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第23話

HARU、爛漫☆第12楽章『初めての不穏な空気』 発表会が終わり、俺たちにとって次の大きなイベントは修学旅行だった。 その前に生徒会選挙があり、会長には明日南が立候補していた。 今回の生徒会選挙は信任か不信任かを問うもので、ほとんどの人が信任で投票する中、俺たちは明日南とその取り巻きという生徒会役員たちに対して全員不信任で投票していた。 結果は全員信任という形になったけど、不信任の票数も4割くらいあった。 結果が発表された翌日の朝礼で行われた任命式。 その時、見慣れない顔を俺は見つけたんだ。 ****************** 「副会長、海江田竜樹(かいえだたつき)」 明日南の次に呼ばれたそいつは、明るめの茶髪にウルフカットっていう目立つ髪型の奴だった。 「あんな奴いたっけ」 後ろの席にいるクラスメートに尋ねてみる。 「転入してきた帰国子女だよ。親が警察のお偉いさんなんだって」 「へー、いつの間に」 確か新聞部だったはずのクラスメートがそんな話を俺に教えてくれた。 「親が警察なのにあんな感じなんだな」 「海外で暮らしてた期間の方が長いとかであれが当たり前だと思ってんのかもな」 「あー、あるかもな」 壇上で明日南と並んで立っているそいつに目をやる。 明日南より少しだけ高い身長って事は、春希と春翔よりは低いけど俺よりは確実にデカい。 細身で口元のホクロが目立つ、目鼻立ちの整った顔のそいつは笑顔を浮かべて立っていたけど、その笑顔に俺は不気味な雰囲気を感じていた。 休み時間、その話を春希と春翔にすると、ふたりも同じ感情を覚えた事を教えてくれたんだ。 「あの人…得体がしれない感じがして怖いなって思ったよ」 「僕も。明日南も彼の事、怖がってるように見えた」 春希が話した後、春翔が続けて話す。 「生徒会役員自体が要注意だけど、彼は特に気をつけた方がいいのかもしれない」 春希がそう言った後、教室に人が入ってきた。 それは、海江田だった。 「このクラスの青木春翔くんと赤木春希くん、黄嶋春楓くんにご挨拶に来たんだけど、誰かな?」 「俺たちだけど」 穏やかな話し方なのに、どこか挑発的に感じる。 それで俺はふたりを守るように海江田の方に進み出ていた。 うっ、やっぱ俺よりデカい。 俺の事、明日南みたいに見下してる感じじゃないけど、冷たい目で見てる気がする。 「はじめまして、この度生徒会副会長に就任した海江田竜樹です。1学期は日本での暮らしになかなか慣れなくてあまり学校にも来てなかったから僕の事知らなかったと思いますが、これから仲良くしてくださいね」 その目から一転して、笑顔で手を差し出してくる海江田。 「あ、あぁ、よろしく。でも何で生徒会副会長さんがわざわざ俺たちのところに?」 俺、握手に応じながら尋ねてた。 「明日南くんから聞いたんです。君たち3人は学園内で目立つ存在だって。特に青木くんと赤木くんはすごく人気があるというお話で。だから直接会ってお話して、そのお人柄を知りたかったんですよ」 「それはありがとう。明日南から聞いているのにわざわざ来てくれたんだね」 俺の前に立ちながら話す春翔。 笑顔で話しているけど、その笑顔は形式的で相手を見定めてるみたいだ。 「直接お会いしてみないと人は分からないですからね。明日南くんは君の事、父親を知らない可哀想な人ってお話していましたが、僕には君がすごく幸せそうに見えますよ」 「おい!春翔の事、いくら明日南から聞いたからってそんな風に言うんじゃねぇ!!」 「春楓、いいんだ。僕、もうそんな事を言われて泣いたりしないから」 俺の中で絶対許せない言葉を口にした海江田にカッとなって掴みかかろうとした俺を制止すると、春翔は穏やかな口調でそう言った。 「海江田くん、確かに僕には父がいない。でも、母や春楓と春希の親御さんが僕にたくさんの愛情を注いでくれた。だから僕は幸せだし、そうに見えるんだと思うよ」 親父さんの事を決して口にせず、嘘をついているような素振りも見せずに話してる春翔を、俺はカッコイイと思って見ていた。 「そうでしたか。こうしてずっと一緒に仲睦まじくいられるご友人もいるなんて羨ましい限りです。僕は父が警察官僚で幼い頃から転勤ばかりなので信頼できる、ずっと付き合いのある友人がいないんですよ」 俺の言葉に動じる事なく、海江田はその不気味にも見える笑顔で春翔と話している。 「親がそれなりの地位や知名度があると何かと苦労がありますよね、黄嶋くん、赤木くん。君たちの事、テレビで拝見した事がありますよ。黄嶋くんはお父様が世界でご活躍されている方だから尚更ご苦労があったのでは?」 その視線が春翔から俺や春希に向けられる。 俺に近づいてきた海江田に、少し離れた所にいた春希が割って入る形で歩いてきた。 「何が言いたいんですか?先程からあなたの言葉には何か別の意図を感じるのですが」 春希の声はいつもより少し低くて、迫力を感じた。 この得体が知れない存在に警戒してるんだろうな。 「これは失礼致しました。僕、先程お話した通り友人がいませんので、君たちとお友達になれたらと思いまして。父が転勤ばかりでなかなか友人が出来ず、口下手でお恥ずかしい限りです」 「そう……ですか。明日南とは友人ではないんですね」 「明日南くんとはまだ生徒会の仲間という感じです。明日南くんともお友達になって君たちのように心から信じ合える存在になれたらいいのですが……」 そう言った海江田が一瞬見せた眼差しは、俺たちに対して明らかに敵意を見せているように見えた。 「長々と失礼致しました。修学旅行、君たちはどちらに行かれるんでしょうか?僕もぜひ同じ場所にして君たちと親睦を深めたいです」 クラスメートがいる中で教えたくないなんて言える訳がなく、俺は行先を教えていた。 「ありがとうございます。その時はよろしくよろしくお願い致しますね。では」 海江田は満足そうな顔をして教室から出ていった。 アイツ、絶対、何かある。 それが何なのか分からなかったけど、そんな予感が俺の胸を渦巻いていた。 ****************** 修学旅行の行先選択を経て、俺たちは修学旅行の日を迎えていた。 うちの学校は行先を選択でき、海外にする人もいたけど、俺たちは国内でそうそう行かないと思われる北国に行く事にしていた。 そこにはあの時行先を聞いてきた海江田、そして海江田から聞いたのか明日南もいたんだ。 「青木くん、赤木くん、黄嶋くん、旅行中よろしくお願い致しますね」 集合場所で俺たちを見つけるとすぐに声を掛けてきた海江田。 「本当に同じにしたんだな」 「君たちとお友達になりたいと言ったじゃないですか」 その割にあの後全然俺たちを尋ねて来なかったよな、こいつ。 そう言いたかったけど、周りに他の人もいるし、こちらから積極的に話す必要もないかと思って言わなかった。 飛行機に乗って移動して、初日は少し北の、動物園が有名な街で過ごす事になった。 寒いとは聞いていたけど、想像以上の寒さで俺はもう少し厚手の上着にすれば良かったと後悔した。 「大丈夫?春楓、良かったらこれ使いなよ」 自由行動の時、春翔が首に巻いていたストールを首にかけてくれる。 「おっ、サンキュー!でも春翔が寒くなるだろ」 「大丈夫だよ。僕、予備に2枚持ってきてるから。春希は大丈夫?」 「あぁ、母さんに言われてジャケットを厚めのにしてきたから」 春希のジャケット、絶対暑いだろって思ってたけど、ちょうど良さそうだ。 旅行中、海江田にはあぁ言われたけど、元々クラスが違うからっていうのもあってあまり接触はなく、俺たちは常に3人で行動してた。 部屋もちょうど3人ずつに分かれてって事だったからそのまますんなり3人一緒になれたんだけど、隣の部屋には必ず明日南、海江田、ふたりと同じクラスの生徒会役員がいた。 「あのふたりがずっと隣の部屋って、明らかに僕らを監視するつもりなんじゃない?」 「そんな気がするよな。明日南が部屋割りとか根回ししてそうだし」 初日の日程を終えてホテルの部屋に着くと、明日南たちの部屋の壁から離れた位置で俺たちは話していた。 「……春楓と旅行中どうやってセックスしようかな……」 「そうだね。春楓は興奮しちゃったら声が大きくなっちゃうから、細心の注意を払わないとね」 春希がため息をついたからどうしたのかと思ったら淡々とそんな事を言い出し、春翔もそれに乗っかっていた。 「お前らさ、こんな時もエロい事考えてんのかよ」 「春楓、4日も一緒に過ごせる夜があるのに何もしないで終わるって思ってたの……?」 呆れていると、春希が俺を抱きしめて耳元で囁いてくる。 「そ……それは……っ……!!」 春希に耳の縁から首筋まで舌を這わせられて、身体が一気に熱くなった。 「期待してくれてなかったの?僕らといつもと違う場所でいやらしい事できるかもって……」 「ひ……やぁっ……」 制服のワイシャツ越しに乳首を刺激してくる春希の指。 布越しの感触が気持ちいいけど、もどかしくもある。 「教えて、春楓。僕も春楓の口からこの旅行中の事、どう思ってたのか聞きたいな…」 「あぁ……っ、ダメ……ッ……!!」 背後から春翔が抱きついてきて、空いている乳首を同じように刺激してくる。 「ちゃんと言えたら乳首、直接触ってあげる」 「春希、その時は春楓の口を塞がないとダメじゃない?」 「そうだね。あのふたりに春楓の可愛い声を聞かせるなんて勿体ない」 ふたりが密着してきて、普段とは違う甘い声が俺をおかしくしていった。 「で、春楓、どうなの?」 「う……んっ、期待……してた…お前らなら絶対、何もしないとかないって思ってた…っ…」 恥ずかしさで身体がますます熱くなる。 俺がそう言った瞬間、春希は口元を緩ませて嬉しそうな顔をした。 「……よく出来ました」 俺の頭を撫でるあったくて大きな手。 近づいてくる唇を、俺はそのまま受け入れる。 「ん……うぅ……ッ……!!」 春希の舌が俺の歯を撫でて、俺はその舌に応える。 春翔がその間に俺の制服のネクタイを外し、ワイシャツのボタンも外して、ふたりの指が乳首を捉えていた。 「んふ……うぅぅぅ……ッ……!!」 指の腹で弄ってくる春翔と、摘んで扱くようにしてくる春希。 どっちも気持ちよくて立っていられなくなっていく。 「……はぁ、春楓、今日もすごく可愛い……」 「ベッドが思い切り向こうの部屋に近いね。バスルームは僕ら3人が入るには狭いし、どうしようかな」 ふらふらになってる俺を、春翔が支えてくれていた。 その密着した体勢で、俺は春翔のが熱くなっているのが分かってドキドキしてたりする。 「仕方ないね、春楓の口、交互に塞ぐしかないかな」 「そうだね。じゃあ今日と明後日は僕が春楓に挿れていいかな?春希は明日と最終日の夜にすれば公平でしょ?」 「それでいいよ。春楓もいいよね?」 「ん、あぁ……」 喧嘩しなければ俺はどっちでも良かった。 どっちに挿れられたって気持ち良くてココロが満たされるって知ってるから。 ……あぁ、なんでこうなっちゃったんだろ、俺。 「……あぁ、そうだ。音楽かけてみる?少し音量高めにしたら少しは誤魔化せるかも」 「あまり大音量だとこっちに来るかもしれないけど、少しなら何とかなるかもね」 珍しくふたりが全然喧嘩しない。 平和でいいんだけど、ちょっと物足りない気もする。 春希がスマホに持ってきてたらしい小さいスピーカーを繋いでピアノの曲をかけると、俺たちは3つ並んだベッドの真ん中で制服のままさっきの続きを始めてた。 ボタン全開のワイシャツだけを着て、俺は春翔とひとつになりながら春希のを口に挿れる。 「んん……ッ……!」 春希と春翔も声を発しないように、息もあまりしないようにしていて、それなのに俺のナカにあるシンボルは熱く脈打ってドクドクしてて、俺を興奮させたんだ。 「んむ……うぅっ……!!」 ふたりのがイった瞬間俺もイキそうになったけど、ベッドを汚したらマズイって思ってなんとか耐えた。 そしたらそれに気づいた春翔に咥えられてイカされた。 「ふぅ……、これはこれでドキドキしたね。とりあえず部屋のシャワーに軽く入ってからお風呂に行こうか。春楓、それでも大丈夫?」 俺のを飲み干した春翔が笑顔で言う。 「あぁ、問題ねぇよ」 「春希もいい?」 「うん。あ、下にコインランドリーあったよね。僕、結構汗かいちゃったからワイシャツ洗いたい。みんなまとめて洗えばいいよね」 近くにあったティッシュで額の汗を拭く春希。 首筋から胸元を流れていく汗がすごく色っぽかった。 「そうだね。この袋に入れて持っていこうか」 春翔が3人分のワイシャツが入りそうな大きさのショップバッグを用意してくれる。 なんだか、一緒に暮らしてるみたいでいいなって思っちまった。 いつかはこうやって毎日一緒にいられる日が来るのかな。 そんな事を俺は考えてた。 ****************** 明日南たちにちょっかいをかけられる事もなく、修学旅行は楽しく、順調に進んでいった。 あっという間に4日目を迎え、俺たちは最後の移動で南部の街に来ていた。 夜景が有名なこの街は歴史も古く、100年以上前に建てられて今も使われているコンサートホールがあり、その歴史と同じだけ古いピアノがあるという事で俺たちは自由行動の時にそのピアノを弾くのを楽しみにしていたりする。 係の人から許可をもらうと、俺たちはピアノに触れ、こないだの発表会の曲を弾き始めた。 あの時感じた楽しい気持ちがすぐに蘇る。 あれから駅のピアノでも何回か弾いたりしてたのもあって、そんなにミスもなく弾けた。 気づいたら人だかりが出来てて、一緒に来ていた生徒だけじゃなくて、観光客っぽい人も俺たちに拍手を送ってくれた。 「素晴らしい!こんな演奏が生で聴けるなんて、僕は幸せです」 そこに、あの海江田が拍手をしながら近づいてきた。 「ありがとう、海江田くん」 春翔が営業スマイルを返す。 「…お前、ひとり?」 俺はそこに明日南がいない事を疑問に思って聞いていた。 「ええ、実は館内の展示品をゆっくり見ているうちに明日南くんたちとはぐれてしまいまして。連絡してみましたがまだ返信も折り返しの電話もないんです」 笑顔で答える海江田。 それは苦笑いしてるようにも見えた。 「知らない街でひとりは何かと不安ですので、申し訳ありませんが明日南くんから連絡が来るまで一緒に行動させて頂けませんか?」 そう言われ、俺たちは顔を見合わせる。 前と同じで断る事が難しい状況っていうのと、ふたりが海江田と同じ事になったらって思うと放っておくわけにいかなかった。 「それはそうだよな。分かった、連絡来るまでで俺たちの予定に合わせてもらうけど、それで良かったら」 「構いません、ありがとうございます!」 ふたりは不安そうにしていたけど、我慢してもらうしかない。 俺たちは海江田を連れて違う場所に移動した。 有名な坂の前で写真を撮ったり、レトロなデザインの路面電車に乗ったり。 向こうから話しかけてきたから俺と春翔はそれに答える感じで話して、春希は自分に向けての話でなければほとんど口を開かなかった。 「赤木くんは普段は寡黙なんですね」 「…あまり話すのは得意ではないので」 路面電車で並んで座った海江田に話しかけられても終始無表情の春希。 「ずっとお付き合いのある、青木くんと黄嶋くんの前でもあまりお話していないんですか?」 「そう…だと思いますけど、それが何か?」 「赤木くんは饒舌になる事がないのかな、と思いまして。あぁでも、恋人とふたりの時はきっとお話しますよね」 こいつ、春希に彼女がいるって思ってるのか? それとも俺たちの事、探ってるのか? 「まぁ…そうですが」 春希、顔色ひとつ変えないで応えてるの、流石だな。 「恋人がいるなんて羨ましい限りです。僕にも素敵な出会いがあるといいのですが……」 ずっと笑顔の海江田の言葉が本音なのか別の意図があるのか分からない。 あまり不審がってもこっちが不利になるだけだけど、やっぱり明日南に近い存在っていう事で信用するのはまだ早いかもしれない。 そんな事を思いながら俺は電車を降り、目的地を歩いていた。 観光地として有名な倉庫群。 ここで昼飯を食べたりお土産を買おうとしてたんだけど、昼飯を食べるのにお店をどこにするか話し合ってる時、海江田のスマホが鳴った。 「あっ、明日南くん、今どちらですか?」 俺たちから離れて通話しようとする海江田。 倉庫の角を曲がって姿が見えなくなり、しばらくすると、 「は、離してください!!」 という海江田の叫び声が聞こえた。 「な、何だ!?」 恐怖に包まれた声。 俺は走って声の方に向かってた。 「助けて!!」 「!!」 視線の少し先、ガラの悪そうな男に抱えられてる海江田。 「何してんだよ!!」 俺、思わず叫ぶ。 そこには10人いるかいないかくらいの男たちがいた。 「おっ、こっちのガキも金持ってそうだな。連れてこうぜ」 「ボク、お友達に怪我させたくなかったら大人しくしてな」 そう言って、海江田を抱えている男の傍にいた男が顔に刃物を突きつけた。 「クソ……ッ!!」 真っ青になっている海江田。 よく分かんねぇ奴だけど、怪我させる訳にはいかねぇって思うと、俺は握りしめた拳を引っ込めるしか無かった。 もうひとりの体格のいい男が俺の方に来ると、ひとりが俺を羽交い締めにした。 「……春楓……?」 そこに、春希と春翔が走ってくる。 「おや?まだお友達が……」 ふたりは俺の姿を見た瞬間、凄い形相になってこっちに向かって走ってきた。 春希が刃物を持っている男に突進して腰を掴むと思い切り投げ飛ばし、春翔が俺を羽交い締めにしていた男に回し蹴りをくらわせる。 ふたりの攻撃をくらった男たちは気絶していた。 「……すみません、僕らの大切な友人に乱暴な事をしているのではと思いまして手加減出来ませんでした……」 春翔が今まで見た事のない、怒りに満ちた顔と声で残りの男たちに言った。 俺、ふたりのパワーに圧倒されて言葉が出てこない。 「お、覚えてろよ!!」 残った男たちは海江田と気絶した仲間を置いて逃げていく。 「あ…ありがとう、青木くん、赤木くん」 「怪我してない?海江田くん」 青ざめたままの海江田。 そんな海江田に、春翔はいつもの柔らかい笑顔を向けた。 「僕は大丈夫です。黄嶋くんは……」 「お、俺も大丈夫だ。てかお前ら、スゲーな!」 ようやく声が出た。 「かなりドキドキしたけど、上手く技が決まって良かったよ。春希も決まったみたいだね」 「ん……まぁね……」 ホッとした表情を見せるふたり。 …こいつら、今なら俺より強いんじゃね? 「ふたりとも強いんですね、あんな怖い人たちを相手に立ち向かえるなんて」 「強い?まさか。春希もそうだと思うけど、弱いから強くなりたいって思ってるだけだよ」 「そうですね。弱い自分を守るために強くなりたいと日々思っています」 海江田は驚いた顔をしてふたりを見ていた。 そこに割とすぐ明日南たちが来て海江田と別れたけど、別れ際、海江田は、 「君たちの事を知る事が出来て良かったです」 って話してたんだ。 ****************** 「あっという間だったな、修学旅行」 「あの後、あれ以上の事が起こらなくて本当に良かったよ」 「うん、でもあれって偶然だったと思えないんだけど」 帰り道、俺たちは電車の中でそんな話をしていた。 「それ、僕も思ってたんだ。春楓が困っている人を放っておけないって知ってる明日南が海江田くんまで巻き込んで仕組んだんじゃないかなって」 春希の言葉に対してそう話す春翔。 「海江田はグルじゃねぇって事?」 「うん、彼を信用した訳じゃないけど、今回の件に関しては彼は無関係だと思う」 「そっか……」 正直、俺にはよく分からなかった。 それよりもふたりが俺のためにあそこまでしてくれた事にビックリ、というかカッコ良かったっていう気持ちの方が大きかったんだ。 「大丈夫だよ、春楓。僕、昨日の事で自信ついたから。春楓の事、どんな事があっても守るからね」 「僕も。春楓の事、絶対守ってみせるから」 「おう!俺もお前らの事、守ってやるからな!!」 そんな話をして、俺たちは笑顔を交わしたんだ。

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