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第五章・3

「来たな」 「悪いようには、しないからよ」 「行こうぜ」  三人は、聖を取り囲み雑居ビルに向かった。  びくびくと怖がるふりをして、聖は彼らと歩いた。  本当は、もう怖くなんかない。  何があっても、強くいられる。 (だって、駿佑さんがおまじないをくれたんだから)  ほんの短い、キス。  だが、それは聖に勇気を与えるには充分だった。  電車に乗り、ビルに着いた。  エレベーターは壊れているので、歩いて階段を昇る。  埃の匂いのするビルの4階に、駿佑の待つニセの事務所はあった。 「こんにちは~」 「飛沢さん、いますか?」  間抜けた声に、駿佑の張りのある声が重なる。 「やあ、よく来てくれたね!」  初めて見るはつらつとした風の駿佑に、聖は驚いた。 (駿佑さんは、いろんな別の顔を持ってるんだ)  そしてそれは、全て掃除を遂行するため。  聖は黙って、三人の後ろに控えていた。

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