鹿しい。
だが、と腰に手をやる。
この腰のだるさは何故だ?
考えても思い当たる事はなく、唯一の原因と考えられるのはこの夢。
ふるふると首を振って、置かれたフォークを握る。
ハムエッグを口に入れながら、やっぱりそれでもと思う。
あれは夢じゃなく、現実?
いや、だとしたらこいつがこんな風に何事もなく俺の前にいられるものなんだろうか?
機械のようにフォークを口に入れ続ける。
カチャカチャとフォークと皿の当たる音がした。
「幸喜、お皿まで食べるつもり?」
呆れた顔で雄偉が声をかけてきた。
え?!
言われて下を見るとすでにハムエッグはなく、皿の全体像が見える。
「ぼーっとしてるけど、時間は大丈夫なの?」
皿とフォークを俺の手から取り上げながら時計を見る。
それを見ながら一緒に時計に目をやると、家を出るギリギリの時間だということがわかった。
ガタンと椅子から立ち上がり、ごちそうさまと言いながら新聞を掴み扉を開けて、足早に廊下に出る。
部屋に入り、ジャケットを羽織ってカバンの中に新聞を畳み入れると、扉を閉めて玄関に向かう。
リビングから廊下に出て、いってらっしゃいと手を振る雄偉に行ってきますと片手を上げながら靴を履いて、扉を開けて外に出た。
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