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第10話
HARU、爛漫☆第5楽章『初めての親子共演2』
父親との時間もあとわずか。
春希の怪我もだいぶ良くなってて、ピアノの練習も普通通りに出来るようになってた。
そんな時、父親にまた取材の話が入った。
今度は父親に密着取材という事で、母親や俺までテレビ出演する事になったんだ。
そこで父親とピアノを連弾して欲しいって話があったらしく、俺は取材の日までそんなに日数がない中、父親とピアノの練習をする羽目になった。
「……どうしてこうなったんだよ」
「ごめんね、春楓。親子で何かやって欲しいって頼まれちゃってさぁ」
海外で製作され、日本でも大ヒットしたアクション映画の曲。
小学部の頃、そのカッコ良さに憧れて父親に頼んで楽譜を買ってもらって猛練習した。
その事を父親が覚えてたのかどうかは聞いてないけど、それを連弾で弾こうって言い出したんだ。
「うん、春楓はグッドからグレートになったよ。昔はただ弾くだけみたいなところがあったから」
練習を終えると父親が言ってくれる。
「そりゃ、どーも」
グッドとグレートの差、分かんねぇけどさ。
「サッカーもしてるのがいい刺激なのかな、いや、それだけじゃないよね。色んな経験…人を好きになったりとか、そういう事もある感じだよね」
「…………!!」
俺、その言葉に反応しちまった。
「春楓も恋をする年になったんだね。どんな子なの?」
「え……あ……別にいいだろ?んな事」
笑顔の父親に焦る俺。
……言えねぇよ、春希と春翔だなんて。
「ん、まぁ、そうだけどさ。親としては気になっちゃうんだよ。その人の事、春楓はちゃんと守っていけるのかな、とかさ」
「何だよ、それ」
「男なら愛する人はどんな事があっても必ず守らないとダメだっていう話だよ」
父親が笑顔から真剣な表情に変わる。
「あんまり説得力ないと思うけど、ボクはこれでもそう思ってるんだ。響ちゃんの事も春楓の事も絶対幸せにしてみせる、守ってみせるって思って仕事してるんだよ」
「そ…そうなんだ…」
俺だってそう思ってるよ。
あいつらの事、どんな事があっても必ず守るってずっと思ってきた。
今は向こうもそう思ってくれてるんだけど。
そんな愛のカタチ、ダメなのかな。
「楽しみだな、春楓が将来どんな人を紹介してくれるのか」
…ごめん、親父。
めちゃくちゃ知ってる奴らだから。
きっと、この気持ちが変わる事はないと思う。
それを知ったら父親は俺の事、嫌いになったりするのかな。
その時は……仕方ねぇよな。
父親の事も大事だけど、俺はあいつらの傍にずっといたいんだ。
******************
父親の取材当日。
俺んちには朝から取材する為にスタッフの人がいた。
「今日はどうぞよろしくお願いいたします!」
女の人は早見と名乗り、母親より少しだけ若そうな感じで明るい印象の人だった。
早見さんは撮影も自分でするらしく
、カメラもビデオも持ってきていた。
「こんなに大きい息子さんがいらっしゃるんですね!しかもイケメンくんじゃないですか!」
「ハハハ、ありがとう」
朝食の様子を撮影された後、早見さんも俺を学校まで送るために運転する父親の車に一緒に乗り込んできて、その中で俺もインタビューされる。
「春楓くんはお父さんの事、どう思う?憧れてたりする?」
「憧れてる、んですかね。自分のやりたい事やって俺や母親の事を守ってくれてるのってスゲーなって思います」
撮影前の打ち合わせで考えてもらったセリフを言う俺。
あぁ、早く学校に着いてくれ。
俺なんて取材しなくてもいいだろ。
「うん、いい絵撮れてる。あと写真も撮っていいかな?」
「は…はぁ……」
何とか営業スマイルをして1発で写真を撮り終えた時、ようやく学校に着く。
降りた先では春希と春翔が俺を待っててくれてた。
「おはよ、春楓」
「今日は朝から大変そうだね」
「えっえっ?このふたり、お友達?」
早見さん、ふたりを見て目の色を変える。
「タイプ全然違うけど、ふたりとも超イケメンじゃないですか!!」
「クールガイズたちでしょ?春楓の幼馴染でずっと仲良しの子たちなんだよ。小さい時は春楓より小さかったんだけどいつの間にか春楓よりおっきくなってたんだ」
父親がそう言ってるけど、早見さんの耳には全く入ってなさそうだった。
「ねっ、ねっ、君たち今度CMとか出てみない?」
「すみません、そういうのはちょっと……」
熱烈アピールを優しい口調で断る春翔。
「メガネの君は?」
「僕もそういう事には興味ありません、すみません…」
春希も表情を変えず淡々と断っていた。
「もぉー!!もったいないわねぇ。……あ、じゃあ息子さんと3ショットで仲良しのお友達っていう事で写真撮らせてもらえないかしら?」
「えっ」
早見さん、俺をダシにするって事か?
「早見さん、それボクの取材に関係なくない?」
「そ、そんな事ありませんよ!」
「まぁ、いいけどね。春希くんも春翔くんもボクにとっては息子みたいな感じだし。ふたりとも、1枚だけ頼めないかな?」
親父……何で止めてくれねぇんだよ。
「おじさんに頼まれたら仕方ないよね、春希」
「あぁ、春楓も一緒なら問題ないかな」
「…………」
結局。
俺たちは俺と親父を真ん中に4人で撮影した写真と、俺を真ん中にした3人の写真を撮らされていた。
3人の時は4人で撮った時よりふたりともめちゃくちゃ距離を詰めてきて、早見さんはすごく仲良く撮れてますよって言ってたけど密着しまくってたと思う。
って終わって父親たちがいなくなってからふたりに話したけど、ふたりはお互い相手の方が近過ぎるって言い合ってたからいい加減にしろって言っちまったんだけど。
父親が迎えに来るついでに部活見学するまでは平和に過ごせるのかと思いきや、こないだの合唱コンクールの後から俺のファンっていう人が男女問わず現れるようになった。
今日もまた、昼休みに下級生らしい男が俺に話があるってクラスを尋ねてきた。
「あの…黄嶋センパイとお話したくて」
下級生なんだけど、ふたりほどじゃないけど俺より背が高くてガタイがいい。
「どんな話?ここじゃダメ?」
そう言ってふたりきりにならないようにしてるけど、いつも、誰かが尋ねてきたら一緒にいるふたりがものすごい圧で尋ねてきた人を見ている、と思う。
「あ……あの……その……」
今日の男は挙動不審になり、そのままいなくなってた。
「見た目以上に繊細な子だったみたいだね」
「あぁ、強引に連れ出そうとするような人間じゃなくて良かった」
「絶対お前らが変な目で見てたからだろうが」
こんな事してて大丈夫なのかって思うんだけど、ふたりはそんな俺の心配なんてどうでもいい感じだった。
「春楓にもし何かあったら…って思うと尋ねてくる人たちがみんな悪い人に見えてしまうんだよ。ごめんね、春楓」
「僕もそう思う。皆がそういう訳ではないと思うけど、明日南が関わってるという可能性だってゼロではないしね」
「それは……まぁ、確かに」
合唱コンクールとか学祭とか、イベントの後の一時期、俺が目立つ行動をしたらこうやってファンって言ってくれる人たちが現れるけど、明日南が何かしてるみたいでそれが続く事はなくて、いつの間にか俺はふたりのお荷物ポジションに収まっている。
春希も春翔もそれを知ってると思うし、俺の気持ちだって知ってると思うんだけど、それとこれとは違うのかな。
「春楓、今日は部活の後もずっと取材?」
「おう、親父と連弾する事になっててさ…」
「聴いてみたいな、春楓とおじさんの連弾。あの女の人はちょっと苦手だけど」
「春希が聴きに行くなら僕も行くよ。春楓が楽しそうに演奏してるのを見るの、すごく好きだし」
バタバタしていて言ってなかった話をすると、ふたりがそんな言葉を返してくる。
「来てくれるのかよ、ふたりとも。早見さんに絶対また騒がれるぞ」
「だろうね。でも、春楓と少しでも一緒にいられるなら我慢できるよ」
「僕も」
小声で話すふたり。
「そうしてくれたら俺もありがたいよ。コメント考えたりすんのしんどくてさ」
「ふふっ、春楓らしいね」
「春楓の大変さ、分かるよ。僕もそういう事あったから…」
「あー、前にあったよな。親父さんの部屋に取材が来て春希も出たって事」
中学部の頃だったと思う。
春希の親父さんの部屋で初めて関取になった人が出た事でテレビの取材が来てたのは。
あの時、春希は可愛いひとり息子って事で紹介されてひとりでピアノ弾かされてたっけ。
俺の身長追い越して低い声になってたのに収録の前も後も緊張して泣いてたから俺、ずっと付き添って励ましてたよな。
「ふたりとも、大変だよね」
「いや、春翔だって俺らとはちょっと違うけど大変だろ」
「ん…まぁね。父さんの気持ちが分かるまではどうしてって気持ちもあったけど、今はそう思わないよ」
そう話す春翔の笑顔に嘘偽りはなさそうだった。
******************
家に帰るまでに母親に連絡して、春希と春翔と飯を食べるのを了承してもらって、俺はふたりと一緒に父親の車で帰宅していた。
早見さんも乗ってくるのかと思ってたけど、母親にインタビューしてるとかで来てなくて、ふたりは少しホッとしたらしい。
けど、それはひと時の事で、一緒に俺んちに入ってふたりを見た早見さんはめちゃくちゃテンションが上がっていた。
「えっ!?何で朝のイケメンくんたちが??」
「ボクと春楓の連弾が聴きたいっていうから来てもらったんだよ」
「また会えるなんて信じられない!!」
早見さん、絶対父親の話聞いてねぇな。
「春楓くん、お友達来てくれて良かったね!!」
「は…はぁ…」
早見さんの方が嬉しそうだと思うけど。
春希たちと一緒に夕飯を食べた後、少し練習をしてから撮影する事になった。
今回、俺は低音部の担当で、カメラには父親がメインで映る感じだった。
でも、ふたりは俺が見える位置に座ってその様子を見ていたんだ。
「……すごい!春楓、練習曲もあったのにこれも弾いてたの?」
「おう、でも昔弾いた事がある曲だからそこまで大変じゃなかったよ」
「そうやって言うところが春楓のすごいところだよね…」
通しでの練習を聴いた後、ふたりは俺の傍に来てそう言ってくれる。
その距離、近い気がするんだけど。
「ふたりはピアノ弾けたりしないの?」
「僕らも習ってはいますけど、春楓くんほど上手くはありませんよ」
早見さんの問いに春翔が謙遜する。
「ねっ、撮影終わったら聴かせてくれないかしら?」
「そんな…お聴かせするほどじゃ…」
「いいね、ボクもふたりのピアノ、聴きたいな。もうすぐコンクールなんでしょ?」
「えっ!?コンクール!?それってかなり上手いって事じゃないですか!!」
あぁ、親父。
今の話、絶対余計だったぞ。
「いいよね?春翔くん、春希くん」
父親の押しにふたりは押されて、連弾の後にピアノを弾く事になった。
「悪ぃな、ふたりとも」
「大丈夫だよ、春楓」
「あぁ、本番が少し前になったと思って弾く事にするから」
ふたりが俺の肩を叩いて笑ってくれる。
俺も頑張ろ。
ふたりに笑顔を返して、俺は本番に臨んだ。
「それじゃあお願いします!」
早見さんから声がかかる。
「春楓、いい?」
「うん、大丈夫」
父親の掛け声で連弾を始める。
あぁ、楽しい。
俺の音に合わせて父親がメロディを奏でてくれる。
昔はメロディしか弾きたくなかったけど、こういうメロディを引き立たせるパートを弾く方が楽しいって思えるようになってからはこっちの方がいいなって思うようになった。
特にこの曲は低音がしっかりしてないとカッコ良さが出ないから、それを早いテンポで表現するのが楽しいんだ。
あっという間の時間。
終わって早見さんがOKですって言ってくれた後、ふたりが拍手してくれた。
「ありがとう、ふたりとも」
「練習でもすごいと思ってましたが、本番は全然空気が違いましたね!」
「ハハハ、それはそうでしょう。ね?春楓」
「ん…よく分かんねぇけど…」
実際、練習との差はないと思う。
けど、これで終わりっていう事が知らないうちにいい方向に働いてたのかな。
「ふたりともいい表情でピアノ弾いてましたよ!黄嶋さんは指揮者の時とまた違う雰囲気でしたね!!」
「そうだね。ピアノと指揮は別物だと思ってるから」
確かに、指揮者の時の方が気迫みたいなのを感じた。
今は一緒に楽しくピアノ弾いてる、ってだけだったような気がする。
「じゃあ次はふたりだね。どっちからにする?」
「どっちでもいいよね?春希」
「ん……どっちでもいいなら僕が先に弾いてもいいかな?」
「いいよ。お先にどうぞ」
父親の言葉に、ふたりは顔を見合わせていたけどすぐに順番を決めていた。
春希が先に席につくと、コンクールの曲を弾き始める。
こないだのペダルなしでもかなりの迫力だったのに、春希のピアノは更に迫力を増していた。
『春楓、今すぐ抱きたい』
って言われてる気がして、俺はドキドキしながらその音色を聴いていたりする。
「すごくパワフルでパッショネイトに仕上がってるね!春希くん、すごくいい恋をしてるのかな?」
「ありがとうございます……」
父親の言葉にそう言うと、春希は少しだけ照れくさそうに笑った。
「春希くん、そんな顔してるって事は彼女いるのねー」
早見さんが残念そうに言う。
「すごく想いが伝わってきたよ。ちょっとエロスも感じるくらい大人っぽい雰囲気もあったね。すごくいい関係なんだね、その子と」
「…あ……いえ……僕はそんな……」
気のせいかな。
父親、春希に探りを入れてる気がした。
春希も何か気になったのか、笑顔じゃなくていつもの表情に戻ってる。
「じゃあ次、春翔くん」
「はい」
春希と春翔が席を交代する。
『絶対負けない』
という目をお互いに向け合ってた気がした。
春翔のピアノは春希よりタッチは弱いけど、流れるようなメロディがキレイだった。
『春楓、大好きだよ』
っていう春翔の声が聞こえてきた感じがして、春希の時と同じようにドキドキしちまう。
「春翔くんはキュートかつジェンティな感じだね。大好きな人への想いが溢れてるのが伝わってきたよ」
「ありがとうございます」
「えーっ、春翔くんも彼女いるのー?イケメンだからいてもおかしくないとは思ってたけど」
早見さん、ごめんな。
冗談なんだろうけど、俺はそう思ってた。
同じ曲なのにふたりの個性の違いが出てて、これ審査する時どうすんだろう。
その結果次第で俺は……どっちかとHするんだよな。
……俺、最低だよな。
どっちでもいいって思っちまってるんだから。
普通、そういうコトはひとりの人としかしないって分かってる。
でも、俺は……そのひとりを決められないんだ……。
******************
取材が終わり、早見さんはコンクールの時は取材を必ずすると言って帰っていった。
「ふたりとも、夜遅くまでありがとうね」
「いえ、突然押しかけてしまってすみませんでした」
「ふたりの演奏を聴けて良かったです」
父親の笑顔に応えてるふたり。
「春翔くん、送っていくけど、その前に3人に大事な話があるからみんなボクの車に乗って」
「何だよ、家じゃダメなのかよ」
「男同士水入らずで話したいからさ」
父親の笑顔が真顔に変わる。
もしかして俺たちの事、気づいたんじゃね?
そんな予感を抱えながら、俺は助手席、春希と春翔は後部座席に座った。
普段は父親が話をしてくれるのに、今日は無言でラジオの音だけが流れる車内。
ミラー越しに見るふたりの表情は固くて、俺と同じ事を考えてる気がした。
父親は少し離れたところにある公園に車を停めると、俺たちに降りるように言った。
噴水があって水遊びができるそこは、小さい時みんなでよく遊びに来ていたところで、父親も帰国したら俺たちを連れて一緒に遊んでくれた場所だった。
「覚えてる?ここで遊んだ日の事」
「うん、親父が一緒に遊んでくれて嬉しかった。ずぶ濡れになって帰って母さんには怒られたけど」
ようやく話し始めた父親に俺が答える。
「春希くんも春翔くんも、あの頃からずっと春楓の事だけ見てきてたね。毎年帰る度に思ってたんだ。この子たち、いつかは春楓から離れる日が来るのかな、って。でも、離れるどころか近づいていった。うちの春楓が抱いていなかった感情を、いつしか抱くようになってた……よね?」
「……!!」
父親の真顔に、俺たちは誰も何も言えなかった。
「あまり会わないボクだから気づいたんだと思うよ。まだ響ちゃんや君たちの親御さんには聞かれてないでしょ?」
「……はい」
春希が答えた。
「おじさん、ごめんなさい。でも、僕は春楓が好きです。いつも僕を守ってくれた春楓を今度は僕が守りたいって思っています」
「僕もです。僕の事を気にかけてくれていつも支えてくれた春楓が好きです。これからもずっと春楓の傍にいたいです」
声を震わせながら話すふたり。
そんなふたりを見た事のない険しい表情で見る父親。
「謝る事じゃないよ。君たちの純粋な気持ちは受け止めたいって思ってるから。…で、春楓は?春楓はどう思ってるの?」
「お、俺……は……」
怒ってる。
数えるくらいしか見てないそんな顔に、俺はビビってた。
「ふたりに告白とかされちゃってるんだろうけど、どっちにも返事してないとかしてないよね?」
「してねぇ……けど……」
その先が言えなくて、俺は俯いた。
「……言ってごらん。だいたい予想はついてるから」
父親が俺の肩を叩く。
顔を上げると、その表情は少し和らいでいた。
「俺は……春希も春翔も大好きだから……だから3人でずっと一緒にいたいんだ。こんなの間違ってるって分かってる。でも、春希にも春翔にもいなくなって欲しくねぇよ……」
胸が苦しくて、涙が出た。
そんな俺を、父親が抱き締めてくれた。
「ん、いいんだよ、春楓。自分の想いに正直に生きて」
「親父……ありがとう……」
俺の気持ちを尊重してくれて。
父親的には絶対ショックなはずなのに受けとめてくれて。
「春希くん、春翔くん」
「「はい」」
ふたりが声を揃えて返事をする。
「ボクはね、向こうで同性のカップルが結婚して幸せに暮らしてるのを知ってるから君たちが今の関係を続けたいならそれでもいいと思ってる。でも、うちの春楓は今言った通りふたりとも大好きっていう欲張りな子だから海外に行っても結婚できないだろうし、どこにいても隠れて関係を続けなければいけないと思うんだけど、それでもうちの春楓でいい?」
「はい。最初は僕だけを見てくれたらって思っていました。正直、今もたまに思ったりしますけど、春楓の気持ちを尊重しますし、どんな事があっても春楓の傍にいます」
父親の問いかけに、春翔がさっきよりもはっきりとした口調で言った。
「僕は、もし春楓が僕らの気持ちに応えてくれたとして、僕らのうちどちらかひとりを選べないだろうなって思ってましたけど、春翔には負けたくない、僕が必ず春楓を幸せにするって思ってきました。それはずっと変わらないと思います」
春希も同じように言ってくれる。
「幸せだね、春楓。大好きな人に心から想ってもらえてるなんて。春楓もその想いに応えていくんだよ」
「うん……」
ココロのどこかでモヤモヤしてた気持ちがスっと楽になった。
それからすぐ、父親はまた旅立っていった。
「春楓の事、よろしく頼むよ」
見送りに来た春希と春翔に、父親は笑顔でそう言っていた。
「「任せてください!!」」
ふたりは声を揃えて言ったんだけど、父親がいなくなって俺たちだけになった途端、声が被った事で言い合いを始めて俺が一喝する羽目になったんだ。
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