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第8話

HARU、爛漫☆第4楽章『初めての事件 2』 父親が無駄に大量のお菓子を買って帰国してきて数日。 合唱コンクールの日がとうとうやってきた。 俺は春希に最後にもう1度だけ合わせたいって言われてたから、少し早く起きて春希んちに向かってた。 「おはよう!春楓。アンタも春希と一緒に乗っていきなさいね」 「ありがとう、おばさん!」 春希、まだ歩くの大変そうだもんな。 今日、明日南のクラスにだけは絶対に負けられねぇ。 俺は両頬を叩いて気合いを入れると、春希んちのピアノのある部屋に向かった。 「春希」 「おはよう、春楓」 部屋をノックすると、すぐに春希が出てきて部屋の中に俺を招き入れて抱き寄せてくる。 脚、大丈夫なのかよって思ったけど、練習時間が短くなりそうだったから言わなかった。 「今日は頑張ろう」 「おう」 手を握りあってキスを交わすと、最後になるふたりだけの練習をした。 特にミスもなく、このまま歌が合わさればいい線いけるような気がした。 「そう言えば、うちの親父に見てもらわなくて良かったのかよ」 弾き終わってから気づく俺。 「…うん、だっておじさんが一緒に来てたら春楓にキス出来ないから」 ちゅ、と音を立てて春希はまたキスしてくる。 「お前、そういう事考えない日ねぇの?そんな顔していつもエロい事ばっか考えて……」 「……春楓が可愛い過ぎるから考えちゃうんだよ……」 「え……っんんっ……!!」 色っぽい低音でそう言うと、春希は俺の顎をぐい、と持ち上げて半ば無理矢理舌を捩じ込んでくる。 「んはぁ……っ、お前朝から何してんだよ」 「春楓がドキドキするような事言うからちょっと意地悪したくなっちゃって。ごめんね」 俺は突然の激しいキスで頭がくらくらしてるのに、春希は平気そうな顔をしてるからちょっとイラっとした。 「……お前、んな事言うなんてだいぶ神経図太くなったよな」 「どうかな。これでもすごく緊張してるんだよ」 そう言って俺の手を自分の心臓辺りに触れさせる春希。 その厚い胸から伝わってくる鼓動は確かに早かった。 「春楓、僕、頑張るから結果出したらご褒美ちょうだい」 「な…何だよ、ご褒美って」 「……考えとくね」 そう言って、春希は口元だけ緩ませて笑った。 絶対、絶対エロいやつだ。 不敵にも見えた笑顔に、俺はそう思っちまった。 おばさんの運転する車に乗せてもらって会場のホールに向かった俺たち。 春翔ともすぐ合流したんだけど、それからすぐ俺たちは一番見たくない顔を見てしまった。 「おはよう。そっちのクラス、本番前なのに指揮者と伴奏者いきなり変えたらしいけど、大丈夫なのかな?」 「明日南……」 相変わらずの悪意を感じる上から目線。 「お前のせいだろ…」 「春楓、挑発に乗っちゃ駄目だ」 怒りが込み上げてくる俺を、春翔が止めてくれた。 「全然問題ないけど、この件に関して無関係のはずの君が何故その話題をするのか教えて欲しい」 春希がいつもの落ち着いた口調で明日南に言った。 「君たちのクラスにいる僕のファンのみんなが心配してるんだよ。赤の貴公子様から親の七光りでしかない凡人以下の黄嶋くんに伴奏が変わって失敗しないのかってね」 いちいち引っかかる言葉しか言わない明日南。 俺はなんとか心を鎮めながら、これだけは言おうと思った事を口にする。 「親の七光りはお前だろうが。俺は…俺たちは卑怯な手を使う奴なんかに負けたりしねぇ」 俺が睨みながら言うと、小心者の明日南の顔は青ざめていく。 それで俺は春希に怪我をさせたのはこいつなんだって確信した。 「ふ……フン、僕のクラスには全国大会で毎年入賞している合唱部のメンバーがいるからね。君たち素人に負けるはずがないよ」 そう言って、明日南は逃げるように俺たちの前からいなくなった。 「あいつ……絶対やったよな」 「あの感じは間違いないね」 「……合唱で白黒つければいい話だよ」 俺たちは顔を見合わせるとそんな話をして頷きあった。 ****************** 順番は事前にクジを引いて決められた順番で、俺たちは最後から3番目、明日南たちのクラスはそれより4つ前だった。 「……」 俺、春希と春翔に挟まれて座ったんだけど、ふたりして俺の手を見えないところで握ってくる。 「……大丈夫だ。俺がついてる」 震えてるふたりの手。 昔からずっと、ふたりがコンクールの時とかすごく緊張する場面の時、応援に行ける時はこうやって手を握って励ましてきた。 ふたりの手の方が今はデカいけど、ハートの強さはずっと俺が1番……のはずだ。 「ありがとう、春楓」 「春楓が一緒にいてくれて良かった」 出番の為に移動する時間がやってくる。 「行くぞ」 俺はふたりの手を離すと立ち上がった。 ふと客席を見ると、春希の両親と一緒にいるうちの両親の姿が目に入った。 楽しそうに春希の親父さんと話す父親と、春希のおばさんと春翔のおばさんと3人で感動したのか泣いている母親。 父さん、母さん。 俺、大好きなふたりと頑張るから。 そう思いながら、俺はリハーサル室へと移動した。 春翔がみんなをまとめて、発声練習と苦手なフレーズを何度か練習する。 俺は持ってきていた鍵盤ハーモニカで春希の指揮に合わせて音階やメロディを弾いた。 「みんな、いつもの感じで落ち着いてやれば大丈夫だから楽しんでいこうね」 春翔の言葉にクラスのみんなが呼応し、笑顔になる。 「春希、脚は大丈夫?」 「あぁ、なんとかなりそうだ」 「春楓、伴奏よろしくね」 「おう」 クラス全員で円陣を組み、春翔が 「最優秀取るぞー!!」 と言うと、みんなが 「オー!!」 と続いた。 春翔、中学部の時は少し緊張してる感じでリーダーやってたけど、今はめちゃくちゃ堂々としてる。 その様子に、ファンの女の子たちはカッコイイとか素敵とか言ってテンションが上がっていた。 順番が来たからと音楽の先生から呼び出されてリハーサル室から出ると、舞台袖で前のクラスの歌を聴き、俺たちの番が来た。 「春楓」 「おう……!?」 歌う人たちが先に入り、俺と春希がその後に入る事になっていた。 春希はステージに向かうその一時、横に並んでいた俺の額に自分の額をくっつけてくると昔と同じ優しい笑顔を見せて、 「取ろう、最優秀賞」 って言ったんだ。 春希の行為を見ていた次のクラスの女の子たちの騒ぐ声の中、俺は春希に言葉も返せずドキドキしたまま春希の後ろに続いてステージに向かう羽目になった。 「……指揮、赤木春希、伴奏、黄嶋春楓」 ステージに入ると名前を呼ばれたので春希と一礼したけど、俺、絶対真っ赤になってたと思う。 春希の奴、やる事大胆過ぎるだろ。 「はるかー!!がんばれー!!」 あぁ、ここにもいた。 うちの父親だ。 あんな大声出したら目立って仕方ねぇだろうに。 ……もういい。 俺は俺に与えられた事を完璧にやるだけだ。 「…………」 椅子に座り、目を閉じて曲のイメージを巡らせると、俺は春希の方を見る。 春希は歌う人たちを見渡した後に俺を見た。 『行くよ、春楓』 その目はそう言って手を上げる。 『頼むぜ、春希』 俺はその指揮に合わせてピアノを弾き始めた。 俺の前奏の後、みんなが歌い始める。 春翔の声、一番綺麗で目立ってるな。 女声が少し弱いから、春翔の声で支えてる感じだ。 春希の指揮もすごくいい感じで強弱つけてると思う。 各パートごとのソロも良かったし、春翔がソロで歌ったところもすごく良かった。 最後は俺がスピードを上げて、それからフェードアウトしていくように弾いて曲が終わる。 間違わなかったし、俺の好きな全体的にテンポの早い曲だからスゲー楽しく弾けた。けど、評価は別だろうから果たしてどうなるのか。 弾き終えた俺を、春希が見ていた。 口元だけだけど、笑ってくれてた。 だから俺も、笑顔を返したんだ。 会場はすごい拍手に包まれたけど、父親の俺の名を呼ぶ声がうっすらと聞こえた。 親父、どんだけデカい声出してんだよ、恥ずかしい。 一礼をすると、今度は春希と俺が先頭になってステージから降りる。 一瞬ぐらついた春希を、俺は咄嗟に支えた。 「春希、大丈夫か?」 「ん……ごめん、春楓。少し痛んだだけだから大丈夫だよ」 俺から離れて脚を庇いながら歩いていく春希。 大丈夫かな、って思ってたら、俺は後から来た春翔に抱きつかれていた。 「春楓!伴奏すごく良かったよ!!歌っててすごく気持ち良かった!!」 「お、おい、春翔!?」 歌い終わってホッとしてるのかテンションが高い春翔。 春翔のいきなりの行動に、周りからも驚きの声が聞こえてくる。 「……次のクラスが歌うんだから少し落ち着いた方がいいよ、春翔」 その様子に、春希が冷たく言った。 ……絶対ヤキモチ妬いてる。 それが伝わってくる言い方だった。 「あぁ、ごめんね、春楓。春楓のピアノがすごく良かったから興奮しちゃって」 俺に笑顔を見せながら、春翔は俺から離れるけど、春希よりも近くに立つ。 「と…とりあえず席に戻ろうぜ」 さすがにここでは揉めないと思うけど、ふたりとも何するか分かったもんじゃない。 俺がキツく言えば収まるとは思うけど。 ****************** 全クラスの合唱が終わり、いよいよ結果が発表される時が来た。 まずは金賞、銀賞、銅賞の発表があり、金賞に選ばれたクラスの中から最優秀賞、優秀賞、努力賞、審査員特別賞が選ばれる。 金賞には選ばれてる、って思ってたけど、俺のそんな予想は当たった。 今年は金賞が3クラスだけ。 ラストに歌ったクラスと、明日南のクラスと、うちのクラス。 審査員が変わってめちゃくちゃ厳しかったんだな、審査。 審査員特別賞は該当クラスなしだし。 昨年は6クラス選ばれてたのに。 「春楓……」 春翔が手を握ってくる。 「…最後に歌ったクラスかうちか…だろ?」 そのクラス、無伴奏でめちゃくちゃ上手かったから、あそこに勝てたらスゲー嬉しい。 「無伴奏の方が評価高いからね。僕たちのクラスがどこまでくい込めたのかな…」 そう言って、春希も俺の手を握ってきた。 ふたりしてまた震えてる手。 「俺ら精一杯やったし、今日が一番良かったんだからそれでもういいんじゃね?お前ら、何をそんなに怖がってんだよ」 「怖い事はないんだけど…明日南に負けたくないって思ったら手が震えちゃって…」 「僕もだよ。大丈夫だって思ってるのにね。武者震いなのかもしれない」 苦笑いするふたり。 「それでは発表します。努力賞……」 司会を務める音楽の先生の口から、明日南のクラスが呼ばれた。 会場は拍手でいっぱいになったけど、ステージに上がった指揮者と伴奏者の女の子たちは暗い顔をしていた。 「全体的にまとまっていましたが、強弱の幅が上位のクラスより薄い印象だったので努力賞にしました。女声の音の響かせ方が素晴らしかったです」 審査員の人が言った。 「続いて、優秀賞です……」 明日南のクラスに勝てた。 それだけで俺は良かった。 呼ばれたのは俺たちのクラスで、その瞬間、会場が一気にどよめいた。 最優秀賞が決まったクラスだろう、泣いたり叫んだりして賑やかだった。 「…………」 ふたりの手を離すと、俺は立ち上がって座ってるふたりの両肩に腕を回す。 「お疲れっ!!充分じゃね?」 最優秀賞は取れなかったけど、トラブルがあったのに1週間でここまで来たんだ。 3人でスゲー頑張ったよ、俺たち。 そんな思いを込めた。 「……うん……」 「そうだね……」 俺の言葉に、ふたりも立ち上がって円陣を組むように俺の背中に腕を回してくれた。 表彰状とトロフィーを受け取る為、俺と春希が呼ばれてステージに上がる。 明日南の悔しそうな顔も、両親たちが泣いて喜んでいるのも、サッカー部のみんなが手を振ってくれてるのも見えた。 「男声メインがとても新鮮で、女声をエスコートしている雰囲気とそのバランスが素晴らしかったです。指揮と伴奏は全クラスの中で一番良かったですね」 そう言われて、俺は賞状を受け取った。 「さすが黄嶋先生の息子さんですね。本当は伴奏ではなく、急遽の事だったと聞いてますよ。指揮者を支えるいい伴奏でした」 審査員の人がマイクなしになったところで俺に言ってくる。 「ありがとうございます」 あまり言われたくなかった、けど、仕方ない。 俺が父親の血をひいている事は紛れもない事実だし。 「あなたの繊細かつダイナミックな指揮、とても良かったわ。おめでとう」 「ありがとうございます…」 春希はいつもの落ち着いた感じでトロフィーを受け取った。 「すみません、写真撮りますのでふたりで並んでください」 「あ……はい……」 新聞部の腕章をした上級生らしい男のセンパイに声をかけられ、舞台袖に誘導されて俺は春希の横に並ぶ。 「じゃあこちら見てください、撮りまーす!」 ステージでは最優秀賞の表彰がされている。 春希はセンパイから見えてるかもしれないのに、シャッター音が鳴る少し前に無言で俺の腰にその腕を回していた。 俺は賞状が見えるようにと言われて両手が塞がってて、それに抵抗出来なかった。 「あっ、ありがとうございます!あと、今回の受賞について一言でいいのでコメントもらえますか?」 「えっ、コメント?」 「春希、僕が答えるよ。僕だけでもいいですか?」 俺がこういうのが苦手なんだよなって思ってたら、春希がすぐに助けてくれる。 「え、えぇ、構いません!ぜひお願い致します!!」 センパイ、俺より小さくて幼い感じなんだけど、春希の手を力強くがっちり握って目を輝かせて春希を見てるように見える。 春希のファンなのかな。 「受賞についてですが、本番にベストな合唱が出来て良かったです……でどうでしょうか?」 「あ、はい、すごく良いと思います!!」 「ではそれでお願い致します」 春希はそんな事なんて全然気にしてないみたいで、その人の手を離すと席に戻ろうとする。 「あ、あの……」 「まだ何か?」 「あの……これは個人的に知りたいんですが、赤木くんはどんな人がタイプなんですか?」 もじもじしながら話すセンパイ。 俺、ここにいていいんだろうか。 「……本当に個人的ですね……」 「ご…ごめんなさい!ぼく、高等部から入ってきたんですけど、君の事を初めて見た時からカッコイイなぁって思ってて、いつか取材させてもらえたらって思ってたんですけど、なかなかタイミングも勇気もなくて……」 一生懸命になって話してるセンパイ。 春希、どうするつもりなんだろう。 てか、俺、先に戻れば良かったのにタイミング完璧に逃してるよな。 「……分かりました。ここだけの話という事でお願い致します。僕は…芯の強い人が好きです。どんな事があっても自分が正しいと思った事を貫ける、そんな人に傍にいて欲しいです」 そう言う春希の顔は少しだけ嬉しそうに見えた。 俺の事…そんな風に思ってくれてんだ。 嬉しいな。 「あ……ありがとうございます!!とても貴重なお話を教えていただけてすごく良かったです!!」 「では、僕たちはこれで。春楓、行こう」 「お、おう……」 センパイは春希の言葉に何度も頭を下げていた。 「男からあんなアピールされるの初めてじゃね?春希」 センパイと別れ、席に戻るまでの道を歩きながら俺は言った。 「うん。でも、男女関係ないよ。僕は春楓以外の人に興味ないから」 俺の言葉に表情を崩さず言う春希。 「あ……そう……」 淡々と言ってのける春希を、俺はカッコイイなってちょっと思ったんだ。 ****************** ホールの前でクラス全員の記念写真を撮ると解散になり、俺たちは親たちがいるという近くのファミレスに向かってた。 「みんな、お疲れ様!結果は惜しかったけど、パーフェクトだったよ!!」 変装のつもりなのか、サングラスをかけた父親が言ってくれたんだけど、めちゃくちゃ声がデカい。 周りに座ってる人たち、ヒソヒソ話してるぞ。 ま、でも仕方ねぇよな。 うちだけじゃなくて春希んちの親父さんもいるし。 「みんな本当によく頑張ったわ。最優秀賞のクラスはダントツだったから仕方ないわよ。来年また頑張りなさい」 ダントツっていう言い方が気になるけど、母親も笑顔で言ってくれる。 「響ちゃーん、今日はみんなの頑張りをお祝いしてうちでパーティやろうよ」 「あら!良いわね!!」 楽しそうに盛り上がるうちの両親。 親父が帰ってきて予定がないとすぐパーティなんだよな。 春希の親も春翔の親もノリノリで参加してくれてるけど、本心では迷惑に思ってないか心配だ。 「響ちゃん、そういう事なら今回はうちでやりましょ!こないだお世話になったばかりだもの。ねっ、いいわよね?あなた」 「そうだな!今日は春希の為に予定空けてるから問題ないぞ」 春希のおばさんが言い出し、親父さんもそれに乗る。 こうして、俺たち3家族は一度解散したあと、夜に春希んちでまた集まった。 春翔のおばさんが撮ってたっていう俺たちの映像を観ながら春希の親父さんとおばさんが作ってくれたちゃんこ鍋を食べる。 親父さんのちゃんこ鍋、あっさりしててめちゃくちゃ美味いから季節関係なく食べたくなるんだよな。 「もー春楓、何で真っ赤になって出てきたのよー!お猿さんみたいじゃない」 既に酔っ払ってる母親がステージから出てきた俺を見て言う。 「うるせーよ!ステージの上、暑かったんだよ!!」 俺、咄嗟に誤魔化したけど、春翔の視線が痛かった。 「春希、どういう事?」 「…どうして僕に聞くの?」 「一緒に出てきたんだから分かるでしょ?知らないなんて言わせないよ」 「ちょっと待て!親たちいるんだぞ!?バレて今までみたいに会えなくなってもいいのかよ」 親たちから少しだけ離れたところで言い合いを始めようとしてるふたりをすんでのところで止める俺。 「「それは絶対に嫌だ」」 ふたりは声を揃えて即答した。 「だろ?ここは黙って観ようぜ」 「うん、分かったよ、春楓。…春希、パーティが終わって家に帰ったら電話するからそのつもりでいてくれないかな」 「分かった」 「電話はいいけど絶対喧嘩すんなよ」 釘さしとかないと喧嘩しそうだからな、ふたりとも。 俺たちが話してる間に映像は進んでて、ちょうどテンポがゆっくりになるところが流れていた。 「ここ!春楓が歌ってるみたいに見えてワンダフルだった!!春希くんも周りを見ながら春楓にも目を向けて本当に素晴らしかったよ!!」 父親がデカい声で言う。 「春楓のこの表情、まだ出会った頃の響ちゃんに似てたんだ!響ちゃんが楽しそうに歌ってるって思ってすごく嬉しかったんだ……」 「もぉー、賢ちゃんったら。恥ずかしいからやめてよぉー」 ……ノロケかよ。 他人ん家来てるんだから自粛して欲しい。 「春楓……こんな顔してたんだ……」 春翔の言い方が気になってその顔を見ると、イラついてるように見えた。 「春翔、その顔止めろ!」 俺、慌てて春翔に耳打ちする。 「…あ、ごめん、春楓。こんな表情した春楓を春希に先に見られてたと思うと悔しくて」 春翔が耳打ちで返してくる。 またくだらない事言ってるな、春翔。 合唱の時、俺が指揮者やってたらここまでじゃなかったんだろうけど。 「春翔くんのソロ、良かったわよね!1番輝いてたわよ!!」 「私も思った!!春翔くんは華があるわよね〜!!」 「ありがとうございます。元々は女声のところなんですが、合唱部の女の子がいなくて僕の声の方が通るのでやらせてもらったんです」 親たちの言葉に春翔が答える。 このソロ歌ってる時の春翔、カッコイイな。 表情も歌詞に合わせて切なそうにしててるし。 「私たちの子供たち、みんなそれぞれ輝いていたと思うわ。結果は1番ではなかったけど、私の中では貴方たちが1番よ」 春翔のおばさんが笑顔で言ってくれる。 「マサヨちゃんの言う通りだ。俺、春希に指揮者なんて出来るのかと思ったけど、ちゃんと形になってたから感動した!」 春希の親父さんも嬉しそうに話してくれた。 みんな、俺たちの関係に全く気づかず談笑していた。 「春楓、僕らは僕らだけにならない?父さんたち、僕らがいなくなっても問題なさそうだから……」 その様子を見ていた春希が言い出す。 「春翔も、僕の話が聞きたいだろうし」 「…やっぱ心当たりあったんだね、春希」 盛り上がっている親たちに気づかれないようにピアノのある部屋に向かう春希。 ……ピアノのある部屋。 聞かれたくない話をするからって事なんだろうけど、それだけじゃない気がしてならない。 部屋に置いてる折り畳みテーブルを広げ、そこに持ってきた飲み物とコップを置く。 「で、春希は春楓に何をしたの?」 「…こうしただけだけど」 春希が用意してくれた座布団に座ってすぐ、春希は俺の身体を引き寄せると俺の額を自分のところに近づけさせる。 「はぁ?こんな事したら春希と春楓が付き合ってるって思われるじゃないか」 「そうかな。春翔だって春楓に抱きついていたんだからそっちの方が噂になりそうだと思うけど」 「どっちもやる事おかしいんだよ!お前ら、自分の立場分かってねぇだろ!!」 俺を挟んで一触即発状態のふたりを慌てて戒めてみる。 「どうでもいいよ、春楓以外の人の事なんて」 「うん、春楓が傍にいてくれたらそれでいい」 そう言って、ふたりとも俺にくっついてくる。 「……そうだ。前は僕らが目隠しをされたから、今度は春楓が目隠ししてみる?」 「えっ、何だよ、それ」 「春楓が目隠しして僕らにいやらしい事された時、区別つくのか気になっちゃった」 「それは気になるね。春希、何か目隠しするもの持ってきてよ」 「あぁ、ちょっと待ってて」 春希が突然言い出した事に春翔はすぐに賛同する。 そこに俺の意志は関係ない。 春希がタオルを持ってくると、俺は目隠しをされてしまう。 「お……お前ら、変なコトすんなよ」 視界が見えなくなると、急に不安になる。 だから念の為と思ってふたりに向かって言ってみた。 「春楓、震えてるの?大丈夫、僕ら怖い事はしないよ?」 「春楓はただ、どっちにされたのか答えたらいいだけだよ」 床に身体を倒されると、Tシャツを捲りあげられる。 触れてくるのは、ふたり分の手。 「あ……んん……っ……!!」 胸をさする手は春翔、乳首に触れる手は春希のような気がする。 何だよ、コレ。 目が見えないだけで身体のゾクゾクがいつもより強く感じる気がしてならない。 「春楓、いつもより気持ち良いんじゃない?身体、すごくぴくぴくしてて可愛いよ」 「や……っ……違……」 「違わないよ。春楓、こういう方が好きなんだね」 「ひゃぁんっ!!」 右にいるのが春希? 左にいるのが春翔? 耳元で言われてドキドキしていると、同時に乳首を咥えられて恥ずかしい声が出た。 じゅるじゅると音を立てて吸うのと、甘噛みされて指で少しキツく摘まれるのとで身体がすぐに熱くなる。 「春楓、こっちはどっちだと思う?」 「は……あぁっ、春翔……?」 吸う音が止むと、春翔の声がした。 「正解だよ、春楓。ご褒美あげるね」 その声の方に向かって言うと、春翔の嬉しそうな声がして、それから肌をキツく吸われる感じがした。 「や……おまえ……っ、またつけやがったな……」 「服を脱がない限り大丈夫でしょ、ここなら」 「な……っ……何勝手な……あぁっ!!」 春翔が言った後、反対側から少し痛いくらいの感触に襲われる。 春希、また噛んできたな。 「はるき、力強すぎ……っ!!」 「ごめん、春楓。春翔がつけたから僕もつけたくなっちゃって」 しょんぼりしてるような春希の声。 胸に傷みたいな跡をつけたんだろうな。 「春希は随分手荒な事してるんだね。もう少し優しくしてよ」 「大丈夫だよ、春楓は少し乱暴にされた時の方が気持ち良いみたいだから」 「ん……やぁっ、はるき……っ!!」 乳首を更に強く摘んでくる指。 身体のびりびりが強くて気を失いそうになる。 「僕はそんな事しないよ。優しくてもちゃんと気持ち良く出来るから」 「はると……んぁぁ……っ……!!」 舌先で乳首の周りをなぞってくる春翔。 じわじわと攻められて、もっともっとして欲しくなる。 「春楓、今のところちゃんと区別出来てるみたいだね」 「じゃあ次は別々のところ攻めてみる?」 ふたりの温もりが離れる。 しばらくの沈黙の後、ふたりはさっきとは違う位置に移動したみたいだ。 「春楓、ちゃんと正解してね」 「んぅ……んんん……っ!!」 春翔の声の後、どちらかに口を塞がれ、どちらかが俺のハーフパンツを下着ごと脱がして俺のに触れる。 絡めてくる舌、時折聞こえる吐息は春希、触れてくる手の感じは春翔の手のような気がする。 「……どっちか分かった?」 一斉に唇も手も離れて、すごくもどかしい気持ちになる。 あぁ、でも、こんな事言ったらこいつら絶対調子に乗るよな。 我慢しないと……。 「キス……してきたのは春希で……触ってきたのは……春翔……」 「正解だよ、春楓」 「僕らの事、本当に分かってるんだね。嬉しいよ」 「え……あ……何して……」 ふたりの声が聞こえた後、身体を起こされて誰かの膝の上に載せられる。 体格の感じからして春翔っぽくて、俺のと春翔のとが触れ合った。 「春楓見てたら興奮して来ちゃったから一緒に気持ち良くなりたいなって思って」 「や……あぁ……ッ……!!」 春翔が腰を動かしながら俺のを扱くと、 「春楓はこっちだよ」 って甘く囁きながら、俺に既に堅くなっているモノを握らせた。 「春楓……こっち見て……」 「うぅ……ん……くぅ……っ……!」 春希に言われて声のする方を見ると、唇に生暖かいモノがあたる。 春希のモノだって分かって、俺は口に含んでいた。 「春希、目隠し外していいんじゃない?春楓も全問正解したし」 「あぁ、そうだね。外して春楓のいやらしい顔見ようか」 「んんっ……んむ……っ……!!」 どちらかの手がタオルを外してくれる。 光が差し込んできて一瞬くらくらしたけど、俺はこの行為に夢中になっちまってた。 「あぁ、すごく可愛いよ、春楓」 「春楓のHな顔見てたらイッちゃいそう……」 ふたりの息が上がっていく。 俺も、もうヤバい。 「んん……っ……!!」 春希のを咥えたまま、俺は春翔の手に包まれてイッていた。 その後ふたりもすぐにイッて、俺の口の中には春希の精が広がっていく。 あぁ、俺、何やってんだろう。 でも……スゲー気持ち良かった。 ふたりの事、ちゃんと区別出来てたのも嬉しかったし。 また……あればいいな、こんな機会。

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