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第14話
HARU、爛漫☆第7楽章『初めての恋愛相談』
もうすぐ先輩方にとって最後の大会が迫ってた。
今年こそは地区大会で優勝して全国大会に進みたい、っていう事で頑張ってきたんだけど、今までの大きな大会は最高でも準優勝止まりだった。
そんな時、俺は初めて恋愛相談を受けたんだ。
******************
「春楓、ちょっといい?」
部活が終わって着替えてると、同級生の紫垣 晄(しがき ひかる)が声をかけてくる。
「どうしたんだよ、晄」
「春楓に相談したい事があって」
「俺に?」
晄は高等部から入学してきた同級生なんだけど、俺と同じくらいの身長しかないのに天才キーパーとして入学前から有名な奴だった。
クラスは違うけど、俺と性格が似ている気がして結構仲はいい方だって勝手に思ってたけど、何だろう。
「ちょっとここじゃ話せないから、駅の近くにあるカラオケの中で話を聞いて欲しいんだ」
「分かった。あ、でもちょっと待って」
俺、親に部活の友達とカラオケに寄ってから帰るっていうメッセージと、春希を図書室に待たせてたから春希に『部活の友達にカラオケで話を聞いて欲しいって言われたから悪いけど先に帰って』ってメッセージを送った。
そしたらすぐ、春希から電話がかかってくる。
「春楓、その人は大丈夫な人?」
電話に出たのが間違いだった。
心配してるっていうのが伝わるような春希の声に、俺は完全に騙されたんだ。
「大丈夫だよ、ホラ、同級生で俺と一番仲良いキーパーの」
「あぁ、名前は分からないけど顔は見たら分かると思う」
春希、試合何回も見に来てるのに絶対覚える気ねぇだろ。
「僕、駅の中にある喫茶店で勉強して待ってるから、終わったら連絡して。だって今日は僕の家で……」
『セックスする予定でしょ?』
ってどこからかけてるのか知らねぇけどハッキリ言ってきて、俺はその声にドキッとさせられる。
「ば……バカヤロ、んなコト電話で言うな!」
「ふふっ、春楓、僕の声に弱いからドキドキしちゃったんでしょ?可愛い……」
「う、うるせーよ!とりあえず終わったらまた連絡すりゃいいんだろ?じゃあな!!」
俺、これ以上春希の甘い低音を聴き続けてたらおかしくなりそうだったから慌てて電話を切ってた。
「わ、悪ぃ、着替え終わったら行けるから」
「もしかして今の電話の相手、彼女?」
近くに晄がいた事を思い出し、慌てて声をかける俺を、晄はニヤニヤしながら見ていた。
良かった、彼女だと思われたみたいだ。
「お、おう。最近付き合ったばっかでさ。皆には内緒にしてるからココだけの話な」
「ははっ、春楓って彼女出来たらオープンにしそうだと思ってたから意外だな。……まぁ、オレも知られたらアレだからお互いココだけの話ってコトだな……」
晄はそう笑顔で言ったけど、何かワケありな感じがした。
それから学校を出て、晄とふたり、駅からすぐのカラオケに入る。
「で、俺に相談って何だよ」
「あぁ、あのさ、春楓は彼女ともうHした?」
「は?」
口に含んでたコーラを吹き出しそうになったけど、なんとか堪えた。
「オレ……好きなセンパイに間違って告白しちゃって、好きって伝えてないんだけどHはしてるっていう関係で……」
どんどん顔が紅くなっていく晄。
いつもの強気な感じからは程遠い表情だった。
「どう間違えたらそうなるんだよ」
「ホント馬鹿なんだけど、緊張しすぎてワケわかんなくなって、『好きです、抱きしめてください』って言おうとしたら『抱いてください』って言っちゃったんだ」
そんな間違いするかよって言いたかったけど、真っ赤になってる晄を見てたら言えなかった。
「それで……センパイはもうすぐ引退しちゃうからもう1回ちゃんと告白しようかどうか迷ってて……」
「へぇ……って、相手のセンパイってサッカー部のセンパイ?」
俺、頭に浮かんだ可能性をそのまま聞いちまってた。
「…あぁ、だからココだけの話にしたいんだ…」
「そ、そうだな、それは確かに…」
俺のバカヤロ。
もっと上手いフォローあったはずなのに。
でも、晄は気にしてなさそうだ。
「オレ……唯さんとそういう関係なんだ……」
「えっ、あっ、そ、そうなんだ……」
出てきた名前に、俺はめちゃくちゃ動揺しちまった。
唯さんって、うちのエースストライカーの灰田 唯(はいだ ゆい)センパイの事だよな?
灰田センパイ、黒髪のポニーテールがトレードマークで白川センパイと並ぶ人気のあるカッコイイセンパイなんだけど、そのセンパイと晄が?
そんな感じ、全然出してなかったからマジでビックリだ。
「唯さん、優しいからオレに言われて仕方なくしてくれてるんだと思うんだ」
「ちょっと待て、晄はセンパイといつからそんな感じなんだよ」
「進級する少し前だよ。その時にさっきの話をして、唯さんは俺で良ければって言ってくれて、それからずっと……少なくても週に1回は……」
だんだん声が小さくなっていく晄。
少なくてもって事は、多い時はもっとしてるって事だよな。
いや、それはとりあえず置いといて。
「それはいつも晄から誘ってんの?」
「いや…唯さんから言われる時もあるけど」
「そうなんだ……」
多分、多分だけど、灰田センパイも絶対晄のコト好きだろ。
好きじゃなかったら何回もしねぇと思うんだよ。まして男同士だし。
晄、そういうトコどう思ってんだろ。
「ひいた?春楓。男が好きとか、男同士でHしてるとか、気持ち悪いって思ったよな?」
「いや、それは思わねぇんだけどさ、俺はセンパイが晄とはもう付き合ってるつもりなんじゃねぇかなって思ったんだけど」
不安そうにしてる晄に、俺はそう言ってみた。
「そう……なのかな。オレ、こんなに人を好きになった事がないからよく分かんなくて……」
「分かんねぇなら聞けばいんじゃね?ひとりでモヤモヤしてるより、センパイに聞いてスッキリする方がいいだろ」
「う……ん……」
いつもはサバサバしてる晄が今はすごく思い悩んでる。
それだけ灰田センパイの事が好きで、センパイの事を失いたくない、嫌われたくないんだろうな。
「とりあえず、たくさん試合勝ってセンパイたちが引退する日を延ばそうぜ」
俺はそう言って晄の肩を叩いた。
「……あぁ、そうだよな!ありがとな、春楓。話を聞いてもらって楽になれたよ」
晄の表情がいつもの明るいものに戻る。
「話を聞く事しか出来ねぇけどさ、また何かあったらいつでも言えよ」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
時間にして、1時間くらい。
晄の役に立てたかどうか分かんねぇけど、別れ際の晄は笑顔だった。
さて、春希に連絡しねぇと。
『終わったからそっち向かうから』
駅の中にある喫茶店、確かあそこだよな。
行こうとすると、春希から電話がかかってくる。
「春楓、どこ?」
「今向かってたけど」
「僕も今出たから、東改札で落ち合おう」
「おう」
改札に向かうと、春希がスマホを眺めて立っているのが見えた。
春翔もだけど、背が高いから見つけやすい。
「春希、何見て……」
バレないように背後から声をかけようとして、俺は春希が見てる画面が視界に入ると固まっちまう。
いつの間に撮ったのか、俺の裸の画像がそこにあった。
「……あぁ、春楓」
「あぁ、じゃねぇよ!こんなモン街中で見るんじゃねぇ!!てか何撮ってんだよ!!」
春希の行動が信じられなくてついつい大声になる。
「春楓、そんなに大きな声出さないで」
「お前が出させてんだよ!!」
春希は表情を全く崩さずに俺を見ていた。
「だって……今日イアホン忘れちゃったから動画は見られないと思って……」
「はぁ!?動画って……お前まさかこないだの動画、外で見てる時あるのかよ」
「うん、あるよ。春楓が恋しくなったら見てる」
「……お前、バカなの?」
ほぼ表情変えないで訳分かんねぇコトばっか言ってるな、春希。
俺のせいなのかな、こうなっちまったの。
ちょっと前まではエロい事するっていう前段階で紅くなったりしてたのに、回数重ねちゃったからか最近はそんな事もなくなってきてるよな。
「馬鹿じゃないよ。春楓の事が大好き……」
「もう分かったって!!」
俺の耳元で囁こうとするのを止めると、春希が心なしか悲しそうな顔をする。
「春楓……怒ってるの?」
「違うって。お前、人前とか気にならないのかよって思っただけ」
「気にしてるけど」
「全然そう見えねぇわ!!」
改札を抜けて、ホームまで歩きながら話をする。
帰宅の時間帯なのか、道中もホームも来た電車も人でいっぱいで、俺たちはそんな中、最前列の運転室の辺りに立つ事が出来た。
満員状態の電車内。
俺たちの降りる駅までほぼこの状態なんだろうなって思ってたら、腰を撫でられてる感じがした。
「え……っ……」
ぐい、と引き寄せられると、よく知ってる温もりを感じる。
「春希」
見上げたそこには口元だけ笑ってる春希の顔。
って事は、身体を触ってるのも春希…?
「春楓……大声出しちゃ駄目だよ……」
「な……っ……!!」
耳元でぼそっと言うと、春希は腰を撫でていた手を前にもってきて俺のスラックスのベルトを外そうとしてた。
「お、おい、何やって……」
「……大声出しちゃ駄目って言ってるじゃない、春楓……」
「や…………っ!」
キスで口を塞ぎながらベルトを外してくる春希。
「んん……んぅっ……!!」
少しだけスラックスを下ろした春希の手が臀を撫でた後、その隙間に入る。
「んは……やめ……ッ……!」
「大丈夫だよ、春楓が大声出さなかったら誰も気づかないから。それに……ココ触るだけだよ……」
「うぅ……バカヤロ……っ……」
俺をぎゅっと抱きしめながら耳元で囁かれるだけでもクラクラするのに、入口を指で弄られて立っていられなくなりそうだ。
春希、さっきの話聞いてなかったのかよ。
それともこれくらいなら大丈夫って思ってんのか?
「はぁ……っ……」
このままやられっぱなしも悔しくて、俺 はふらふらだったけど春希のワイシャツのボタンを外すと、その胸に顔を埋めて噛み付いてた。
「……っ、春楓、声を出さないようにするのにそんな事したの……?」
一瞬、春希の顔が歪む。
でも春希はすぐにいつもの顔に戻って、俺の頭を撫でた。
「その顔……すごく可愛い……」
首筋にキスをした後、耳朶から首筋までを舌で触れてくる春希。
「んぅ……ッ……!!」
触れられてるところが全部気持ち良すぎて、俺は声を出しそうになるのを必死で堪えてたんだ。
「次は……」
すると、降りる駅の名前を言うアナウンスが流れる。
「……続きは降りたらしようか、春楓。僕、家まで我慢出来ない」
「うぅ……ん……っ……」
自分と俺の服装を直しながら、春希は言った。
俺はもう、何も考えられなくて、春希に肩を抱かれて導かれるままに歩いてたんだ……。
******************
春希に駅のトイレに連れ込まれて、下を全部脱がされて、洋式トイレに座ってる春希の上に向かい合うように載せられて、俺は春希と繋がってた。
「……っぁ……あぅ……ッ……!!」
「春楓、それ以上大声出したら人が来ちゃうよ……」
分かってる。
分かってるけど、春希がめちゃくちゃイイトコばっか突いてくるから。
「う……っ、うぅぅっ……!!」
我慢出来そうになかったから春希に抱きついて、その太い首筋を噛む事にした。
「そんなに声我慢するの辛いんだ……」
自分だって荒い呼吸してるくせに、春希が笑って言ってきたから、ムカついてワイシャツで見えるか見えないかの位置に唇を移動させてそこをキツく吸う。
「……っ、春楓、そんなにあちこちつけられたら僕、恥ずかしいよ……」
血管が浮いた春希の首筋に汗が流れてて、しょっぱい味がした。
「んは……ぁ……ふぅ……んんッ……!!」
俺の顔を持ち上げると、春希はキスしながらもっと腰を突き上げてきて、俺のナカでイッてた。
「ごめん、春楓、先にイッちゃった。春楓のもイカせてあげるからちょっと待ってて……」
俺のナカから出ると、春希はしていたコンドームを外してトイレットペーパーに包んで近くにあったゴミ箱に捨てた。
ワイシャツのボタンを全開にしてる春希。
そこから覗いている身体にも汗が滲んでて、見ているだけですごくドキドキする。
あ、俺がつけた跡、結構目立ってるな。
夢中だったとはいえ、こうして見ると恥ずかしい。
「春希、俺、別にいいけど……」
「僕が嫌だから」
そう言って春希は俺に跪くと半勃ちくらいの俺のを口に入れて扱くようにしてくる。
「……ッ、はるき……っ……!!」
さっきイキそびれてたソコは少しの刺激にも敏感で、すぐに春希の口に向かって射精しちまってた。
「……続き、また家でするよね?春楓」
「は……っ、マジかよ……」
「大丈夫だよ、今1回したからそんなにたくさんはしないつもりだから」
「お前のつもりは当てにならねぇよ」
春希が嬉しそうに話しているのを見ると、俺はとんでもないコトをしたのに幸せな気持ちになる。
トイレから出て、ふらふらだったけどなんとか歩いて春希んちに着くと、シャワーを浴びながらもう1回Hして、何もかも洗い流して風呂から出た。
春希がTシャツを貸してくれるって言ってくれたんだけど、春希がまた暴走しそうだから断って部活用に予備に持ってきていたTシャツとハーフパンツに着替えてた。
「どうぞ。簡単で悪いけど」
「全然!ありがとな、春希」
春希がトースターで焼くだけのピザを用意してくれて、それをふたりで食べる。
「春楓」
「ん?」
「ごめんね、今日、あんな事するつもりじゃなかったんだけど、春楓に先に帰ってってメッセージもらった時に気持ちが抑えられなくなっちゃって」
小さくなってないけど小さくなりながら話す春希。
「俺、先に帰っててもらって終わったらお前んち行くつもりだったんだけど。お前と…その……約束してたし……」
俺、隣に座ってるそんな春希の頭を撫でながら話したけど、約束の内容が内容だけに頬が熱くなってくのを感じた。
「春楓も楽しみにしててくれたの?僕、すごく楽しみで、3日間自分で処理しなかったんだよ」
「……それ、俺にんな顔で報告しなくてもいいと思う……」
小さい時、俺に褒められて嬉しそうにしてる時と同じ顔をして話す春希。
でも、言ってるコトはめちゃくちゃぶっ飛んでた。
「そういえば春楓、首から下げてるの、何?」
「あっ、これ?春翔からもらったのだけど」
いけねぇ、外すタイミング分かんなくてずっとつけっぱなしだった。
春希、気にするのかな。
「……そうなんだ。僕、そういうの興味ないからよく分からないけど、つけたり外したり大変そうだね」
「俺も初めてもらったからよく分かんなくてつけっぱなしにしてる」
「つけっぱなしにしててもいいんだね。春楓は首筋が綺麗だから似合うと思うよ」
そう言って、春希は俺の首筋を撫でてくる。
良かった、春希、気にしてなさそうだ。
「春楓」
「ん?」
「もうしない、って思ったけど、春楓すごく可愛かったし、気持ち良かったからまた外でセックスしようね」
「……マジかよ」
春希に甘えた声で言われて、俺は即座に嫌だと言えなかった。
******************
金曜日からの3連休で地区大会が組まれて、チームは無事に駒を進め、決勝戦を迎えた。
俺はスタメンで出る事が決まってて、春希と春翔もコンクールがなかったから応援に来てくれてたりする。
あと一勝で全国。
ここまで白川センパイを温存して来られたけど、決勝の相手は毎年全国に行ってるチームを倒した今まで練習試合もした事がないチームだから、そういう訳にはいかないだろうな。
「みんな、気合入れすぎて空回りするなよ。平常心だ!」
「「はい!!」」
試合前、黒澤センパイの言葉に全員が応える。
「相手、キーパーがスゴいらしいけど、ウチの紫垣だって負けてないし、オレも出るつもりでいるからさ、いつも通り楽しくやろう!」
「「はい!!」」
黒澤センパイの言葉で張り詰めた空気を、白川センパイが和ませてくれる。
試合開始のホイッスル。
俺は深呼吸してから試合に臨んで、自分に与えられた役割通り動こうとしたけど、相手のディフェンスに阻まれてなかなか思うような動きが出来なかった。
お互いに拮抗した実力で、前半は無得点のまま終わってた。
「済まん!得点出来なかった」
灰田センパイがみんなに謝る。
「唯、心配すんな。後半……オレ、最初から行くわ」
「隆志、大丈夫なのか?」
「おう!途中で倒れたら後は任せるけどな」
黒澤センパイの横でストレッチをしながら話す白川センパイ。
「そうだな、白川、悪いが後半すぐ出てくれ。攻撃は灰田、白川、黄嶋の3人メインで行ってもらう」
「「はい!!」」
監督からの声に、俺はセンパイ方と一緒に返事をする。
……あの走りを見られるんだ。
白川センパイの、『白い光束』って呼ばれてるあの走りを。
ボールを持ったら誰にも止められない、あの走り。
絶対についていかねぇと。
俺は強い決意を胸に、後半を迎えた。
相手チームからのキックオフ。
白川センパイはすぐにボールを奪うと走り出した。
ものすごい速さ。
「いけ!隆志!!」
黒澤センパイの声が後ろから聴こえる。
「隆志!!」
追いかける灰田センパイと俺。
先着したのは灰田センパイで、白川センパイが囲まれそうになってるのを助けに行こうとしてた。
「……っ……まだ……大丈夫……」
「!!」
ボールを高くあげて、その落下点に走って。
白川センパイの動きは神がかっていた。
「決めろ!隆志!!」
「隆志!!」
黒澤センパイと灰田センパイの声。
それに応えるように、白川センパイはシュートを放つ。
ボールはものすごい速さでキーパーの顔面の真横を突きぬけていった。
「……!!」
得点を告げるホイッスルが鳴る。
グラウンド内が歓声に包まれ、白川センパイのところに黒澤センパイと灰田センパイが駆け寄って3人で肩を抱き合ってた。
「はぁっ……やった……!!」
白川センパイは呼吸は苦しそうだけど笑顔だった。
「隆志、大丈夫か?一旦下がるか?」
「ん……いや……まだ大丈夫。もう少しお前らと試合に出て、少し休んだらまた出るよ」
すげぇ。
白川センパイ、マジですげぇよ。
俺も、頑張らねぇと。
それから、センパイは得点した事でマークが厳しくなり、灰田センパイと俺とでなんとか前に進めようと思ってやってみたけど、ゴール近くまで行っても得点は出来ずにいた。
残り5分というところでセンパイは限界がきたのか一度下がり、相手チームはそれに乗じて攻めてきて、1点入れられてしまった。
「すんません!」
「紫垣、俺が必ず取り返す!!心配するな!!」
「あざっす!!」
晄が謝ると、灰田センパイが駆け寄ってその頭を撫でる。
あぁ、全然気づかなかったけど、センパイと晄ってこんなにいい雰囲気だったんだな。
あれから晄、何も言ってきた来なかったけど気持ち落ち着いたっぽかったから良かった。
試合は延長になって、白川センパイも出たけど得点出来ずにPK戦で決着をつける事になった。
俺は3人目だったんだけどなんとか決めて、4人目の白川センパイも決めてくれた。
ここまで、相手チームもうちのチームも2本ずつ決めてて、最後のひとりが決めるか決めないかで勝敗が決まる事になってた。
最後は灰田センパイ。
晄がゴールを許してしまって、センパイが決められたらサドンデスに入れる。
「唯、決めろ!!」
「いけ!!」
「灰田センパイ!!」
みんながセンパイを応援していた。
「唯さん!!」
晄は俺の横で誰よりも大きな声を出してた。
「……!!」
灰田センパイのシュートは……ゴールポストにぶつかった。
試合終了を告げるホイッスルの音。
キーパーは反対の方に飛んでいた。
あと少し、あと少しのところだった。
「みんな、済まない……」
灰田センパイが泣きながら頭を下げてくる。
「オレの……オレのせいです、オレがシュート決められたから……」
そこに泣きながら駆け寄る晄。
「お前のせいじゃない。お前はやるべき事をやってくれてた。自分を責めるな」
「でも……」
「唯、紫垣、お前らだけのせいじゃねぇ。みんな精一杯やったんだ。これが今の俺たちの実力って事なんだ……」
黒澤センパイが泣きながらふたりの肩を抱く。
グラウンドは歓声でいっぱいだった。
センパイ方を全国大会に行かせてあげられなかった。
俺、白川センパイや灰田センパイについていけてなかった。
それも悔しくて、涙が止まらなかった。
表彰式は黒澤センパイと白川センパイが泣き腫らした目で賞状とトロフィーを受け取った。
「みんな、ここまで一緒に戦ってくれて本当にありがとう。俺らはここで終わるけど、夏休み明けの新人戦、優勝してくれよ」
黒澤センパイの声は震えていた。
横に並んだ白川センパイ、灰田センパイも涙を堪えているように見えた。
ミーティングが終わって解散になると、俺はカバンからスマホを出してどこかで待っているであろう、春希か春翔から連絡が来ていないか確認しようとした。
「……あ……」
その時、たまたま視界に並んで歩く晄と灰田センパイの姿を見つけた。
晄、言うつもりなのかな。
気になって、同じ方向に歩くフリをして跡をつける。
ふたりは同じ施設内にあるテニスコートの方に向かって歩くと、小さい公園みたいになってるところにあるベンチに並んで座る。
俺は近くにある自販機に隠れてその
様子を覗く事にした。
「勝ちたかったです。唯さんが活躍する姿、もっとたくさん見たかったです」
「俺もだよ。お前ともっと試合に出たかった……」
センパイが晄の肩を抱く。
「唯さんともうサッカー出来ないとか信じたくねぇ……」
「……俺だって嫌だよ。でも、俺はずっとお前の傍にいるつもりだよ?紫垣」
「唯さん……」
やっぱ、灰田センパイは晄が好きなんだな。
センパイの言葉を聞いて確信した俺は見つからないうちにその場を後にしたんだ。
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