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第12話

HARU、爛漫☆第6楽章『初めての× × × ・2』 春希とHした日の翌日の夜。 春翔から電話がかかってきた。 「今すぐ会いに行ってもいい?」 明らかに元気のない声。 「…いいよ、母さんレッスンしてるし」 断る事も出来ず、気まずかったけど俺は春翔を家に呼んだ。 「身体…大丈夫?」 会ってすぐそう声をかけられて、すごく恥ずかしかった。 「お、おう、今日ずっと休んでたからもう大丈夫……」 なんとか作り笑いをしたら、春翔が部屋に入る前に俺を抱きしめてくる。 「ごめんね、気を遣わせてしまって」 春翔からアロマオイルっぽい、いい匂いがする。 その匂いがモヤモヤしてるココロを和らげてくれる気がして、春翔がそうなりたいんだっていう想いが伝わってきて、俺は背中に伸ばした手に力を込めた。 「俺が悪いんだよな、どっちの事も好きだから」 「ううん、僕が子供なだけだよ、春楓。僕らを大事に想ってる春楓の事が大好きだし、春希もこんな気持ちだったんだなぁって思えたし、それに僕は春楓の初めての人にもうなってるからね、両方は流石に贅沢だって事だったんだよ」 俺の後頭部を撫でながら話す春翔。 その手は少しだけ震えてた。 「悔しかった、って正直に言えばいいだろ?春翔」 俺のせいなのに、その気持ちをぶつけて欲しくて思わず口に出してしまってた。 「……うん、悔しかったよ。春楓の気持ちを理解して、それでも傍にいたいって、春楓の事を絶対守るんだって決めて、だからこそ最初に春楓の事抱きたかったのに負けちゃって……」 春翔の俺を抱きしめる手に力がこもって、すぐ傍で春翔の鼓動が聞こえた。 「……でもね、本番の春希の演奏を聴いた時、負けたって思ったんだ。春希、怪我もしたのにあんな演奏して……」 「…………」 何て言葉をかけていいか分からなかった。 「……次は絶対負けない。まだ何の勝負するか決めてないけど、次は僕が勝つよ」 「……あ、そう……」 春翔の思わぬ一言に、俺は拍子抜けする。 これ以上何を競うんだろ、マジで。 「それに動画見たけど、春希は乱暴過ぎるよ。僕はもっと優しくするから大丈夫だよ、春楓」 そう言って俺にキスする春翔。 切り替えられたのかな。 見せてくれた笑顔は作り笑いじゃなさそうだ。 「今週、いつ会えそう?」 「春翔の都合に合わせるよ」 「部活は土日あるの?」 「ある。土曜は午前だけだし、日曜は午後からって感じだけど」 「じゃあ土曜の午後から会いたいな。母さん、学会で木曜からいないんだ」 「分かった。じゃあ土曜日支度してからお前んち行くよ」 普通のやり取りをしてるようで、そこには春翔に抱かれる時間が絶対に訪れるわけで。 それを考えると、身体が熱くなっちまってた。 ****************** 土曜日。 それまでは今までと変わりなく普段通りの毎日で、春希も春翔から土曜日に俺と会う約束をしたのを聞いたのか、ふたりきりで会う事もなかった。 部活を終えて帰宅して、汗だくだったからシャワーに入って着替えてから春翔の家に向かおうとしたんだけど、家を出るちょっと前に春翔から電話がかかってきて、デートしてから家で過ごさないかっていう話をされた。 『春楓、デートした事ないでしょ?春楓の初デートの相手、僕でいいよね?』 すごく嬉しそうに言ってくる春翔が可愛くて俺はついついOKしちまったんだけど、外で会うって事は監視されてるって事だよなって電話を切ってから気づいた。 それで春翔にデートなんかして大丈夫なのかよってメッセージしたら、そこはちゃんと考えてるから大丈夫っていう返事がすぐ来たんだけど、春翔の事だから本当に大丈夫か怪しいって思ったりして。 でも、今の関係になってから春翔とふたりで出かけるなんて初めてだから何だか楽しそうだなって思って、泊まる準備をした後あまり着てない白いTシャツとカーキ色のクロップドパンツに着替え直して待ち合わせの駅に向かったんだ。 駅に着くと、春翔が女の子たちに囲まれてるのが見えた。 「ごめんね、友達と待ち合わせ…あ、春楓!!」 笑顔で走ってくる春翔は白いシャツに黒のダメージジーンズを着て、何故かレンズが薄い黒色のサングラスをかけていた。 サングラスかけてても女の子が集まってくるとか流石だな。 「えっ!?この人テレビで見た事ある人じゃない?」 「あー!有名な指揮者の息子さん!?じゃない?」 「絶対そうだよ!!テレビで見るより顔小さくて可愛いー!!」 「あの、指揮者の息子さんですよね?」 「あ、あぁ、はぁ……」 マジかよ、俺まで騒がれるなんて。 「写真、1枚だけ一緒に撮ってもらえませんか?」 「えっ、俺?」 「はい!」 女の子たち、俺をキラキラした目で見てる…気がする。 「春楓、僕が撮ってあげるから1枚だけならいいんじゃない?」 「あ、そう?分かった……」 こんなの、初めてだ。 やっぱアレか? テレビに映ったら芸能人みたいなポジションになるのか? だとしたらもう取材来ても絶対出ないけど。 「いえ、私たち交代で撮りますからあなたも入ってください!!」 「僕も?いいのかな」 「「勿論です!!」」 あぁ、やっぱ春翔にも写って欲しいんだな。 結局、女の子たちに頼まれて俺たちは写真を撮られまくって30分くらい潰れてしまった。 「みんな、またね!」 「はーい!!ありがとうございましたー!!」 最後まで笑顔を絶やさなかった春翔。 写真の時は必ず俺の隣をキープして、その肩を抱いてたのが気になったけど、女の子たちは全然気にしてなかったみたいだったから良かった。 「春楓まで人気者だね」 「俺、お前ほどイケメンでもねぇのにな」 「春楓、これ持って来たから使って。さっきみたいに声かけられたら厄介だから」 そう言って春翔は肩にかけていた黒いカバンから黒縁の丸いメガネを取りだすと俺に渡してくる。 「伊達メガネ?」 かけてみて度が入ってない事を確認する。 「わぁ、似合うよ、春楓。それに雰囲気全然違うからさっきよりは声かけられないと思う」 「そ、そっか……」 春翔は笑顔で俺の頭を撫でて言ってくれる。 見られてるのにこんな事して大丈夫なのかよ、って思ったけど、春翔が嬉しそうだったから言わなかった。 「んで、デートってどこ行くんだよ」 「うん、アクセサリーショップに行って、夜ご飯食べて、その後観覧車に乗ろうと思ってた」 「へぇ、ちゃんと考えてきたんだな」 「当たり前だよ。初めてのデートなんだから」 そう言って春翔は俺と手を繋いできた。 「お、おい、いいのかよ、見られてるんだぞ」 「ん、大丈夫だと思う。っていうか僕も父さんに春楓が好きな事バレちゃったんだよね」 「えっ!?マジかよ!いつ?」 突然の春翔の言葉に、俺は恥ずかしくなる。 「実はこないだのコンクールに父が来ていて、終わってから一緒にご飯を食べたんだけどその時春楓と初めて3人で会った時に気づいたって言われたよ。父さん、自分もそうだったから理解出来るって言ってくれたんだ」 「へぇ…」 たまに会う親には分かりやすいのかな、俺ら。 「街中で人も多いから誰も見てないんじゃないかなって思うし、こうした方が僕らに声をかけてくる人もいないんじゃないかなって思って」 「ん、まぁ、そうかもしれねぇな…」 男同士で恋人繋ぎして歩いてたら声かけて来ないよな、多分。 何にしても今日1日、無事に終わって欲しい。 「じゃ、行こうか」 「おう」 春翔の笑顔に応える俺。 そういえば小さい頃はこうして手を繋いで歩いてたっけ。 あの時は俺が春翔の手を引っ張ってった感じだったけど、今日は逆だな。 「春楓、着いたよ」 駅前の通りを1本裏に入って少し歩いたところで春翔が足を止める。 いくつか店が並んだ中にあったそのお店はオシャレな感じで、すごく高そうに見えた。 「こんにちは」 春翔は慣れてる感じでお店のドアを開けて言うと、俺と手を繋いだまま店内に入った。 「春翔くん、いらっしゃい。…あら、今日は可愛い子とデートなの?」 お店には話しかけてきたスキンヘッドの男の人しかいなかった。 「はい、今日が初デートです」 俺より少しだけ背が高くてガタイのいいその人に、春翔は笑顔で話す。 「いいわねぇ〜、若いって。しかもすごく可愛い子じゃない」 「ありがとうございます。春楓、この人がお店のオーナーで僕と同じキックボクシングのジムに通ってる谷浜(たにはま)さん」 「は、初めまして…」 春翔に紹介され、軽く会釈する俺。 そっか、ジムの繋がりで知り合った人なんだ。 見た目と合わないオネエ口調なのがちょっと気になるけど、悪い人じゃなさそうだ。 「春翔くんにはね、顔は出さない事を条件にウチの商品のカタログにモデルとして出てもらってるの。……ホントは顔も出して欲しいんだけどね」 「えっ!?モデル?すげーじゃん、春翔」 春翔がそんな事やってたなんて知らなくてびっくりする俺。 春翔、顔だけじゃなくて身体のパーツも綺麗だもんな。 「手や首元だけのモデルだよ。今度春楓もやってみない?谷浜さん、いいですよね?」 「勿論よ!あなたの手、中性的で美しいからぜひお願いしたいわ」 「は……はぁ……、よろしくお願いいたします……」 俺の手をとって見ると、谷浜さんはものすごい勢いでそんな事を言ってきたから、俺は圧倒されてつい承諾しちまってた。 「うふふ、春翔くん、ふたりを見てたらイイコト思いついちゃった。ちょっとお店の中を見て待っててね」 そう言って谷浜さんは店の奥に行ってしまった。 「谷浜さんってシルバーアクセサリーを作ってる人なんだけど、僕は作品の中では特に細かい彫刻がされてるデザインが好きなんだよ。例えば、こういうのとか……」 そう言って春翔はショーケースに入ったネックレスを指さす。 「わぁっ、スゲー!!」 ハートの形の中に沢山の羽根が詰まっているように見えて、俺は興奮してつい大声を出しちまってた。 「うん、すごいよね。センスも技術も本当にすごいと思う」 「春翔は結構持ってんの?この人のアクセサリー」 「うん、モデルのお礼にって身につけたものは頂いてるよ。これも頂いたものなんだ」 そう言って、春翔は左手の小指に嵌めていた指輪を見せてくれる。 金色のそれには植物みたいなデザインが細かくしてあった。 って、春翔が指輪してたのに今まで気づかなかったな。 「綺麗だな」 「春楓も似合いそうだよね」 そう言って、春翔はその指輪を外すと俺の左手の小指に嵌めてくれる。 少しだけ緩いけど、俺の指に嵌ってくれた。 「うん、すごく可愛い」 指輪の嵌った左手を取ると、春翔はそこにキスをした。 「おっ、おい……」 「大丈夫だよ、春楓。谷浜さん、そんなにすぐは戻って来ないから」 ドキドキしてる俺の頬に触れながら笑うと、今度は唇にキスしてくる。 「な、なぁ、防犯カメラとかに映ったんじゃねぇの?」 「……そうかもね」 悪戯っぽく笑う春翔。 それがちょっとカッコよく見えた。 それから店内の商品を色々見ていると、谷浜さんが俺たちの前に戻ってきた。 「お待たせ〜!!早速で悪いんだけど、つけたところ、写真撮らせてくれる?サイズは薬指に入るので作ってるんだけど、これでピッタリだと思うのよね〜」 そう話した谷浜さんの手に持っている小さいトレーみたいな物の上には銀色の指輪がふたつ重なって載っていて、ふたつで月と花の絵になっていてすごく綺麗だった。 「こんな短時間で……スゲー!!」 俺、感動し過ぎて思った事をそのまま口走る。 「うふふ、ハルカくんだったかしら?そんなにお目目キラキラさせちゃって…可愛いわね。春翔くん、ハルカくんにつけてあげてくれない?」 「はい、喜んで」 春翔は谷浜さんから指輪を受け取ると、俺の左手の薬指に嵌めてくれたんだけど、ジャストサイズだった。 「僕のは春楓がつけてよ」 「お、おう……」 何だか結婚式の指輪交換みたいだ。 谷浜さんからドキドキしながら指輪を受け取ると、俺は春翔の左手の薬指に指輪を嵌める。 こっちもジャストサイズで、谷浜さんってめっちゃスゲー人なんだって思った。 「綺麗だね」 「あぁ、スゲーな。ちょっと見ただけなのに俺のサイズピッタリに作っちゃうなんて」 「ありがとう、ハルカくん。そう言ってもらえると職人冥利に尽きるわぁ〜」 指だけを撮影してもらった後、俺は自分の指に嵌ってる指輪を眺めていた。 アクセサリーとか全然興味なかったけど、こうしてつけてみるとワクワクしてくる。 「谷浜さん、このお花って何ですか?」 「月下美人っていうお花よ。夜の少しの時間しか咲かない美しいお花だけど、強い意志や秘めた情熱っていう花言葉があるの。あなたたちにピッタリだなぁって思って」 「月下美人……」 初めて聞いた名前の花。 そんな話があるんだな。 「あっ、これもお礼としてプレゼントするわね。学校でもナイショでつけられるように、サージカルステンレスのチェーンよ」 「わぁ、ありがとうございます!」 「ちょっとこれに通して指輪つけてるところも写真撮らせてもらえないかしら?」 「是非撮って下さい。僕もその写真欲しいです」 チェーンを受け取ると、春翔がそう言って俺の指輪を抜いてそれに通して首にかけてくれる。 俺も真似して春翔の首にかけていた。 ふたりで並んで写真を撮ってもらったんだけど、春翔は首元しか映らないのをいい事に俺にめちゃくちゃ密着してきて恥ずかしかった。 「春翔くんって恋人の前だと結構積極的なのね」 「初めてのデートで浮かれてるんだと思います」 写真を撮り終えると、春翔は俺のチェーンを外して指輪をまた左手の薬指に嵌めながら笑顔でそんな事を言う。 確かに浮かれてるかも。 春翔、今日は人前で手を繋いできたり、お店の中でベタベタしてきたり、キスしてきたりして、ドキドキさせられっぱなしだ。 「こんなに可愛い子だもんね、仕方ないわよ〜」 「そうなんです。でも、中身は僕よりずっと男前なんですよ、春楓って」 「春翔くん、今日はずっと惚気話ばっかりね」 「あはは、すみません」 春翔、絶対悪いって思ってねぇな。 写真をお店にあったプリンターでプリントアウトしてもらい、指輪とチェーンを受け取ると、俺たちは店を後にした。 谷浜さんは指輪の裏に名前まで入れてくれたんだけど、俺のには春翔、春翔のには俺の名前を彫ってくれた。 見つかったら1発アウトのやつだと思ったけど、せっかくのプレゼントだから毎日身につけないとな。 「春楓、今つけてる僕の指輪もあげるから出かける時にでもつけてよ」 「マジ?いいのかよ」 「うん、僕より春楓の方が似合ってるし、左手にそんな風に並べてつけてるのすごく可愛いよ」 「分かった。俺、こういうのよく分かんねぇけど…」 春翔が笑ってくれるからいいやって思ってる。 って言ったら、春翔が嬉しそうな顔をして、 「ありがとう、春楓、大好きだよ」 って笑顔で言ってくれた。 「そういや飯どうする?」 「ん、観覧車の近くにあるお店を予約しておいたからそこに行こうと思ってたよ」 「予約?ちゃんとした店なのか?」 「うーん、うん、でも大丈夫だよ、 春楓。父の知り合いのお店で僕ひとりで行ったりもしてるところだから」 「…あ…そう……」 ホントに大丈夫なのかよ。 俺、正装じゃねぇし着替えもパジャマと部活用のジャージしか持ってきてねぇぞ。 不安に思いながら春翔についていくと、予想通り高そうな店の前で春翔は足を止める。 「こんばんは」 「いらっしゃいませ、春翔様。お待ちしておりました。こちらにどうぞ」 出てきた人は白ワイシャツに黒の蝶ネクタイとベスト、スラックスを履いてていかにも高そうなお店って感じの店員さんで。 俺は完全にビビって、春翔から手を離さず後ろを歩いたんだ。 案内されたのは個室で、出てきたのはビーフシチューとライスとサラダでめちゃくちゃ美味しかったけど、内装といい料理といいとにかく何もかも高そうとしか思えなかった。 「春楓、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。個室だし呼び出ししない限り誰も来ないし」 「なぁ春翔、お前普段こういうトコでひとりで飯食ったりすんの、スゲーな」 「ん…そうかもしれないね。僕は慣れちゃったけど」 「そうやって言えるのもスゲーわ」 俺と住む世界が違うのかも、ってちょっと思っちまったけど、横に並んで食べながら笑顔を見せてくれる春翔を見ると幸せな気持ちになる。 「あ、春楓、デザートと一緒につく飲み物、コーヒーと紅茶、どっちがいい?」 「コーヒーでいいよ」 「分かった。僕もコーヒーにしようかな」 店員さんが来たところで春翔が飲み物を注文してくれる。 それからすぐデザートのケーキとアイスの盛り合わせみたいなのが来て、それもまた高そうで。 「…ごめんね、春楓。せっかくの初デートだから少しでもいいお店がいいと思ったから選んだんだけど、過ごしにくかったよね…」 「えっ、いや、俺の方こそごめん。こういう店で飯食べる事ってあんまりないから緊張しちまって。でも、春翔が俺の為に色々考えてくれて用意してくれてスゲー嬉しいよ」 泣きそうな顔をしてる春翔を何とかフォローしようとする俺。 「…ホント?」 「うん、初めてのデート、知らなかった世界をお前と見られてめちゃくちゃ楽しい」 俺の言葉に、春翔は頬を赤らめてその大きな瞳を潤ませた。 「良かった。嫌われたんじゃないかと思っちゃった」 「んな事でお前の事、キライになんてならねぇよ」 春翔の頭を撫でると、俺は恥ずかしかったけど春翔にキスをした。 「…ありがとな、春翔」 「……春楓ぁ!!僕、今すごく幸せだよ!!大好き!!」 よっぽど嬉しかったのか、春翔は俺に抱きついてきた。 昔もやってたような事をされると、中身はあの時と変わらないトコもあるんだって思えてホッとする。 食事を終えると、外はもう暗くなってた。 お金は春翔が親父さんから渡されてるっていう真っ黒いカードで支払ったんだけど、値段は怖くて聞けなかった。 「知ってる?この観覧車のジンクス」 15分くらい並んでようやく観覧車に乗ると、春翔が話し出す。 「知らねぇけど、何かあるのか?」 「うん、1番てっぺんのところでキスしてるとね、ずっと一緒にいられるんだって」 「へぇ……」 いかにも、なやつだな。 って思ってたら、隣に座ってた春翔が俺の肩を抱いてくる。 「しようよ、春楓。そんな事しなくてもずっと一緒にいる自信あるけどさ……」 「ちょっ……はると……」 最初から春翔の舌が唇を撫でるように触れてくる。 「んん……ッ……!!」 抱き寄せられて、春翔のドキドキを感じながら俺もドキドキして。 もし外で見てる人がいたらと思うと恥ずかしくてたまらないのに、春翔とのキスが気持ち良くて止められなかった。 「……これで絶対叶うね?春楓」 「お……おう……」 キスに夢中で外の景色を見る事もほとんどなく、俺たちは観覧車から降りていた。 ****************** 春翔の家に向かうまでの移動中、 俺たちは電車の中で月下美人についてスマホで調べてた。 一晩だけ花を咲かせるめちゃくちゃ大きな純白の花で、少しずつ花が咲き始めるととても良い匂いが、甘くて強い香りが辺り一面にするけど、夜に花が開いて真夜中には閉じてしまい、朝までにしぼんでしまう花。 画像で見た花は透き通るような白さで、月に照らされてたらスゲー綺麗だなって思った。 「見たいね、本物の月下美人」 「そうだな」 「今度見られる場所調べて見に行こうよ」 「いいな、それ」 そんな話をしながらふたりで指輪を外して重ねて、谷浜さんが彫ってくれた月下美人を見てた。 月下美人。 俺は春翔みたいだな、って思った。 色白で綺麗な顔で繊細で傷つきやすくて。 お前みたいだな、って言ったら、春翔は何て言うんだろう。 「この花……伯父さんみたい。儚いけど艶やかな感じとか……」 「そっか……」 春翔の口から伯父さん…翔太郎さんの名前が出る。 俺、近からず遠からずってところだったみたいだ。 「僕はね、向日葵なんだよ」 「へっ?」 電車から降りて改札を抜けた後、春翔が突然言い出した。 「春楓という太陽だけを見つめて咲く向日葵。それが僕だよ」 「春翔……」 笑顔で言ってくれた春翔。 それから、駅からの春翔んちまでの道を俺たちは手を繋いで帰った。 太陽。 昔はそうだったかもしれない。 でも、今はそう胸を張って言う自信はない。 それでも春翔にとって、俺は太陽なのかな。 それでもいいのかな。 「春楓、先にシャワー入ってきていいよ」 春翔の家に着くと、春翔にそう声をかけられる。 「おう、サンキュー」 「……僕、何か変な事言った……?」 着替えを出そうとリュックの中を開けていると、背後から抱きしめられる俺。 「春楓、悲しい顔してるように見えるよ?」 あぁ、春翔はやっぱ繊細だな。 俺が分かりやすいだけなのかもしれないけど。 「お前は何も変な事なんて言ってねぇよ。俺がただお前の気持ちに応えられてるか自信がなかっただけで……」 「春楓でもそんな気持ちになるんだね。大丈夫だよ、春楓は小さい時から何も変わってない。僕にとって春楓はずっと僕の太陽だよ」 触れてくる頬があたたかい。 「大好きだよ、春楓」 「……ありがとな、春翔。俺も大好きだよ」 春翔とキスを交わして、先にシャワーに入らせてもらった。 先に部屋で待っててと言われたので、シャワーを終えてパジャマ代わりのTシャツとハーフパンツに着替えて春翔の部屋に入る。 室内はこないだのあのいい匂いがして、春翔がその気なんだと思うとドキドキしてきた。 なんとなく春翔の机の上を見ると、小学部の進級時に3人で撮った写真とこないだのコンクールの時に早見さんに撮ってもらった写真が飾ってあった。 どっちも並びは同じで見た目だけが変わってる写真。 春希と春翔、小学部の時は緊張してる感じで俺が笑顔でその肩を抱いてふたりがそれに寄り添ってる感じだったけど、こないだの写真は自分たちの方から寄り添ってる感じだってハッキリ分かる。 「春楓、お待たせ」 俺と同じくTシャツとハーフパンツ姿に着替えて部屋に入ってくる春翔。 「これ、お風呂上がりに飲んだ方がいいよ」 「お、サンキュー」 手には小さいペットボトルを2本持って来てて、その1本を俺に渡してきた。 「ん、この水レモンの味が少しする」 「うん、レモンのオイルを少し入れてるんだ。暑いからさっぱりするよね」 美味しくて、つい飲み干してしまってた。 「今日は色々とありがとな。飯もご馳走になっちまったし」 「ううん、僕から誘ったんだから僕が払って当然だよ」 ベッドを背もたれに並んで座って話をしてたけど、その距離はすごく近くて。 「あ、俺指輪したままシャワー入っちまった」 「あぁ、大丈夫だよ。本当は取った方がいいけど」 指に嵌ったままの指輪を見ていると、春翔にそう言われた。 「ねぇ、春楓」 「ん?」 春翔がそんな俺の手を取ると、自分の手をそこに重ねて繋いでくる。 「向日葵って本数別で花言葉が違うの知ってる?」 「えっ、何だよ、それ」 「小学部の時、向日葵育てたじゃない。その時に色々調べて分かったんだけど、向日葵999本の花言葉、『何度生まれ変わってもあなたを愛す』なんだって」 「999本ってスゲーな」 「うん、結婚式の飾りで使うにしても多いよね。でも、僕この花言葉、大好きなんだ」 繋いだ手を離すと、春翔が俺を抱きしめてくる。 「僕も何度生まれ変わっても春楓を愛すると思ってるから」 そう話して俺を見る目は普段はあまり見せない瞳だった。 その瞳に見惚れていると、春翔が最初から大人のキスをしてくる。 「ん……ふぁ……ぁっ……」 キスの間に床に身体を倒されて、Tシャツを捲られてた。 「春楓、ずっと一緒にいようね。僕、どんな事があっても絶対春楓から離れたりしないから」 「……あぁ……ッ、おれも……」 Tシャツを脱いだ春翔が俺の上に身体を重ねてくる。 いい匂いがぶわっと広がって、でも春翔の興奮も伝わってきて、その胸に顔を埋めたくなった。 「やっぱり春楓はメガネしてない方がいいね。綺麗な目……大好きだよ」 目にキスをした後、春翔は首筋や胸元にもキスをしてくれる。 「春希……ホントに力任せだよね。首筋のところ、だいぶ薄くなってるけと痣みたいになってる」 「ん……でも大丈夫だから……ッ……!!」 首筋の跡を見たのか、春翔はそう言って同じようなところをきつく吸った。 「……僕もちょっと強めにつけちゃった」 くす、と悪戯っぽく笑う春翔。 「好きだな、跡つけるの」 「うん、僕のものって感じがして見ると嬉しくなるんだ。だから春楓も僕につけてよ」 そう言って、春翔は俺の唇に自分の首筋を近づけてくる。 「分かった……」 俺はドキドキしながらそこに跡を残した。 色白の春翔の綺麗な身体にこんなのつけるのもったいない気もするけど。 「ふふっ、すごく嬉しい」 嬉しそうにしながら、春翔は俺の下着に手をかけた。 「春楓、僕は痛かったら止められるからね。無理しないで」 そう言って下着を足元まで下ろして脱がせると、俺の脚の間に顔を埋める。 「や……ッ、おまえどこ舐めてんだよ……っ!!」 自分じゃ決して見られないトコロに舌が触れてぞくぞくした。 「ん……っ、これから僕が入るトコロ。ちゃんと慣らさないと……」 「ひゃ……あぁ……っ……!!」 身体の内側から熱がこみ上げてくる感覚がする。 早く、早く。 ってその先を求めてる俺がいて、それが恥ずかしくて、身体が熱くなっていくのを感じてた。 「春楓、腰動いてるよ?舌だけじゃ物足りないの?」 「う……んん……っ……!」 堪えられなくて肯定すると、春翔の指がソコに伸びたのを感じた。 「じゃあ春楓のリクエストに応えて挿れてあげるね。まず指だけど」 ソコに少し冷たい感触がした後、春翔が指を挿れてくれる。 「は……あぁ……ッ……!!」 「……すんなり挿ったのってオイル塗っただけじゃないのかな……」 ナカを動く指が気持ち良くて、でもまだ物足りなくて。 「んぁ……っ、はると……ッ……!」 「春楓、可愛い。すごくHな顔してる……」 「ぅあ……あぁぁ……っ……」 春翔がオイルで濡らした指を更に挿れてきてくれた。 気持ち良いトコロを刺激してくれて、それだけでイッてしまいそうになる。 「はぁ……んんっ、はるとの指、気持ちいい……ッ……!!」 春翔が指を動かす度、ぐちゅっ、ぐちゅっと液体が満ちてる音がした。 「……イッていいよ?春楓……」 「やぁ……はると……ッ!!」 もう我慢出来ないって思った時、春翔が俺のを口に含んでキツく吸い上げてくる。 俺はそのまま、春翔の口に思い切り精液を放ってしまってた。 「春楓、すごく気持ち良さそうで可愛かったよ」 「んぁ……っ、ダメ……っ……!!」 口を離しても春翔は指の出し入れを繰り返していて、俺はイキっぱなしの状態になってしまう。 「……もっと気持ち良くしてあげるね、春楓……」 春翔がようやく指を抜いてくれたけど、ソコにもっと太くて熱いモノが触れる。 「あ、うあぁ……っ……!!」 ずぶっ、という音と共に、ソレは俺のナカに挿ってきた。 春翔が時間をかけて慣らしてくれたからか、痛みは感じなかったんだ。 「あぁ、ごめん春楓。このまま挿れちゃった……」 「い……いいけど……っ……もっと……もっと……っ……!!」 収まってる先端だけじゃ物足りない。 もっともっと深いトコロで春翔を感じたい。 俺はスゲーやらしいけど、春翔の腕を掴んでねだってしまってた。 「春楓……僕にそんな可愛い事言ってくれるなんて……すごく嬉しい……」 春翔はそう言って笑うと、俺のナカに自分のを収めてくる。 「あぁ……っ、全部挿ったよ、春楓」 春翔の息が荒くなって、気持ち良さそうな顔に変わって、俺は嬉しくなった。 「春楓のナカ、あったかくてすぐイッちゃいそう……」 「ひぁ……あぁんっ、はるとぉ……っ!!」 イキっぱなしの身体を春翔が揺すってくる。 じゅぷっ、じゅぷっ、っていう音が動く度にやらしく響いて、恥ずかしいけどスゲー気持ちよくて。 俺は春翔の動きに合わせて腰を振ってたんだ。 「はるか……ッ……!!」 奥までずん、って突くと、春翔はそのままイッてた。 「はぁ……っ、このままいけそうだから続けてもいいよね……?」 「んぁ……あぁっ、はると、まって……っ……!!」 身体の奥でビクビクしてる春翔の存在を感じると、今までに感じた事のない感覚に襲われる。 それが怖くて止めてもらおうと春翔に声をかけたんだけど、 「……っ、ごめん春楓、気持ち良すぎて待てない……ッ……!!」 って春翔に言われてしまったんだ。 春翔は俺を抱きしめながら、激しく抽挿を繰り返し始める。 出入りされる度、ばちゅん、ばちゅんって音がさっきより大きくなって、春翔の息遣いも荒くなっていって。 「あぅ……っ!!はるとっ、おれっ、イッてんのに……ッ……!あぁっ、ヘンなかんじする……あぁぁぁっ……!!」 「っあぁっ、はるか……、そんなに締めないで……っ……!!」 「し……しらな……あぁぁッ!!」 春翔から離れないようにしがみついてたけど、春翔に奥を突かれて身体がゾワッとした瞬間、イキっぱなしの先端から精子じゃない透明な液体がたくさん出て、そのまま力が抜けて目の前が真っ白になった。 もしかして、俺、気持ち良すぎて漏らした? んな事あるのか? でも、ソレを出した時はそんな感覚に近い感じだったんだ。 ****************** 気がついた時、俺はTシャツと下着姿で春翔のベッドに寝かされてた。 「はると……?」 隣にその姿がなかったから起き上がると、春翔はタオルのようなもので床を拭いている。 「あ、春楓、動いて大丈夫?」 上は裸、下はハーフパンツ姿の春翔。 春希ほどじゃないけど筋肉のある男らしい身体に俺はドキッとさせられる。 「ん、大丈夫。起きた時全然痛くなかった」 「そう。良かった、動けなくさせてたらどうしようって思ったから」 「それ……俺の……」 「うん、春楓が潮吹いちゃった跡。男でも気持ち良すぎたら潮吹きするってネットで読んだ事があるんだけど、本当だったね」 春翔は笑顔ですごく嬉しそうに話す。 「そっか……俺、漏らしたかと思ってビビった」 「ある意味お漏らしだけど、大丈夫だよ。その時の春楓、すごく可愛かったし」 そう言って、春翔は俺にキスしてくる。 「ごめんね、僕も春希と同じケモノだったよね。コンドーム用意してたのにつけるの忘れちゃうし、春楓が止めてって言ったのに自分を止められなかったし。でも……それで春楓は潮吹いちゃったから結果オーライって事で許してくれる?」 「べ……別に謝る必要ねぇよ、俺が挿れる時はコンドームつけてねぇし。てか買ってたのかよ」 甘えた口調の春翔。 絶対、俺が許すの分かってるよな。 「うん、マナーかなって思ったからちょっと前に買ってたよ。春楓、明日部活だから今日はもうしないけど、またしようね」 「ん…あぁ、 そうだな……」 俺の頬に触れながら話す春翔の指には、あの指輪が嵌めてあったままで光を放っていた。 俺もちょっと恥ずかしかったけど同じように指輪をした手で春翔の頬に触れると、春翔に向かって笑顔を見せたんだ……。

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