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第15話

HARU、爛漫☆第8楽章『初めての急接近』 大会も終わって、夏休み前の最後のデカいイベントは体育大会だけになった。 体育大会は高等部全クラス対抗で行われ、男女別で種目が違ってて、男子はサッカーかバスケ、そしてリレーのどれかに出なければならなかった。 俺、実は昔から足は速い方だから毎回リレーの選手で、今年はアンカーに決まっちまってたりして。 春希と春翔は手を使わないからという事で毎回サッカーなんだけど、ふたりともあまり上手くないから大会まで俺が指導するっていうのが例年のパターンだったりする。 ****************** 「春楓、今日はもう無理だよ」 「うん、僕ももう足がついていかないよ」 「何だよ、お前ら。これくらい大した事ねぇだろ」 学校の近くにある公園のグラウンドの1箇所を借りて練習してた俺たち。 春希も春翔も普段、俺よりもめちゃめちゃ動いてる時あるじゃん。 ってツッコミたかったけど、言ったら言ったで面倒臭いコトになりそうだったから言わなかった。 「春楓はすごいなぁ」 「こないだの試合も1番走ってたの、春楓だったよね。かっこ良かったな、あの時の春楓…」 息を上げながら話してるふたり。 汗をかいてるその姿はちょっと色っぽく見える。 「ん?春楓、顔紅いけど大丈夫?」 「お、おう、大丈夫。暑いからだろ」 俺、慌てて首に巻いてたタオルで顔を拭いた。 「…もしかして、僕らを見ていやらしい事考えた…とか?」 「お前と一緒にすんな!!」 春希にバレそうになったけど、しらばっくれる俺。 「そっか。春楓、僕らが汗流してるの見てHな事されてるの思い出しちゃったんだ」 「違うって!!」 春翔まで言い出して、俺は動揺しちまう。 「可愛い、春楓。ハッキリそうだって言ってるのと同じリアクションしてる…」 ふたりは俺を見てくすくす笑った。 「うるせーよ!そんな元気あるんなら俺からボール取ってみろ!!そしたら…お前らの言うコト、聞いてやってもいいぜ」 「えっ、本当?僕、頑張って取るよ!!」 「僕も!!」 あぁ、こいつらホント頭おかしい。 自分をエサにする俺も俺だけどさ。 でも、こんな関係になったお陰?でふたりの練習のやる気は例年以上な気がする。 「春希、先にボール取れた方が今日春楓と一緒にシャワー入れる事にしよ」 「いいよ。僕、絶対負けない」 「今から3分以内な!!」 スマホのタイマーをセットして、俺はデカいふたりを相手にボールを蹴りながら逃げ回る。 自分の練習にもなっていいな、コレ。 結構バテてるふたりは俺に追いつけはしてもボールを取るまでには至らなくて、あっという間に3分は終わった。 疲れきったふたりはその場にへたりこんで息を上げている。 「ふー…まだまだ甘いな…」 「はぁ…っ、春楓、やっぱりすごい…」 「う……っ、追いかけるので精一杯だったよ…」 汗を拭ったり、水分補給してたりするふたり。 …やっぱ、なんか色っぽいんだよな、ふたりして。 「春楓、暗くなってきたからもう帰ろうよ」 「お、そうだな。また明日頑張ろうな」 「「う、うん…」」 俺が笑顔で言うと、ふたりは少し苦笑いして応えた。 帰りは春翔が監視してるあの人に頼んで車に乗せてもらって、汗だくの状態で電車に乗らずに済んだんだけど、行き先は春翔んちだった。 「今日はドローだったから3人で入ろうよ」 シャワーに入るって話になったところまではよかったんだけど、そんなコトを春翔が言い出して。 「春翔、いいの?僕、春楓に何もしないっていう選択肢ないけど」 「うん、大丈夫。僕もそうだから」 いつも思うんだけどさ、何で俺に聞かないで勝手に決めるんだろ、このふたり。 俺が絶対許すって前提で話進めてるよな。 「春楓、いいよね?」 「僕らにいやらしい事、されたいよね?」 ふたりは俺を間にして身体をくっつけてくる。 「ちょっ……!!」 「汗でべたべたの春楓の身体…いい匂いがする…」 俺の前に立ってる春翔が着ていた汗だくのTシャツを脱がせると、ネックレスに通してる指輪にキスをしてから俺の胸に顔を近づけてきた。 「い、いいから早く入ろうぜ」 「えっ、春楓、早くいやらしい事したいって事?いいよ、入ったらすぐしてあげる」 背後からは春希がそう言って首筋にキスをしてくる。 「……っ、お前ら……っ」 ダメだ。 こんな風になったら受け入れるしかないって思っちまう。 俺……どうしてこんな風になったんだろう。 男3人には少し狭い春翔んちの風呂。 俺は同じようにふたりに挟まれてた。 シャワーはまだ出してなくて、ふたりの汗の匂いが俺をますます狂わせる。 「ん……っ…んむ……ぅ……っ!!」 春翔とキスしながらお互いのを扱きあって、脚の間に挟んだ春希の昂りを感じていた。 「春楓、目が蕩けてるよ、すごく可愛い」 「う……あぁっ、はると……ッ!!」 春翔が手のスピードを速めてきて、俺はすぐにイッてしまう。 春翔もその後にイくと、春希が俺の身体を自分の方に向けさせた。 「春楓…僕のもイカせて…」 春希の大きな手に導かれて先端がぬるぬるになってるソレを握らされる。 「はるき……」 春翔としたように、キスをしながら苦しそうな春希のを扱く。 「……っ、んん…っ!!」 キツく締めながらすると、春希も俺の手に精を放ってた。 「春楓って本当に欲張りだね」 「春楓の掌の中、僕らのでいっぱいになってるね」 満足そうに笑ってるふたり。 そんなふたりを見るのが堪らなく嬉しい。 それからはちゃんとシャワーに入ってさっぱりした状態で電車に乗って帰ったけど、こんな日々が体育大会前日まで続いた。 春希も春翔も俺から最後までボールが取れなかったけど、連日3人でシャワー入りながらエロい事してたなんて恥ずかし過ぎる。 しかもふたりは体育大会でたくさん得点した方が終わった後に俺とHするって決めたらしい。 「楽しみにしててね、春楓」 「絶対満足させてあげる」 って色っぽい声で言われて、俺は密かに嬉しい気持ちになってた。 ****************** 体育大会当日。 リレーは午前に予選、午後の最後の時間に決勝をすると決まってたので、俺は出番が来るまで春希と春翔の応援をしにサッカーの会場に向かってた。 「黄嶋!」 「黒澤センパイ、白川センパイ!!」 途中で黒澤センパイと白川センパイにバッタリ会う。 「お前、もしかしてリレー?」 「はい、リレー出ます!」 「そっかぁ、オレらもだよ。負けないからな」 ふたりとも笑顔で話してくれて、白川センパイは俺の頭を撫でてくれた。 センパイ方、ふたりともリレーなんだ。 白川センパイがアンカーかな。 勝てる気が全然しねぇ。 「黄嶋は今どこに向かってたんだ?」 「サッカーの会場です。幼なじみが出てるんで応援しようと思って!」 「そっかぁ、オレらは唯がバスケ出てるらしいから応援に行くとこ。じゃ、またな!」 「はい!」 仲睦まじいっていう言葉がぴったりのセンパイ方を見送ると、俺はサッカーの会場に急いだ。 試合は前半15分、後半15分っていうルールになってて、俺が見に行った時には前半が残り半分というところだった。 下級生のクラスと戦ってるうちのクラス。 今のところ、2対2らしい。 うちのクラスの方は春希と春翔のせいだろう、女の子の応援がすごかった。 「貴公子さま〜頑張って〜!!」 「サッカーしてる姿もカッコイイー!!」 走ってるだけで騒がれてるふたり。 どっちかにボールが渡ると、ものすごい歓声が起こってた。 春翔がボールを奪ってゴールまで独走すると、シュートを決める。 3点目が入り、春翔は女の子たちの声援に手を振って応えてたけど、俺の姿を見つけると胸元に手を当てた。 『僕、シュートを決めたら指輪をここにしまってるっていう合図するからね』 って登校してる時に言って同じジェスチャーしてたけど、まさかホントにするなんて。 ちょっと恥ずかしいけど、めっちゃ嬉しい。 「赤の貴公子さまも1点入れられてるし、あのおふたりってホントにすごいわよね〜」 「イケメンで頭も良くてスポーツも出来てピアノも出来るなんて……完璧過ぎる!!」 「あ〜ん、一度でいいからどっちかとデートしてみた〜い」 盛り上がってる女の子たち。 ……この子たちには俺らの関係、絶対バレたらダメだな。 俺は居ずらくて、試合は見にくいけど男子が集まってるところに移動した。 「おっ、春楓!」 「うーすっ!」 「うちのクラス、このままいけば勝てそうだよな。春希と春翔がすごい勢いでボール取りまくっててスゲーんだ」 「へー……」 すごい勢い。 持つのかな、最後まで。 「あいつら、変わったよな。昔はお前の後ろで泣いてるイメージしかなかったのに今じゃ大人気だもんな。お前もずっと付き合いあんのに誤解されたりして大変だな」 「そうでもねぇよ。確かにあいつらに身長抜かれた時はショックだったけど」 幼稚部から知ってる奴の言葉に、俺はそう答える。 「マジ?あいつら昔そうだったの?」 「そうだよ!生徒会の杜っているじゃん?あのふたり、あいつにいつも泣かされてたんだぜ?それを春楓がいつも助けててさ」 「へぇ〜!信じらんねぇ。赤木とか泣いた顔、全く想像出来ねぇ」 高等部から入学してきた奴が言う。 「そういえばさ、赤木って最近彼女出来たよな?こないだキスマークがっつりついてたの見えたんだよ」 「マジで?春楓、相手知ってる?」 「あっ、いや、知らねぇ。彼女いるってコトしか聞いてねぇわ」 俺がつけた、なんて当然言える訳もなく、とりあえず適当に話してみたけど怪しまれてはいなさそうだ。 「あいつ、普段ああいう感じだからめちゃくちゃエロそう」 「分かる!!あの声でエロい事とかガンガン言ってそう」 当たってる。 そう言いたかったけど、絶対バレるからぐっと堪えた。 「彼女も相当エロい子なんだろうなぁ〜。きっと美人だろうし、うらやまし〜!!」 「絶対巨乳だよな、彼女」 「あぁ〜!好きそうだよな、赤木」 「春楓、赤木に何とか写メもらえるように頼んでくれよ〜!あいつなら彼女にエロい格好とかさせてそうだし」 「えっ、俺?ぜ、絶対出さねぇと思うけど、今度イケそうな時に聞いてみるわ!」 言いたい放題言われてる春希。 でも割と当たっててちょっと笑えた。 その間に前半が終わってて、ハーフタイムの時にふたりが俺の方に来た。 「春楓、僕と春希で1点ずつ入れたんだよ」 「おう!やったじゃん!!後半でまた得点出来たらいいな!!」 「春楓もリレー予選、頑張って!時間、確か後半の試合中だったよね?」 「お、そうだった!お互い怪我だけはしねぇように頑張ろうな!!」 俺がふたりに笑顔を向けると、ふたりも笑顔を返してくれた。 もう少ししたらリレーの予選か。 準備運動、もう少し念入りにしねぇとな。 俺は応援してる場所から少し離れると、準備運動をしながらふたりの様子を見ていた。 あの調子なら入れてもあと1点か2点だろうな。 一生懸命走ってボールを追いかけてるけど、ふたりとも疲れが出てきてる。 汗を流しながら走ってるふたり、カッコイイな。 ……って、走る前にエロいコト考えねぇようにしねぇと。 俺は両頬を叩くと、リレーの会場に向かった。 予選会場には俺以外の選手はまだ来てなかったけど、予選の第1レースが始まりそうだった。 黒澤センパイと白川センパイが別々の場所でそれぞれ準備運動をしていて、かなり集中してるように見える。 「第1レース……第3走者、黒澤勇大さん、アンカーは白川隆志さんです」 放送局の人がセンパイ方の名前を呼ぶ。 白川センパイの時にはクラスの人の応援以外に女の子の黄色い声援がすごくて、センパイはそれに頭を下げてから笑顔で手を振ってた。 「位置について、よーい!!」 ピストルの音が鳴り響く。 センパイ方のクラスは第2走者まで3位で、黒澤センパイが2位との差を縮めて白川センパイにバトンを渡していた。 「隆志!頼む!!」 「任せろ!!」 あの速さで走っていく白川センパイ。 リレー、陸上部は出ちゃダメってなってて他の運動部はオッケーになってるからだいたい運動部の人がメンバーに入ってるけど、白川センパイの速さは陸上部クラスだと思う。 センパイは全員をゴボウ抜きして、ぶっちぎりで1位になってた。 「白川くーん!!ステキー!!」 女の子たちが騒いでいる中、白川センパイは黒澤センパイとハイタッチを交わしてから走ったメンバーと円陣を組んで喜び合う。 センパイ、200メートルだからそこまで負担じゃなさそうだ。 走ってる時もすごく楽しそうに走ってるように見えたし。 「春楓!」 そこに、リレーのメンバーがやって来る。 「おう!みんなどこ行ってたんだよ」 「オレは彼女出てたからバレー見てた」 「俺は女子のリレー」 「バスケ行ってた」 「俺はサッカー見てたよ。みんなバラバラだな」 みんな、幼稚部か小学部からの付き合いで割と仲が良いヤツらばかり。 第1走者と第2走者のふたりがバスケ部で足が速いから、まず引き離してもらってそれをキープする作戦になってたりするんだけど、俺も攻めないととは思ってた。 全員で準備運動をした後、円陣を組んで気合を入れてからコースの位置につく。 「第3レース…………アンカーは黄嶋春楓さんです」 春希と春翔の姿はまだない。 試合、無事に終わったかな。 「位置について、よーい!!」 ピストルの音が鳴り、リレーが始まる。 3走目までは良い感じで来てたからこの流れのままいかねぇと。 「春楓!頼んだぞ!!」 「おうよ!!」 1位でバトンを受け取ると、俺はゴールまで全力疾走した。 追いつかれないように、って思いながらただ前だけを見て走った。 「「春楓!」」 みんなの声に混ざって春希と春翔の声が聞こえた。 ゴール前の1番近いところにいたふたり。 俺は無事に1着でゴールしてた。 チームのみんなとハイタッチを交わした後、ふたりの方に向かう。 「春楓、やっぱり速いね、かっこ良かったよ」 「お疲れ様、春楓」 「おう、サンキュー」 ふたりの笑顔に俺も笑顔になる。 「僕らも勝ったよ、試合」 「あれから1点も得点出来なくて今のところ1対1だよ」 「……あぁ、そう……」 こいつら的には試合の勝敗よりどっちが多く得点したかが大事なんだろうな。 「決勝進出おめでとう、凡人以下の黄嶋くん」 そこに、聞き慣れた嫌味たーっぷりの言い方の声が聞こえてくる。 「…そういえばお前も足速かったな、明日南」 声の方を見ると、いつからいたのか知らねぇけど、取り巻きの女の子たちを引き連れて明日南が立っていた。 「今年こそは負けないよ?黄嶋くん」 俺の傍に近づいてくる明日南。 それを春希と春翔が割って入る。 「春楓に近づくな。合唱コンクールの時の事、僕は忘れてないよ?」 「君、今まで一度も春楓に勝っていないよね。そういう言い方は勝ってから言うべきだよ」 ふたりの背中で明日南がよく見えなくなったけど、とりあえず目の前のふたりの声が怒りでいっぱいな感じでめちゃくちゃ怖かった。 「ふ、フン、黄嶋くん、せいぜい怪我しないようにするんだね」 明日南もビビったのか、声を少し震わせながらいなくなる。 「……良かった、春楓が無事で」 春翔がホッとした顔をして俺を抱きしめてくる。 「流石にあんな人前でヤバい事しねぇだろ。それにあいつなんかに俺は負けねぇし」 「…春翔、もういいでしょ。春楓から離れてよ」 「あっ、ごめんね、春楓」 春希、スゲー目で春翔の事見てたぞ。 「春楓、僕らもう少ししたらまた試合なんだけど、応援来てくれる?」 「あ、あぁ、もちろん」 午後の決勝まで何もないからそのつもりだったけど、見る場所とか言うコトとか気をつけねぇと。 そう思いながら俺はふたりと一緒にサッカーの会場に向かった。 ****************** サッカー2回戦目。 春希も春翔もさっきと同じくらいの勢いでボールを奪ってそれぞれ1点ずつ入れて勝ってた。 お互い2得点ずつ。 決勝は総当たり戦で連続で試合の可能性もあった。 早く昼飯を食べてないといけないって事で、俺も一緒に早めに昼食をとることにした。 「青木と赤木のお陰で決勝まで来られたな」 「そんな…みんなで頑張ったからだろう?」 チームのメンバーの男子の言葉に、春翔が言葉を返す。 教室には同じくサッカーに出てる男子や先に昼食をとる女の子の姿もあった。 「お前らさ、めちゃくちゃ気合い入ってんじゃん?引っ張ってってくれてありがたいよ」 気合い…ねぇ…。 俺は何も言わずに作ってもらったオムライス弁当を食べていた。 「黄嶋、ふたりにサッカー教えたりしたの?お前、確かサッカー部だよな?」 「お、おう。大した事は教えてねぇけどちょっと一緒に練習したよ」 「へー、じゃあ元々ふたりともサッカー上手いんだな」 普通の会話。 多分、多分大丈夫だ。 「女子もわりと勝ち残ってるらしいし、3位までに入れるといいよな」 「そうだね…」 春翔が応えたけど、どうでも良さそうに聞こえた。 昼食後、わりとすぐサッカーの決勝があって、うちのクラスは3位に終わった。 決勝までいくと小学校や中学校でサッカー部だったっていう奴がメンバーに多く入ってるクラスとの対戦で、うちにはそういう人がいなかったから1勝も出来ずに終わったけど、春翔が1位になったクラスから1点だけ入れて、春希との戦いに勝っていた。 「僕の勝ちだね、春希」 表彰式をよそに話す春翔。 「……っ、悔しいけど、勝負は勝負だからね。次は負けないよ」 ……次、あるんだな。 何でこんなにも張り合いたいんだろう。 めちゃくちゃ恥ずかしい。 「後は春楓のリレーだけだね。頑張って!!」 「春楓、明日南には気をつけて。多分アンカーだろうから近くを走ってたら何かしてくるかもしれない」 「おう!ふたりともありがとな!!」 集合場所に行く直前、俺たちは円陣を組むように肩を抱き合う。 女子のリレーの決勝が先に終わって、うちのクラスは3位。 俺たちが優勝したら総合で3位までに入れるという状況だった。 「只今より、高等部男子リレー決勝戦を行います……」 センパイ方のクラス、明日南のクラス、そして俺のクラスが走者順に並んでグラウンドを1周ランニングする。 これが最後の競技だからかなりの人がいて、色んな歓声が上がってて、特に白川センパイと明日南への応援の声が多かったし、さっきは気づかなかったけどふたりの横断幕まで持ってる女の子たちまでいた。 そんな中、春希と春翔が手を振ってくれてるのを俺は見つけて、俺は春翔がやったように、胸元に手を当ててから手を振り返したんだ。 春翔、気づいたかな。 後でどんな反応するか楽しみだ。 「おっ、黄嶋今の何?カッコイイな!」 「あっ、いや、気合い入れただけッス!!」 「へぇ〜、何かよく分かんないけど、負けないからな!!」 白川センパイがウインクをして笑顔を見せてくれる。 「俺も!センパイに負けないように頑張ります!!」 俺はそう言ってセンパイに笑顔を返してた。 「位置について、よーい!!」 第1走者がスタート位置に着くと、決勝戦が始まる。 俺のクラスはずっと2位のまま、第3走者が1位の黒澤センパイにだいぶ差をつけられたトコで俺にバトンが回ってきた。 白川センパイとの差は半周までいかないけどそれに近いカンジで。 「春楓、悪ぃ!」 もう少しで3位にも抜かれるところを、俺がセンパイを追いかけて縮めようとした。 「白川くーん!!」 「明日南さまー!!」 「春楓ー!!」 あと少し、あと少しなんだ。 微かに聞こえてくる、春希と春翔の声。俺を応援してくれてる人たちの思いに応えたい。 そう思ったけど、ダメだった。 俺のすぐ目の前でゴールテープが切られ、ほぼ同時に後ろから明日南がものすごい勢いで転んだような音がしたんだ。 「お、おい!大丈夫か?」 2位ゴールが確定した後、俺は明日南が転んでたところに向かう。 「う……っ……!!」 「君、大丈夫か?」 そこに黒澤センパイと白川センパイもやって来る。 「だ…大丈夫です……すみません……」 痛そうにしながらも応える明日南。 周りには女の子たちが集まってきて、心配そうに見ていた。 明日南の左膝からは血が出ていたから、俺は持ってたタオルでそこを止血しようとした。 「き、黄嶋くん!?」 「こんなんで悪ぃけど、ないよりマシだろ」 何とかタオルを巻くと、明日南はびっくりした顔で俺を見る。 「黄嶋、彼を保健室まで連れて行こう。手伝ってくれるか?」 「あ、はい!!」 「君、立てるかい?」 黒澤センパイに言われ、俺はセンパイと明日南に肩を貸して保健室まで一緒に歩いてた。 「黄嶋くん、よく僕を助ける気になったね」 歩きながら、明日南はそんな事を口にした。 「怪我してる奴を見て放っておくなんて出来ねぇよ」 例えそれがどんなに嫌な奴でも。 センパイの手前、それは言わなかった。 「……済まないね……」 一瞬、明日南が俺を見て笑って、その手で俺の頭を撫でてきた。 えっ!?何だよ、今の。 見た事のない顔と行動に、俺はパニックになった。 保健室に着くと、黒澤センパイは戻っていった。 俺も帰ろうとしたけど、先生が手当ての間に電話がかかってきてしまってタオルで巻いてたところの泥を落としていて欲しいと言われたので濡らしたガーゼでその処置をしていた。 「……っ……!!」 「もう少しだからな、染みると思うけど我慢しろよ」 泥を落としてる間にも血が流れてる。 春翔ほどじゃないけど、明日南の色白の肌に流れる血はすごく赤く見えた。 「よし、これでいいだろ」 俺のタオルだと泥もついてて汚いので、保健室にあった綺麗なタオルをとりあえず巻いていた。 「……ありがとう、黄嶋くん」 「んじゃ、俺も戻るわ……」 「ま…待って…もう少し……先生が来るまで、ここにいてくれないかな……」 戻ろうとすると、明日南に腕を掴まれる。 びっくりして見ると、俯きながら話す明日南がいた。 「何でだよ」 「その……こういう怪我をした事がなくて……怖いんだ。ひとりになるのが」 「はぁ!?ガキかよ。仕方ねぇなぁ」 顔を紅くして泣きそうになってる明日南を見て、俺は明日南を泣かせた時に泣き止むまで一緒にいた事を思い出し、明日南が座っていた長椅子の隣に座った。 「……君は本当に優しいな。だからあのふたりは君から離れなかったんだろうね」 「さぁ、俺には分かんねぇよ」 こんな風に話をした事がないから妙にドキドキする。 てか、ふたりって春希と春翔の事だよな。 何で明日南がんな事気にしてんだ? 「いや、そうだよ。君はその正義感の強さで人を狂わせる。あのふたりも……」 俺の手をいきなり握ってくると、明日南は俺に近づいてくる。 「ちょっ……何……」 そこに、保健室のドアを勢いよく開ける音。 「「春楓!!」」 春希と春翔が血相を変えて入ってくる。 明日南は慌てて俺から離れてた。 「大丈夫?春楓」 「君、今春楓に何かしようとしてなかった?」 「おい、やめろ!明日南は怪我してんだぞ!!」 今にも明日南に掴みかかりそうなふたりを止める俺。 「でも、今すごく春楓に迫ってたように見えたよ!」 「僕も見たよ。怪我してるなら大人しくしていればいいじゃないか」 「落ち着けって!俺、何もされてねぇから!!」 こいつら、明日南が相手だから余計にムキになってる。 「……ほら、君のせいだよ、彼等がこんな風になったのは……」 明日南が俺にしか聞こえないくらいの低いトーンでボソッと言う。 俺のせい? そんなの分かってる。 でも、どうして明日南がそんな事言うんだ? 「……今、春楓に何か言ったな……」 「やめろ!春翔!!」 俺を押し退けて明日南の胸倉を掴もうとする春翔を、俺は思い切りビンタする。 「春楓……」 「俺は聞こえなかった。だからもうやめろ!」 「でも、春楓……」 「春希、前に言ってただろ?証拠がないのに訴えたらこっちが不利になるって。今、その状況じゃねぇか。落ち着け」 「…………」 春翔も春希も納得はしてなかった。 けど、俺が睨むとふたりして引きつった顔をして何も言わなくなった。 ふたりにこんな顔、初めてした。 そこに保健の先生が戻ってきたから、俺は後を任せてふたりと一緒に保健室を出た。 青ざめた顔で俺を見ていた明日南は何か言いたそうにしてたけど、言わずにいた。 「ごめん、春翔。痛かっただろ?」 「うん、痛かった。でも、お陰で冷静になれたよ」 保健室から出てすぐ、俺は近くにあった流しで春翔からタオルを借りて濡らすと春翔の頬に当てる。 俺もだいぶ頭に血が上ってたな。 春翔の頬にがっつり俺の手の跡がついてる。 「春楓、あの時絶対明日南に何か言われたよね?どうして嘘ついたの?」 「……ちゃんと聞こえた訳じゃねぇからだよ」 そう。 あれは聞き間違いかもしれない。 それまでに色々あり過ぎて、明日南のあの言葉が本当に言ったかどうか自信がなくなってきたんだ。 落ち着きを取り戻した春希に聞かれて、俺はハッキリ答えられずにいた。 「春楓、何もされてないよね?大丈夫だよね?」 春希が泣きそうな顔をして俺を抱きしめてくる。 「それは大丈夫だ、だからそんな顔すんな」 「うん……」 震えてる春希の背中をさすると、春希は俺を抱く腕に力を込めてた。 「春希、もういいでしょ。春楓から離れてよ」 「春翔はこれから春楓とふたりになるんだから少しくらいこうしててもいいじゃない」 あぁ、こいつらまたくだらない事で言い合いしてる。 でも、明日南との事を忘れてやり合ってるみたいだからまだいいか。 ****************** クラスに戻って終礼を終えて学校を出ると、俺は春翔んちに寄ってから帰るという連絡を母親にして、一緒の駅で降りていた。 「春楓、今日も一緒に入りたい」 「わ…分かったよ…」 どっちにしても必要だと思って着替えは用意してた俺。 3人で入ってた春翔んちの風呂に、今日はふたりで入る。 「リレーの決勝の時、春楓が僕の真似してくれたの、すごく嬉しかった」 まだ少し残ってるビンタの跡。 それでキスしてくる春翔がちょっと面白くて笑っちまいそうになるのをなんとか堪えた。 「春楓……大好きだよ」 春翔に強く抱きしめられて、倒れそうなくらい激しいキスをしてこられると、笑う余裕なんかなくなっていく。 「春翔……」 お互いの身体を洗いあった後、春翔の部屋で春翔に言われてお互いのを口に含んでた。 「んんっ、んふ……っ……!!」 春翔の身体の上に乗っかって、堅くなっていく春翔のを口いっぱいに感じてた。 春翔がしてるように俺も自分が収まれるトコにも手を伸ばしてソコに指を押し込むと、春翔の動きが一瞬止まった。 「は……っ、春楓……」 「ん……?」 「先に……挿れて……」 春翔のねだるような声。 「俺でいいのかよ」 「うん、その後僕も挿れるから……」 身体から降りて向きを変えると、俺は春翔と見つめ合った。 その潤んだ瞳にドキドキしながら、準備万端のモノを指の代わりに挿れていく。 「うぅ……っ……!春楓の……久しぶりで意識飛んじゃいそう……っ……!」 「それ……、こっちのセリフ……ッ!!」 久しぶりだから痛いのかと思ったけど、春翔は最初から気持ち良さそうだった。 抱き合うように繋がって、その手を握りあいながらキスを交わすと、俺は割とすぐにイッちまってた。 「はぁ……っ、次は僕の番だね」 俺が春翔のナカから出ると、春翔は俺の身体を床に倒しコンドームをつけてすぐに俺のナカに挿ってくる。 「ぅあ……あぁ……っ……!!」 指とは違うその質量に最初は苦しくなるけど、それは一瞬の事で、春翔のが俺のナカでビクビクしてるのを感じると身体が熱くなっていくんだ。 「春楓……すごく気持ち良いよ……っ……!!」 見上げた先にある春翔の顔が嬉しそうにしているのを見るとますます興奮して春翔のを締め付けてしまう。 「はると……ッ……!!」 春翔に腰を掴まれて、その気持ち良いリズムを刻まれて。 繋いだ手を離さないまま、春翔は俺のナカでイッてくれた。 「僕、思ったんだけど」 片付けた後、俺たちはかいた汗を流す為にもう一度シャワーに入ってた。 それを終えると、春翔が俺の身体をタオルで拭きながら呟くように言う。 「何だよ」 「明日南、春楓の事、もしかして好きなんじゃないかなって」 「まさか。向こうが弱いものいじめしたりしてたからだけど、俺、あいつの事散々泣かせてきたのに?」 真面目な顔をして話す春翔に、俺は驚いてた。 「ホントは仲良くしたかったかもしれないよ?僕らがいて、それが出来なかったからわざと意地悪をして春楓に存在を覚えて欲しかった……とか……」 「それは……」 さっきの明日南の言葉が頭を過ぎる。 『君はその正義感の強さで人を狂わせる。あのふたりも……』 明日南、あの後何かを言おうとしてた。 考え過ぎだろうか。 「とにかく、明日南は危険だよ。僕も春希も気をつけるけど、春楓も気をつけてね」 「お、おう」 俺は、春希や春翔だけじゃなくて、明日南の事も狂わせたのか? そんなつもり、全然なかったのに。 1学期の終わり、俺はそんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、夏休みを迎える事になったんだ。

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